徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

ロンドン交響楽団の来日公演で、桁違いの演奏に唖然とする

図らずしもパッパーノのダブルヘッダーになる

 翌朝は目覚ましをかけた8時まで爆睡していた。疲れが溜まっていた上にベッドが合っていたのか、さらに平日のためか客が少なくて静かだったこともあって久々に爆睡である。眠気や疲労が全くないわけではないが、体調は比較的良い。

 とりあえず朝食のために繰り出す。向かったのは「カフェ・ド・イズミ」。開店から少し経っていたが、平日が幸いしたか一人だったおかげで席に着ける。いつもならチキンサンドを頼むところだが、今日はパターンを変えて小豆デニッシュとアイスコーヒーのセット(550円)を注文する。

久しぶりに「カフェ・ド・イズミ」

 デニッシュトーストのわずかな甘味とバターの塩味に小豆の甘味の組み合わせが美味。また朝一番にはやはりこういう甘味がいくらかあるものの方が入りやすい模様。

アイスコーヒーに

小倉のデニッシュトースト

 朝食を終えてホテルに戻ると、チェックアウトの10時までに昨日の原稿をまとめてブログをアップ。それを手早く片付けると荷物をまとめて10時にチェックアウトする。

 

 

 さて今日の予定だが、10時50分から大阪ステーションシティシネマでロイヤルオペラハウスの「アンドレア・シェニエ」が上映されるとのことなので、それを鑑賞しようという考え。大阪に向かうべく新今宮に行ったら、天王寺と今宮で同時飛び込みがあった模様で、ダイヤがガタガタになっていて焦るが、幸いにして間もなく20分遅れの大和路快速が到着する。

 大阪駅に到着すると、とりあえず動きを妨げるキャリーを構内コインロッカーに入れてから劇場へ。ステーションシティシネマは以前に訪れた時に売店を改装中だったが、どうやら注文を端末にして、ドリンクはドリンクバーという名のセルフ化で窓口人員を大幅削減した模様。こうやって世の中の雇用がなくなっていく。

窓口人員を大幅削減した模様

 

 

ロイヤルオペラシネマシーズン ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」

【指揮】アントニオ・パッパーノ
【演出】デイヴィッド・マクヴィカー
【キャスト】アンドレア・シェニエ:ヨナス・カウフマン
マッダレーナ・ディ・コワニー:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カルロ・ジェラール:アマルトゥブシン・エンクバート 他

 フランス革命後のロペスピエールによる恐怖政治による粛清の嵐の中で、反革命的との理由で処刑された詩人、アンドレア・シェニエのエピソードを元にして膨らませたオペラ。

 主人公のアンドレア・シェニエには実力人気を兼ね備えたテナー、カウフマンを起用、ヒロインのマッダレーナにはベテランソプラノのラドヴァノフスキーを起用という手堅い布陣だが、その中で抜群の存在感を見せたのがジェラールのエンクバート。上演前の解説で「この作品の主人公は実はジェラールではないか」との話が出ていたが、確かに本作においてはジェラールの存在感がかなり大きく、その苦悩はまさに今日でも普遍的に我々に投げかけれるもののように思われる。

 特にストーリー序盤はシェニエの存在感が意外に小さいせいで、余計にジェラールの存在感が増す印象がある。その重要な役割をエンクバートは抜群の安定感で演じきっており、それがドラマ全体を引き締めている。この作品、実際に終幕でのドラマをジェラール中心に切り替えたら、いつでもジェラールの作品になるというところがある。

 カウフマンとラドヴァノフスキーの絡みは、カウフマンに若き詩人の割には意外と甘さがないという感はあるが、総じて安定しており流石である。もっとも若き詩人と若き貴族令嬢の恋というには、アップになった時のビジュアルがしんどいのはオペラの宿命。

 作品的には変に宗教的教訓を持ち込もうとするヴェルディと違って、ジョルダーノの作品は非常に納得性があってドラマとしても説得力があるもの。音楽面での劇的盛り上げはヴェルディほど露骨ではないが、それでも音楽と舞台が連携してストーリーを盛り上げるようになっている。

