昼までホテルでグダグダ
翌朝は目覚ましをかけた8時まで爆睡状態。全般的な体の不調は相変わらずだが、気分的には結構スッキリしている。とりあえず簡単に身支度すると朝食のために出かける。
向かったのは「カフェ・ド・イズミ」。現地に到着すると開店前なのに既に待ち客がいる。ここの最大の難点は、グーグルマップでの評価が異常に高くなったせいで、インバウンドを中心とした一見客が大量に押しかけて混雑するところ。まあグーグルマップの口コミ評価は工作などもあって信用できないものだが、ここの場合は自然に評価が高くなったものであるだろうし、そうなるのも納得は行く。
とはいえ、元々は老夫婦が常連を相手にマッタリと営業していた店だと思われるのだが、それが急にインバウンドバブルに巻き込まれて、対応しきれずにあたふたしている感は常に付きまとう。まあ常連さんが締め出されないように、常連客は別途開店前に入店させるなどの便宜を図っているようではあるが。もっともそのせいで開店と同時に私の前に待っていたグループと私が入店したところで店内は満席状態。その後もインバウンドが押しかけるしで、朝にゆったり過ごすという雰囲気ではないのは明らか。
もっとも私は別にここでモーニングをゆったりと摂るつもりはなく、単にCPの高い燃料補給をしたいだけなので問題はないが。今朝は小倉デニュッシュにホットコーヒーをつけて腹に放り込む。疲れている時はやっぱり甘めのものが欲しくなるものである。コーヒーもデニッシュも美味い。CPの高い喫茶店が多いこの界隈の中でも、まあ自然に口コミ評価が上がるのも分からなくはないが。
手早く朝食を腹に入れると、さっさと店を出てホテルに戻る。今日の予定であるが、14時開演の道義ファイナル以外は何もない。部屋に戻ると「チェックアウト時間延長」の札を表に出して入浴に行く。
昨晩は入浴する気力もないままダウンしてしまったことから、体が少々汗でベタベタしている。それをしっかりと洗い流してサッパリすると、ようやく昨日全くできなかった原稿執筆作業である。ただ下のフロアが大規模改修工事をしているようで、いささか喧しいのが難点ではある。
12時過ぎまで作業をしたところで、荷物をまとめてチェックアウトする。開演はザ・シンフォニーホールで14時からなので、それまでに昼食を終える必要がある。福島に到着するとどこで昼食を摂るか思案。「やまがそば」が開いているが、流石に2日連続で行く気はしない。カレーの気分でもないし・・・。結局は「まこと屋」に入店することにする。
注文したのは「熟成背脂醬油ラーメン+半炒飯」。炒飯はなかなかに美味い。ただラーメンの方は私の今の体調から行けば少々しつこいか。決してまずいラーメンではない(むしろ美味い方だろう)が、メニューの性質上状況を選ぶ。今日の私の体調では半炒飯は完食したが、ラーメンは半分食べるのがやっと。
昼食を終えるとホールへ。今回の公演は井上道義のファイナルということでチケットは完売、かなり多くの観客がやって来ている。中には遠方からの遠征組もいそう。おかげでホール内はごった返していて、喫茶もロビーも満杯の状態。こうなったら一番地獄の惨状となるのがトイレ。昨日から身体の不調に伴う消化器系のトラブルに襲われている私は、「先んずれば人を制す」とばかりに早々とトイレを制圧することに成功したおかげで事なきを得たが、ここでしくじっていたら大行列を前に最悪の絶望的状況に陥っていた可能性もあり。
そうこうしている内に開演時刻が近づいてきたのでホールへ入場。この公演はチケットもそこそこしたために、私が確保したのは二階奥の貧民席。チケット完売だから観客が多いのは当然だが、それに加えて空席の少なさが目につく。やはり道義ファイナルということで、チケットを購入した人は万難を排して駆けつけているのだろう。
井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.5【最終回】
[指揮]井上道義
[管弦楽]大阪フィルハーモニー交響楽団
