コンサートのダブルヘッダーに臨む
この週末は大フィルとN響のダブルヘッダーに繰り出すことにした。大フィルの方はコパチンスカヤがソロの上に、指揮は私が注目の若手のホープのカーチュン・ウォンということで外せないし、N響の方はフェドセーエフが来日とのことなのでやはりこれは外せない。ここのところプライベートの方で突発的に降って湧いたドタバタが発生しており、心身共にクタクタなんだが、だからこそ精神エネルギーを補給したいという意味もある。
まずは15時からフェスティバルホールで開催される大フィルの定期演奏会の方へ。土曜の昼の阪神高速は例のごとくに渋滞で予想よりは到着が遅れるが、どうにかこうにか予定の時間までに確保していた駐車場には到着できる。
既に開場時刻を過ぎていて開演までに余裕がないが、とりあえず今のうちに「而今」で「あさりそばの麺増量(950円)を腹に入れておく。コンサートの途中でガス欠になっては洒落にならない。
ホールは9割方の入りといったところか。カーチュン・ウォンはともかくとして、コパチンスカヤはかなりの集客力を持っていると思われる。
大阪フィルハーモニー交響楽団 第566回定期演奏会
指揮/カーチュン・ウォン
ヴァイオリン/パトリツィア・コパチンスカヤ
曲目/ハルトマン:葬送協奏曲
ラヴェル:ツィガーヌ
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
前半はコパチンスカヤをソリストに迎えての2曲。やや現代音楽がかった曲ではあるが、幸いにしても奇々怪々な曲ではなくて普通に分かりやすい。ハルトマンは葬送協奏曲と銘打っているが、単純な葬儀一辺倒な曲ではなく、時折激しい情緒も混じる複雑な曲。一方のラヴェルはいかにも彼らしい小洒落た曲だが、かなり現代音楽に近づいてきていることを感じさせる曲調。
このようなジャンルの曲になると、コパチンスカヤのまさに「怪演」と言っても良いようなテクニックが冴え渡る。いずれも超難曲と言っても良いように思われるのだが、それをこれでもかとばかりに力技でねじ伏せてくる。しかも単に技巧的に抑えつけているのではなく、なかなかに音色が深くて説得力を持って聴かせるところがある。
そしてそれを裏方に回って支えているのが、カーチュン率いる大フィルなんだが、カーチュンが率いるとオケの色彩が普段の5割増しはしてくるので、その鮮やかな音色がコパチンスカヤの妙技と合わさって絶妙の音楽空間を形成するので、決して私にとっては得意とは言い難い曲調が違和感なく心に落ちてくる。これは驚かされた。
コパチンスカヤの圧倒的な妙技に、場内は大盛り上がりとなった。さすがのところである。20分の休憩の後の後半はカーチュンによる幻想交響曲。
とにかくオケから極めて色彩的な音色を引き出すのがカーチュンの常であるが、その点は今回の幻想交響曲でも遺憾なく発揮されている。もっとも16型超拡大編成の大型オケのパワーでグイグイと押してくるかと思ったら、そこのところはむしろ抑え気味で、細かく各楽器のバランスに配慮して、様々なメロディを浮かび上がらせてくるのはカーチュン節である。
おかげでとんでもないパワーを秘めながらでも決して雑な印象の音楽にはならない。単にギラギラした色彩的な音楽だけでなく、そこに一ひねりを加えてくる印象で、カーチュンに早くも「老練」と言いたくなるような巧みさが見えた気がする。
大フィルの公演を終えるとN響の公演のために直ちに西宮へ移動する。ここでの渋滞とかが恐かったのだが、幸いにして道路は問題なく流れており、18時前にはホールに到着、無事にホールの地下駐車場に車を入れることが出来る。
開演までに1時間ちょっとあるので、長丁場に備えて腹に軽く何かを入れたいと思うが、こういう時に近場に何もないのがこのホールの難点。結局は駅の北側まで延々と歩いてケンタに立ち寄ることに。それにしてもケンタのフィレサンド。初期の頃に比べると二回りぐらい小さくなっている。これもいわゆるアベノミクスサイズという奴である。
ホールに戻ってくると既に開場時刻でゾロゾロ入場中。どうやら今回の公演は既に前売りだけで「完売御礼」の模様。相も変わらずN響はさすがの人気である。
NHK交響楽団演奏会 西宮公演
指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ
ピアノ:小山実稚恵
管弦楽:NHK交響楽団
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 Op.64
一曲目はサッカリンの砂糖漬けことラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。この甘美な曲に対して小山のピアノは相変わらずのガツンガツンとしたやや硬質なタッチである。しかしバックのフェドセーエフ率いるN響が公務員オケとの評に反するほどの実に甘美な演奏を行うので、正面のややクールな小山のピアノと適度なバランスが取れている印象。過度に甘美に落ちずに、それでいて甘さも兼ね備えたなかなかの演奏となった。
後半はもはや何十回聞いたか分からないというチャイコの超有名曲。これに対するフェドセーエフのアプローチだが、一曲目のラフマニノフの時にも感じたかなり甘美な演奏を繰り広げる。特に弦楽陣があのクールなN響とは思えないような実に甘美で艶っぽい音色を出してくる。元々からフェドセーエフはいわゆる単純な爆演型指揮者ではないが、ここに来てさらに色気を出してきたようである。こんなに艶っぽいこの曲を聴いたのは初めてという印象である。
その調子で最後まで終始一貫、確かにここ一番ではドカンドカンと派手なことはやるのだが、叙情性と言うよりもひたすら甘美さが正面に出た演奏を繰り広げていく。そしてそのままクライマックスへと大盛り上がりで大団円である。
コロナ禍でご無沙汰しており、数年ぶりに見たフェドセーエフは、やや足下が怪しくはなっているもののまだまだ健在ぶりで嬉しいところであった。
これでこの週末のダブルヘッダーは終了、満足して夜の阪神高速を突っ走って家路へと急いだのである。