 と言うわけで説得力のあるドラマを、説得力のある歌手陣が演じたというところで普通に盛り上がれる。ジョルダーノの作品といえば、昨年にMETの「フェドーラ」でいたく感心したところだが、あの作品にしても狂気としか言いようのない女王の行動も、その狂気に説得力があって「なんでそうなる」がなかった記憶がある。たった2つの作品だけで云々するのも早計だが、ジョルダーノはもしかして現代人に感性が近い人物だったのだろうかなどと妄想する。とにかく単純に音楽だけならヴェルディに軍配を上げるが、オペラを演劇も含めての総合的作品として評価したら、目下のところならジョルダーノに軍配を上げる。

 なお今回の公演は長年ロイヤルオペラハウスの音楽監督を務めたパッパーノのラスト公演とのことをやたらアピールしていた。そこで気がついて今日のロンドン交響楽団のチケットを確認したら、指揮者がパッパーノだった。どうやら彼はキャリアをオペラからオケの方にシフトさせたようだ。もっとも彼がこれでオペラとの関わりを止めるとは考えにくく、ロイヤルオペラ関係者のインタビューもことごとく「いやー、その内にオペラが恋しくなって帰ってくるだろう」というニュアンスだったのが記憶に残る。まあ彼とてオペラキャリアをここで中断するはずもなく、むしろさらにキャリアを拡大しようという考えだろう。その真価の方は今日の夜の公演で分かるだろう。

 

 

昼食は久しぶりに「美々卯」で

 オペラ鑑賞を終えると夜のコンサートまでの間に美術館に立ち寄るつもりだが、その前にとにかく腹が減った。1階下のフロアの「美々卯」を訪問して「鴨うどんと寿司のセット(2400円)」を注文する。

10階レストラン街の「美々卯」

 さすがに高級店美々卯らしく内容は上品で価格も高い。しかし流石に厚切りの鴨肉は軟らかくて美味いし、うどんも実に美味(出汁の味は下品な私にはやや物足りなく感じるにも関わらずだ)。うどんからデザートに至るまですべてが実に美味。やっぱりここはただ価格が高いだけの高級店ではない。とは言うものの、やはりCPという概念で考えたらかなり下位なのは事実だが。

流石に美味い高級鴨うどん

 昼食を終えたら中之島美術館へ。目的はここで開催中の「トリオ展」。結局はここで私の美術館滞在としてはかなり長い2時間近くを要して閉館の5時手前までいることになる。なお本展記事については書いていると長くなりそうなので、後日別にまとめて記載することにする。

中之島美術館の催し物

 

 

 美術展の鑑賞を終えるとホールへの移動。しかしこれが実は嫌らしい。この美術館からザ・シンフォニーホールへ移動となると、かなり引き返して肥後橋駅に戻ってから大阪でJRに乗り換えて福島という時間も手間も金もかかるルートになってしまう。で、時間もまだ十二分にあることだし、私の出した結論は「歩くか」

 結局は福島方面までプラプラと歩く。福島近くまで来るのに十数分というところか。途中で夕食をどうしようかと考えた時にふと思いつく。そうだ「イレブン」が移転したという鷺洲方面に繰り出してみるか。

 鷺洲地域は東西に長い商店街があり、人通りもそれなりにある。私から見たら長田の商店街を連想するような昭和風情もある場所である。飲食店もそれなりにある模様。で、「イレブン」が移転したのはその西の端ぐらい。なお残念ながら本日は夜営業なしのようである。まあこれは調査済み。そこでここの斜め向かいにある「グリル ニュートモヒロ」に入店することにする。

イレブンは今日の午後は閉店

そこで斜め向かいの「ニュートモヒロ」に

 内部はカウンターだけで10席もないという小さな町の洋食店である。年配のマスターが一人だけで店を切り回している模様。「イレブン」がここに移転した時、Googleマップでこの店を見て、これはまた正面からケンカを売るような場所だなと思っていたんだが、この規模の店なら勝算ありと読んでのことか? 入店すると「ビーフカツ(1200円)」を注文する。

