徒然草枕

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ロトとT・ツィンマーマンによるヒンデミットのヴィオラ協奏曲

 最近になってアーカイブにアップされたロトとT・ツィンマーマンの共演したコンサートをデジタル試聴する。今回はあまり聞き馴染みのない曲ばかりである・・・と言うか、私が今まで聴いたことのある曲が一曲もない。果たして大丈夫だろうかとのいささかの不安はある。

www.digitalconcerthall.com

 

ベルリンフィルハーモニー管弦楽団デジタルコンサート(2020.10.10)

指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト
ヴィオラ:タベア・ツィンマーマン

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ 交響曲ニ長調
ヒンデミット ヴィオラ協奏曲《白鳥を焼く男》
J・S・バッハ ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタニ長調よりアンダンテ
バルトーク 弦楽のためのディヴェルティメント

 一曲目のカール・フィリップとは有名なヨハン・セバスチャン・バッハの次男坊らしい。古典派の走りのような位置づけの音楽家で、ハイドンなどにも影響を与えており、生前はむしろ親父さんよりも音楽家として名声が高く、父を尊敬する彼は常に「父の薫陶のおかげ」と言い続けていたとか。その後に段々と忘れ去られ、シューマンなどは「父親とは比較にもならん」と酷評だったらしいが、ブラームスは高く評価していたとのことだから、その辺りでもどういう位置づけの作曲家が見えてくる。

 で、演奏の方なのだが、ロトの指揮の下で整然と演奏するベルリン室内フィル(と呼ぶべきレベルの小編成)のオケは非常にシャープな演奏を繰り広げる。そのためか音色の燦めきなどがもっと後の時代の曲のように聞こえてくる。元の曲をよく知らないのでこれがカール・フィリップのそもそもの持ち味か、ロトが引き出したものなのかが定かではないのだが、なかなかに奇妙な印象である。

 二曲目は現代につながる時代の音楽という感じで、いきなり不協和音が炸裂するのだが、曲自体は意外に旋律的である。タベア・ツィンマーマンの演奏は軽快で縦横無尽、ベルリンフィルの名手達と丁々発止の掛け合いを繰り広げる。そのままアクロバチックな印象を残して曲は終了である。ヴァイオリンでなくてヴィオラなので基本的には音色は渋いのであるが、そこに煌びやかさを感じさせるのが彼女のすごいところ。

 会場の賞賛に応えてのアンコールはハープとの合奏によるJ・S・バッハ。相変わらず軽快さを感じさせる音色ではあるが、今度はしっとりと味わい深く聞かせてくる。実に情感深いバッハ。この辺りは流石と言うべきか。

 ラストはバルトーク晩年の新古典主義時代の曲らしい。クセはあるが、なかなか明快で躍動的な曲である。しかしこうして通して聞くと、ロトはカール・フィリップにヒンデミットにバルトークと明らかに時代背景が違う作曲家の曲を同じアプローチで演奏しているのではないかと思わせる。私がこの曲に詳しくないために他と比較しようがないのだが、今回聴いた限りでは明確で華やかな音色を前面に出したような演奏である。おかげで今回のベルリンフィルは全体を通して非常に色彩的な印象を受けた。


 あまり馴染みのない上に、不協和音が鳴り響いたりもする曲だったが、不思議なほどに抵抗を感じなかった。この辺りはロトの演奏が非常に明快だったことが影響しているように思われる。これがグチャグチャな演奏だったら、とても聞けたものではなかったろう。やっぱり現代に近い曲ほど、指揮者による楽曲の理解というものが覿面に影響するようである。さらに言えば楽団員の技倆も。