徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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白鷺館アニメ棟

シュターツカペレ・ドレスデン&「クラーナハ展」「ラスコー展」「ゴッホとゴーギャン展」&すみだ北斎美術館

 翌朝は8時に目覚ましをセットしていたのだが、6時に地震の揺れで目を覚まさせられる。テレビをつけると福島で地震とのことで、地震警報が福島沿岸に発令されたとのこと。NHKでアナウンサーがかつてない強い調子で今すぐの避難を呼びかけている。なんだかんだで1時間ほどテレビをつけていたが、幸いにして津波はそう破壊的なものではなく大した被害はなさそうである。ただ今回はこれで良かったのだが、こういうことが何回か続くと、そのうちに狼少年みたいになってしまわないかが心配である。「天災は忘れた頃にやってくる」というのはまさに真実で、あの東日本大震災はまさにその盲点を突かれたわけである。避難の呼びかけ一つをとっても難しさがある。

 ほっとしたところで再び眠ったら、次に目覚めた時には10時前になってしまっていた。着替えると慌ててホテルを飛び出す。

 今日の予定は美術館回りの後にサントリーホールでのコンサート。まずは上野に直行する。最初に立ち寄ったのは国立西洋美術館。ただ朝飯も食わずに飛んできたので、展覧会の前に美術館のレストランでランチを先に済ますことにする。

 ランチを終えると展覧会に入場。

 

「クラーナハ展-500年後の誘惑」国立西洋美術館で1/15まで

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 ドイツ・ルネサンスを代表する画家であるクラーナハ(と言っても、日本での知名度はそう高いように思えないが)を紹介する展覧会。

 クラーナハの特徴の一つは工房を運営して絵画を大量生産したりなど、いわゆるビジネス面で成功を収めたことである。そのためか、芸術家として作品にこだわると言うよりも、市場の要求に従って受ける絵を描いているという側面が感じられる。クラーナハの作品の中ではヴィーナスを描いたものが有名だが、独特のエロティシズムを秘めたその絵画は明らかに市場受けを狙っている姿勢がある。この作品をよく見るとどうもデッサンのバランスの悪さのようなものが感じられるのだが、それは当時の世間の好みに合わせたデフォルメらしく、いわゆる今日の萌え絵的要素が感じられる。

 技術的にかなり高いものを持っているのは明らかであり、その点での芸術性は感じられるのであるが、私の場合は上記のような商業主義的要素が雑念としてかなりちらついてしまったというところ。

 

 西洋美術館の展覧会を終えると隣の科学博物館を覗く。

 

「世界遺産ラスコー展」国立科学博物館で2/19まで

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 フランス南西部のヴェゼール渓谷の洞窟で発見された2万年前に描かれた壁画は、クロマニヨン人が高度な芸術意識を持っていたことを示す大発見であった。この壁画は1979年に世界遺産に指定され、現在は保存のために洞窟内への立ち入りは厳重に管理されている。今は非公開になっている洞窟の壁画を再現した施設も作られており、本展では世界巡回をしている再現壁画を展示している。

 会場内には洞窟のイメージを再現する形での展示となっている。実際にこの壁画を目にすると、その表現力の見事さに圧倒され、この作者はどういう意図を込めてこれだけのものを制作したのだろうかと考えさせられる。

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ラスコーの再現壁画

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獣の絵

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かなり力強い絵である

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この絵を描いた方々?

 会場を一回りしたところで疲労と共になぜか空腹感がこみあげてくる。そこで博物館内のレストランでパスタを頂くことに。何か最近、食欲が増しているような・・・。腹が膨れると上野で3軒目である。

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何かやたらに腹が減る

 

「ゴッホとゴーギャン展」東京都美術館で12/18まで

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 ゴッホとゴーギャンはアルルで2ヶ月共同生活を行ったが、その生活はゴッホが自らの耳を切り落とすというショッキングな事件で幕を下ろす。何かと因縁があるこの二人の画家の交流についての展覧会。