ビーフカツ

 まあ可もなく不可もなくというところ。この価格だと小さな肉を寄せたようなカツになるのは致し方ないところか。付け合わせの味噌汁が妙に美味かった。

 夕食を終えるとホールまで歩く。所要時間ザッと15分弱というところか。どうしようもないほど遠くはないが、出来れば歩きたくない距離であり、仕事後にホールに駆けつける最中に立ち寄るのはほぼ不可能。立ち寄ることがあるとしたら、週末公演でよほどバターライスを食べたくなった時ぐらいか。なお道すがらに「鷺洲やまがそば」という店を見かけたのだが、私がいつも行く店がわざわざ「福島やまがそば」と書いてあるのはこのせいか。元々両店に何かの関係があるのかどうかまでは私は知らない。

 

 

 ホールに到着した時点でまだ開場の18時まで20分ほどある。結局は向かいの公園でこの原稿を執筆しながら時間をつぶすことに。しばしの後に開場時刻になるのでゾロゾロ入場。

ホール到着は開場時刻前

 入場すると喫茶でケーキセットでマッタリという堕落タイムを送る。前回はチーズケーキだったので、今回はイチゴとブルーベリーのケーキをチョイス。若干クセのある風味だが悪くない。

贅沢にも喫茶でくつろぐ

 ロビーではプログラムが1000円で販売されている模様。記念に購入する者も少なくないようだが、私にはそれでなくても高いチケットの上にさらに支出をする余裕がない。そもそも室内にプログラムの類いが多くなりすぎていて、良くて積ん読、下手すりゃ資源ゴミになるのがオチだし。

 しばらく喫茶で時間をつぶすと開演10分前ぐらいに着席。私が確保したのは三階左翼のバルコニー席2列目という完全見切れ席。これでも1万6000円である。

三階バルコニーの見切れ席

 なお会場の入りはとんでもなく悪い。全体でせいぜい4~5割というところか。3階席はほぼ埋まっているのだが、2階席はなどは1割を切っている状態のガラガラ。つまりは安い席だけが売れて、後は高い席の中でも一部の良席だけが売れて後は売れ残ったという状況。やっぱり明らかに価格が高くなりすぎて手が出ない者が多かったのだろう。この調子でいけば、来年以降は貧困化の進んだ日本にやってくる海外オケは激減しそうな予感。これもアベノミクス効果。

 

 

サー・アントニオ・パッパーノ指揮 ロンドン交響楽団

[指揮]サー・アントニオ・パッパーノ
[ピアノ]ユジャ・ワン
[管弦楽]ロンドン交響楽団

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」op.9
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第1番 嬰ヘ短調 op.1
サン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 op.78「オルガン付」

 ます一曲目はベルリオーズのローマの謝肉祭という知名度的に微妙な曲。しかし曲自体は煌びやかな良い曲である。やはりロンドン響は冒頭からそのアンサンブルの密度が桁違い。近年は日本のオケも技倆が向上して、アンサンブルの精度では海外に引けを取らないところが増えてきたが、どうしてもこのアンサンブルの密度ではまだ及ばない。いきなりのロンドン響サウンドに魅せられる。

 パッパーノはやっぱりオペラ指揮者だなというのを感じさせられる。この曲を演奏した時にやはりオペラの前奏曲的な演奏であり、さあいまから幕が上がるぞという雰囲気がある。ロンドン響から華麗なサウンドを見事に引き出している。

 二曲目はソリストにユジャを迎えてラフマニノフの「さらにマイナーな協奏曲」。ラフマニノフのピアノ協奏曲と言えば、圧倒的に知名度の高い2番があって、それから知名度的にはかなり落ちるが最近はそれなりに演奏され始めた3番があるが、今回は未だに滅多に演奏されない1番である。

 曲自体は2番ほどには甘くなく、少々泥臭さがある分、ロシア情緒がより強い曲である。実はロンドン響はロシアものにも定評があり、初っ端からなかなかに良い音で聴かせてくれる。

