2年越しのマーラーの3番
この週末は京都方面に遠征。目的は京都市交響楽団の公演。今回は広上指揮によるマーラーの交響曲第3番。このプログラムは以前に2022年の京都市交響楽団の広上ファイナルの定期演奏会で予定されていたが、コロナ禍の影響で少年合唱団の出演が不可になり、急遽マーラーの1番に変更になったということがある。これはこれでかなりの名演だったので満足はしたのだが、やはり3番を聴きたいという気持ちはずっとくすぶっていた(多分私以外のファンもそうだろう)。そこで今回満を持してのリターンマッチと相成ったようである。
今回の遠征は1泊2日。なお主に2日目予定の関係で移動は久しぶりに車を用いることにする。午前中に家を出ると新名神を突っ走って京都まで、途中の名神の左右分岐のところで事故があったらしく渋滞に出くわすが、幸いにして致命傷にならずに京都には概ね予定通りに到着。
最初の目的地だが、嵐山の福田美術館。現在、動物絵画の展覧会を開催中である(一応は夏休み対応企画なんだろうか?)。いつもの嵐山からやや離れてはいるが価格がまともな駐車場に車を入れると、福田美術館まで15分ほど徒歩。それにしても暑い。やはり京都の夏は凶悪である。そのせいか春などよりは観光客は少なめだが、それでも相変わらず嵐山は混雑している。
「福田どうぶつえん」福田美術館で10/1まで
日本画にも様々なジャンルがあるが、今回はどうぶつえんと銘打っての動物画の展示である。
まず動物画と言えばやはりこの人。虎の画家こと大橋翠石に兄の万峰の大橋兄弟の虎の絵から始まる。翠石の虎の絵は迫力といい、毛並みの質感といい圧倒的なものがあるが、兄の万峰のトラもかなりのものであり、翠石が描く虎と非常にタイプが似ている。
同じく虎の絵と言えば、与謝蕪村のものも展示されているが、これは明らかに猫を描いたものと思われ、どことなく愛嬌があり、大橋兄弟のもののような凄みはない。
後は定番どころとしては岸駒による鹿の絵などもあり。さらに翠石が虎の画家ならこちらは猿の画家である森狙仙の猿の絵も展示されている。
後は西村五雲の狐の絵や、山口華楊の兎の絵などが印象に残るか。
またいわゆるかわいい系の絵画として、ド定番中のド定番、円山応挙のモフ図こと「竹に狗子図」が登場。なお伊藤若冲も「仔犬図」を描いているんだが、これが微妙にかわいくないというのが奇想の画家。若冲は犬には鶏ほどには愛情を持たなかったのか?
なお川合玉堂も猫を描いているのだが、かわいいというよりはいかにも凜々しいのが玉堂らしいのかもしれない。
と言うわけでなかなか楽しめる動物画が多かったのだが、定番どころの獣の竹内栖鳳や馬の橋本関雪などが登場していないのがやや物足りない。こちらは後期に登場するんだろうか? なお応挙のモフ図が出るのなら、中村芳中のモフ図も見たいところである。
美術館の見学を終えると灼熱地獄の中を車を回収してホールに向かうが、開演までに昼食を終えておく必要がある。とは言うもののこの界隈は選択肢は多くない。akippaで確保した駐車場に車を置くと、ダメ元で「東洋亭」を覗く。正午を少し過ぎたまだ混雑する時刻だったが、待ち客は10組ほど。まあこれだったらマシな方だと判断して待つことにする。
待ち時間30分ほどで座席に案内される。私が注文したのはビーフカツレツのCランチ。
最初は例によってのトマトサラダという名の丸ごとトマト。例の如く謎の美味さ。もっとも今回のトマトはいつもよりもやや甘味が少ない気がする。
その後はマッシュルームのスープ。サッパリとした口当たりの良いスープである。
そしてメインが登場。ややレアカツ気味だが、殊更に「生」をしていないのがポイント。付け合わせの人参が美味い。
最後のデザートはお約束の100年プリン。このしっかりとした懐かしいタイプのプリンはもろに私の好みである。
久しぶりの贅沢な昼食を終えるとホールへ移動する。ホールは既に開場しており多くの観客が入場中。なお今回のプログラムに対して期待していたのは私だけではないようで、チケットは早々と完売の模様。私の席は例によって三階の正面だが、ここから見たところ二階席、三階席はほぼ満席。一階席は会員席にちらほらと空席がある。この暑さだし、長大プログラム(トイレ休憩なし)ということで避けた高齢会員などもいるかもしれない。なお会場入口にフラ拍やフラブラを禁止する貼り紙が出ていたんだが、さては昨晩の公演でやらかした無粋な馬鹿がいたのかもしれない。
京都市交響楽団 第692回定期演奏会
[指揮]広上 淳一
[メゾ・ソプラノ]藤村 実穂子
[合唱]京響コーラス(女声)、京都市少年合唱団
マーラー:交響曲 第3番 ニ短調
今日の京都市響は16型という大型編成であるが、冒頭から8本のホルンが迫力満点で非常に格好良い。もういきなりその音色で魅せてくる。もっとも広上のアプローチは決して焦ることがなく、堂々とした抑え目のテンポで京都市響の華麗な音色を引き出していくという内容。もっとも広上であるからテンポは抑えても決して演奏自体は地味にはならない。むしろ京都市響の演奏は極彩色の派手系の音色を出しており、広上もここ一番になるとテンポも音量も急に上げてくるなど、広上らしい外連味もある演奏である。