 一般的にこの共同生活でゴッホはかなりゴーギャンの影響を受けたが、ゴーギャンの方はゴッホからはさして影響を受けていないと言われているが、実際はゴーギャンの方もゴッホから刺激されるところはあったようである。ゴッホへのオマージュのような作品も残されている。また性格の不一致で悲劇的な結末を迎えた両者の共同生活だが、絵画に対する意見の不一致などはあったようだが、決してケンカ別れしたというわけでもなく、その後も書簡などによる交流はあったようである。

 どうも気むずかしいゴーギャンと精神が不安定なゴッホは、接近しすぎると破綻しないわけにはいかない組み合わせだったようである。もっともこの後のゴッホが後にまで残る傑作を次々と生み出していくのであるから皮肉なことでもある。

 結果として、この後のゴーギャンは世捨て人のように原始的な孤島に自らの芸術を追究していき、ゴッホは傑作を量産しつつも最後には精神が崩壊して自ら命を絶つことになってしまう。両者のこの接触は果たして幸であったのか不幸であったのか。特にゴッホを見ていると、傑出した芸術とは正気の元ではなしえないのだろうかという疑問を抱かずにはいられないわけである。

 

 上野の美術館を回ったところで次は今日新規にオープンした美術館を訪問することにする。それはすみだ北斎美術館。両国駅から東に少し歩いた公園の中にある。どうも距離的には微妙な場所である。今日がオープン日と言うことで、もう夕方の閉館時刻間近なのだが、チケット売り場に行列が出来ている状態。

 

「北斎の帰還-幻の絵巻と名品コレクション-」すみだ北斎美術館で1/15まで

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 100年余り行方不明になっていた「隅田川両岸景色図巻」の里帰り展示に加えて、北斎の名品を集めた開館記念に相応しい展覧会。

 北斎の版画については今更新味はほとんどないのだが、北斎の肉筆画はさすがに貴重であって見応えもある。版画では味わえない北斎の筆の線の巧妙さを堪能することが出来る。

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晩年の北斎と娘の応為

 この美術館では、関東大震災で焼失した「須佐之男命厄神退治之図」をモノクロ写真から色彩を推測して復元したものも展示してあった。これがなかなかに圧巻の作品。なおこの復元の模様の詳細はNHKでも放送されたようだ。

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須佐之男命厄神退治之図

 美術館の閉館時刻は5時半。そこまでいたらコンサートの開演時刻がかなり近づいている。慌ててホールに急ぐ。開場直後に到着したサントリーホールは昨日以上にガラガラ。5~6割の入りと言ったところか。1階にかなりまとまった空席があるのが気になる。やはりチケット価格が高すぎるのと、11月にコンサートが集中しすぎているのが最大の原因に思われる。

 

ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN
オーケストラ・プログラムⅠ

指揮:クリスティアン・ティーレマン
ピアノ:キット・アームストロング
シュターツカペレ・ドレスデン

ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op. 19
R.シュトラウス: アルプス交響曲 op. 64

 ベートーベンのピアノ協奏曲は、体調不良で来日不可になったブロンフマンに代わって若き俊英アームストロング。流れるようなテクニックは実に見事なのだが、残念ながら若さのためか演奏に陰影がない。曲目がベートーベンの中でも古典派的な作品であることもあって、サラリと流れてしまって印象に残らない演奏になってしまった。まだまだ若いので、今後さらに演奏と人生の経験を積めば超一流のピアニストになれる資質はありそうだが。

 アルプス交響曲に関してはドレスデンの重厚なサウンドでグイグイと押していく演奏。ただしパワーにものを言わせるわけでなく、そこは手綱を締めて抑制はかけている。ただ秘めた爆発力的なものがやや不足で、どことなく表層的な感じが否定できない若干不完全燃焼な印象の演奏。どこといって難はないのだが、なぜか今一つ盛り上がらないきらいがある。

 

 コンサートを終えると近くで夕食を摂ってからホテルに戻る。今日も結構疲れたが、東京での予定は今日で終了である。さっさと入浴を済ませてから明日に備えて就寝。