 ユジャの演奏は例によって華麗にしてアクロバチック。相変わらず軽業師のような演奏であるが、まあ決して技術だけに落ちる演奏でもない。歌わせるべきはしっかりと歌わせている。そしてパッパーノもさすがにオペラ指揮者か、ソリストを盛り立てるのは上手い。結果として非常に魅力的な演奏となった。

 場内は大盛り上がりで当然のようにアンコール。するとユジャがパッパーノをピアノに座らせるから驚いた。何と連弾でスラブ舞曲。ただどうしても絵面がキャパクラでのオッサン客とキャバ嬢のデュエットに見えてしまうところがある。なお演奏自体はやや急造感があり、パッパーノのピアノにユジャが合わせていたようだ。

 演奏終了すると、パッパーノが「これだけじゃ駄目だろ」と言わんばかりに直ちにユジャだけを座らせて「4羽の白鳥」。しかしこれがユジャアレンジ版かやけに派手な演奏でいかにも彼女らしい。

 それでも拍手は鳴り止まずユジャはさらにもう一曲。何かとんでもなくテクニカルでアクロバチックな曲が登場。パッパーノがピアノに寄り添う(絵面だけだとセクハラ親父みたい)から何やってるんだろうと思ったら、電子楽譜をめくる役だった。

 場内大盛り上がりで収拾がつかない状態。ユジャが2回ほど出入りしたところでコンマス引き連れて同伴退場、同時に会場照明を点灯して無理矢理に終了である。

 さて休憩時間。あまりに二階席がガラガラなので、これだったら問題なかろうと私はそっちに移動してしまう。なお回りを見渡すと同じ考えに至った者が少なからず。三階席からこちらに移ってきた客が結構いた模様。

 

 

 後半はサン=サーンス。ロンドン響は16型3管のフル編成でこの曲に挑む。16型のオケのパワーを活かしていきなりバリバリのサウンドスペクタクルを・・・としないのがパッパーノ。むしろ序盤は抑え気味である。ロンドン響の美しいアンサンブルを徹底して聴かせてくる。私自身この曲はどうしても単なるサウンドスペクタクルとして聴くようなところがあるので、こうして改めて聴かされるとそんな単純な曲でないことを再発見。序盤のさざめくような弦の胎動からゾクゾクするような情緒がある。

 第一部後半などは静かな曲調をさらに抑えて演奏しているのだが、心地よい緊張感が張り詰めているせいで弛緩せず、いわゆる眠い演奏には全くならない。むしろロンドン響アンサンブルの美しさが際立ってくる。

 第二部から徐々に上げてくる。そして怒濤のクライマックス。単なるサウンドスペクタクルにとどまらず、まさに血湧き肉躍る展開。この辺りはオペラのクライマックスを思わせるところ。

 当然のように場内はやんやの盛り上がりである。一向に収まらない盛り上がりにパッパーノのアンコールが。ここでとんでもなく美しい曲が登場と思ったらフォーレの「パヴァーヌ」。最近聴いたことがあると思ったら、つい数日前に関西フィルの演奏で聴いたところだ。関西フィルの演奏もかなりよかったが、申し訳ないがもう次元が違う。12型オケと16型オケの編成の違いなどという物理的次元ではない音色の厚さがすごい。しかも16型オケが全く乱れなく完璧なアンサンブルを聴かせるのであるからとんでもない。もう恍惚の状態で音楽に身を委ねるのみ。

 結局は最後まで次元の違う演奏だった。ラトルなきロンドン響もやっぱりロンドン響だったと言うよりも、パッパーノを迎えたことで新たに加わるものが出てきそう。なおパッパーノの演奏については、やはり原点がオペラにあることを感じさせ、ロイヤルオペラ関係者の言っていた「まあ、その内に帰ってくる」というのもあり得るかもと思った次第。

今回の公演はアンコールてんこ盛り

 

 

この遠征の前日の記事

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