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 「田園」 op.68
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 「運命」 op.67
ステージ上には8-6-4-4-2と小編成のオケが。最近流行の室内楽的な田園を演奏するのかと思っていたら、井上道義が目論んでいたのはそんな単純なものではなかった。
室内楽的小編成の田園となれば、ピリオドで端正にというのがお約束なのだが、井上が目論んだのは小編成でのモダン演奏。端正に淡泊にどころか、コッテリコッテリとした演奏であり、ステージでは井上のタコ踊りが絶好調である。
そこで繰り広げられる音楽は濃密にして情報量が多い。単純に美しいとかいう話ではなく、そこに盛り込まれているものが多すぎてこちらがついていけないほど。そのままめくるめくように第一楽章が終了する。
野鳥の鳴くさらに美しい第二楽章を経て、長閑な第三楽章、そして一転して嵐の第四楽章と怒濤のように曲は進む。この辺りもかなりニュアンスの多い演奏であり、井上の指揮も様々な意味を含んで躍動している。
そして嵐が明けて再び日がさしてくる美しい最終楽章。この盛り上がりが非常に感動的である。全体を通じて非常にロマンティックな演奏。小編成のオケはそれを明確に現すための装置だったようにさえ思われる。
この前半終了の時点で場内は大盛り上がりでいささか収拾のつかない状態になってしまったが、半ば強引に休憩に突入する。
後半は16型に一気に拡大しての「運命」。やはりモダンアプローチのパワー溢れる派手目の演奏。井上の指揮も先ほどのタコ踊りから一転して、かなりビシビシと決める緊張感の高い物で、オケに対する統率力が半端ない。オケも井上の指揮の下で一丸となって突進する印象。
とは言うものの、単に馬鹿みたいにパワー全開で突っ走るわけではない。そこは井上はしっかりと計算して、落とすべきところではストンと落としてくる。その結果として極めてメリハリの強い演奏となった。
第二楽章は緩徐楽章であるが、井上の演奏は意外なほどに荒々しい緩徐楽章としている。緊張感がこの楽章にまで持続している印象。
そして第一楽章の変奏のようなスケルツォの第三楽章。そしてここから盛上がっていって連続的に始まる第四楽章だが、この辺りになってくると血がザワザワと騒ぎ出すのを感じる。力強い第一主題が華々しく金管陣で奏された時にはもう「キター」という感覚。嫌でも盛上がるものであるが、井上はそれを徹底して盛り上げる。この辺りはまさに井上祭。そして曲は華々しく盛り上がっていき、最後は高らかな勝利の雄叫びのようなフィナーレへと。
元々この曲は暗から明へと転換し、最後は過酷な運命に対しての完全勝利を謳うかのようなところがある曲であるが、井上がここに込めたメッセージもやっぱり勝利であったのだろうか。井上のファイナルとしては確かにもっとも適した曲であるかもしれない。
最初からある程度予想されたことではあるのだが、会場はその事前の想像以上の大盛り上がりとなった。興奮して立ち上がる観客が多数。会場が割れんばかりの拍手に包まれて、井上は引っ込むにも引っ込めない状態。最後はサービス精神満開の井上が踊りながらステージから引き揚げたが、観客はそれでも許さなかったようで楽団員が引き揚げても拍手が止まない。ここで井上の一般参賀。これ以上は腰がキツいんで勘弁という様子で引き揚げる井上だが、それでも終わらずコンマスまで同席しての一般参賀二度目。そこでようやく井上は解放されたという次第。
実際のところ井上のラストを飾るに相応しい熱演で、多数来場の道義ファンも納得の演奏だったのではないか。なかなかのものを聞かせてもらえたと私も感謝しているところ。
結局は昨日のデュメイラストと共に実力者のファイナルを堪能した次第。世代交代というものは時間と共に必然であるのだが、自身も老境の入口にさしかかり、下の世代から押しのけられつつある私としては、いささか寂しい感覚もあったりするものである。
今回の遠征の前日の記事