圧巻の第一楽章を終えると合唱団の入場があって小休止。その後の第二楽章はいささか軽妙な音楽である。それがサクッと流れるとソリストの入場があって第三楽章。この楽章は舞台裏から聞こえてくるポストホルンが圧倒的。その圧巻の表現力が楽章全体を締める。さらに管楽陣ソロの演奏も光る。京都市響ってやっぱり奏者のレベルが高いと実感できる内容である。
第四楽章になるとメゾソプラノの藤村が登場。さすがの表現力に、驚くのはオケにひけをとらないその力強さ。この楽章はこの藤村の圧倒的な歌唱に没入しているうちに終わってしまうという印象。
そしてコーラスが登場しての軽妙なビム・バムの第五楽章。なんか心地よすぎるうちにさらりと流れてしまって長大な最終楽章となる。
これが美しい、とにかく美しい。弦楽合奏中心で展開する楽章なのだが、その弦楽陣の密度と表現力が圧倒的である。もう京都市響の技倆をこれでもかと見せつけるような演奏。また広上もさすがにツボを突いて盛り上げてくる。こうして聞くと第2番に続いて、第3番も終盤で天国が見える音楽なんだということが良く分かる。信仰心皆無(というよりも宗教を敵視している)私でも、マーラーの宗教観というのが感じられる演奏となっている。思いっきり盛上がったところで壮大なフィナーレを迎える。
音楽が空間に消えていき場内が凍り付く(この余韻を楽しめない奴は本当に音楽が分かっていない馬鹿である)。そして広上の硬直が解けたところで場内に爆発的な拍手が起こる。ここまで聴き応えのある演奏をしたら、観客も盛上がらないと嘘だというものである。それにしても京都市響は上手いし、広上の聞かせ方も上手い。
2年待たされた分の元は十分に取れる見事な演奏であった。そう言えば今月は尾高/大フィルの2番に次いで、連続でマーラーの大曲を聴いたことになるが、共に非常にレベルの高い演奏で満足度は高かった。まさに音楽を堪能したという感が強い。
コンサートを終えて会場外に出ると、黒い雲が湧き上がって雷鳴も聞こえる状況。駐車場までに行く内に雨に降られるとタチが悪いので車のところに急ぐ。幸いにして車に到着するまでは天候は持つ。
ここからホテルまで移動。今日宿泊するのはアズイン東近江能登川駅前。その名の通りに能登川駅の駅前にあるホテルである。駐車場、大浴場完備ということで今までも何度か私の遠征の宿泊予定ホテルに浮上したものの、なぜかその度に予定変更などで、いつも宿泊パスになっていたホテルである。今回で5度目の正直ぐらいか。
三千院方面を経由してびわ湖大橋を渡るルートでホテルを目指すが、途中から雨が降り始める。びわ湖大橋を渡ったぐらいから雨の量が洒落にならなくなってきて、断続的にバラバラと目の前が見えなくなるぐらいの強烈な雨に襲われる。1キロ走るごとに雨の降り方がまるで違うという目まぐるしい天候である。
ようやくホテルに到着して駐車場に車を入れるが、その時には豪雨はピーク。雷鳴が轟き、バラバラと車に雨が叩きつける状態。ホテル裏口までの距離は10メートルほどなので、兵庫の斎藤知事でもない限りは歩くことに問題のない距離だが(斎藤なら玄関まで歩かされただけで部下を怒鳴りつけるそうだが)、この雨の中をキャリーを引っ張って出ていく気にはならない。この風雨では傘など役に立ちそうになく、玄関に到着するまでキャリーも私もずぶ濡れになるだろう。やむなくそのまま雨がいくらか小降りになるまで車の中で待機することに。
10分ほど待機した後、ようやく一時的に雨が弱くなったのでホテルの裏口に飛び込む。チェックイン手続きを終えて入った部屋は普通のビジネスホテル標準構成。照明が若干暗めなのをデスクライトで補っているタイプ。
作業環境としては十分であるので直ちに仕事環境を構築するが、長時間ドライブによる疲労もあってしばし休憩。
一息つくと夕食のために町に繰り出す。しかし駅周辺には飲食店は決して多くない。見つけた寿司屋を覗いたが「予約客以外はお断り」とふざけたことを言われる。他の店を探すのも面倒くさいし、また雨が強くなってきたしで、結局はとなりのスーパーフレンドマートで半額寿司を購入して帰る。これで1000円程度なのでCPは最強だが、旅情が完膚なきまでに吹っ飛ぶという副作用がある。しかしそれは目をつぶることにする。
夕食を終えると大浴場へ入浴に行く。大浴場は浴槽も十分に大きくなかなかにくつろげる。ガチガチになった体を湯でほぐすと、脱衣場にあったマッサージチェアでさらに体をほぐす。かなりくたってはいるが、フジ医療器の高級マッサージチェアが標準装備されているようである。長距離ドライブのダメージは大きく、全身を15分、腰をさらに集中的に15分たっぷりとほぐす。
部屋に戻ると執筆作業・・・のはずだったが、もう本格的に疲れが回ってきていて頭が完全停止。結局はベッドの上でゴロンと横になってwebをチェックしている内に眠気が強烈に押し寄せるので、途中でそのまま寝込んでしまう。
この遠征の翌日の記事