徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

春日大社を見学してから、ロシア・ナショナル管弦楽団の奈良公演を聴く

ホテルでマッタリしてから春日大社へ

 翌朝は8時前まで爆睡すると、混雑するレストランで朝食。ここは通常のスーパーホテルよりも設備的にワングレード上のホテルだが、朝食も通常のスーパーホテルの簡易朝食よりもワングレード上のようだ。和食に固執しなければそれなりに食べられる。焼きたてパンが結構うまい。

 朝食を終えると着替えて入浴。塩分濃度の高い湯なので温まるのだが、夏には少々暑いか。ホテルをチェックアウト(と言ってもスーパーホテルはチェックアウト手続きはないので、ホテルから出るだけだが)したのは10時前。とりあえず邪魔なキャリーは駅のコインロッカーに入れてから移動することにする。

 さて今日ここに来たのは奈良で開催されている音楽祭「ムジークフェストなら」の一環で招かれたロシアナショナル管弦楽団の演奏会を聴きに行くため。ただ単にロシアナショナル管の演奏会を聴くだけなら他でも良さそうだが、わざわざ奈良まで繰り出してきたのは、奈良の公演は補助でも出ているのかS席6000円と破格の安さだからである(普通は1万円を超える)。

 コンサートの開演は3時からなので大分時間がある。そこでその間は奈良の散策と洒落込むつもり。ちょうど春日大社で本殿の特別拝観がされているというのでそれに立ち寄ることにする。

 春日大社へは観光用の市内ループバスを用いる。奈良観光と言えば近鉄奈良駅から徒歩でというのが定番だが、JR奈良駅はかなり遠いので無理はしない。それにしても観光客が多い。今日はかなり混雑しているようで、早くも「春日大社駐車場満車」の表示が出ている。

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観光用ループバス

 

 

春日大社は観光客だらけ

 春日大社も団体客などでごった返している。あちこちでカメラを構える姿が。ところで誰かがカメラを構えると写真を撮り終わるまで待っているか後ろを通るのが日本人。構わずに前を横切るのが韓国人や欧米人という違いがある。なお中国人はカメラの前に割り込んで自分たちが写真を撮り始める。それにとにかくうるさい。

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春日大社の鳥居

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参道にも人が多い

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苔むした石灯籠

 春日大社では本殿の修復に際して神様にしばし引っ越し願ったらしい。で、神様が留守なので普段は聖域で立ち入り禁止の本殿に入れるということのようである。本殿へは観光客がゾロゾロと行列を作っており、拝観料は1000円という結構良い商売をしている。しかも内部は撮影禁止と来たものである。

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春日大社の社殿

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本殿はこの奥である

 行列に並んでかなりの時間をかけて本殿へとたどり着く。本殿は朱塗りの祠が4つ並んでいる。大体どこでも同じ形式なんだなと妙なところに感心すると同時に、意外と小さいなという印象も受けた。4つの神殿に4人の神様が祀られているが、その脇に天岩戸をこじ開けたことで知られる天手力男命という有名人も祀られている。

 春日大社の見学後は鹿がウロウロする中をプラプラと散策。それにしても同じ鹿でもここの鹿は神の使いとして大事にされるが、山にいる鹿は害獣駆除の対象になる。同じ鹿でも生まれで差別があるという非合理な気がする。人間の世もそうで、権力者の家に生まれてきたというだけで、どうしようもない馬鹿が権力者となって自己の利益のために国民を虐げる。これは明らかに世の中の間違いである。

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神社内は鹿がウロウロ

 

 

国立博物館に立ち寄ってから、近くで昼食

 その途中で奈良国立博物館へ立ち寄る。国立博物館では特集展示で工芸品の展示をしていた。とてつもない超絶技巧に唖然。日本の匠は恐るべしである。

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奈良国立博物館に立ち寄る

 博物館見学を終えたときには既に昼前。飲食店が本格的に混雑する前に昼食を摂っておきたい。さて、奈良で食べ物と言えばやはりこれしかない。立ち寄ったのは「天極堂」季節メニューの葛のセットを頂くことにする。

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天極堂

 葛入りのうどんが葛入りのドロッとした出汁の中に入っている葛うどんが絶品。ショウガの風味が夏にはよい。またやはりここの葛餅は最高。このプルプル感がたまらない。

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葛のセット

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くず餅付き

 食事を終えたところでまだまだ時間があるし、ついでにこれも季節メニューという「葛あんみつ」を頼む。あんみつは普通は味気のない寒天が入っているものだが、ここのはそれが葛餅になる。これはまさに絶品。最高にうまいあんみつである。

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葛あんみつ、実に美味

 昼食とデザートを堪能したところで1時前。もう一カ所立ち寄ることにする。

 

 

「田中一光 美の軌跡」奈良県立美術館で7/20まで

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 奈良出身のグラフィックデザイナー・田中一光の作品を紹介。

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 彼の作品の特徴は日本の伝統的な美術を独自の感性で翻案して現代的感覚の作品にすること。能公演のポスターでは、能面を幾何学的なデザインに取り込んで、斬新かつインパクトのあるポスターを作成していた。

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 花をモチーフにした作品群なども面白いが、独特の感性が特に輝いているのが文字をモチーフにしたシリーズ。展示室では同時に昔のかな文字文書を併せて展示していたが、確かに全く異なるようでいて感性には相通じるところが見られる。

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 終盤の歌舞伎役者をモチーフにした作品群も面白かった。これらは写楽の大首絵に刺激された作品だという。非常に現代的にも関わらず、どこかに日本の伝統美が見え隠れするという絶妙のバランスの面白さである。

 

 適当に入った展覧会だったが、思いの外に面白かった。さてもうすぐ2時。ホールに向かうことにする。と言っても開場の奈良文化会館は実はこの隣である。

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 開場は2時だが、ホールの準備に手間取っているとかで会場入りはしばし待たされる。20分ほど待ってからホールに入場する。

 結構大きなホールである。それと天井が高い。通常なら三階席になる高さが二階席である。おかげで一階席の奥の方が圧迫感がない。また地方都市の多目的ホールと侮っていたが、音響特性も意外と悪くなさそうだ(入場時にピアノの調律を行っていたので、その響き方で分かる)。少なくとも西宮よりは上である。

 

 

ロシア・ナショナル管弦楽団&セルゲイ・ナカリャコフ&牛田智大&奈良県立ジュニアオーケストラ

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ミハイル・プレトニョフ(指揮)
ロシア・ナショナル管弦楽団
セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)
牛田智大(ピアノ)
奈良県立ジュニアオーケストラ 

チャイコフスキー/弦楽セレナーデより 第2楽章
アルチュニアン/トランペット協奏曲変イ長調
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調 作品64

 一曲目はロシア・ナショナル管とジュニアオーケストラが一緒になっての演奏。こういうのが彼らの貴重な経験になれば将来が楽しみである。

 二曲目はナカリャコフの華麗なトランペットが炸裂する曲。なかなかに聴き応えあり。

 牛田智大を加えて三曲目はチャイコのピアコン。この曲は以前に小山実稚恵とチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラの組み合わせで聴いているが、オケの緻密さとピアノの滑らかさがより高見にある。牛田智大が登場した時は「子供か?」と思ったが、実際にまだ15才の天才ピアニストらしい。甘い顔立ちもあって、女性などからかなりのショタ人気があるアイドルピアニストらしいが、今回演奏を聴いた限りにおいては単なるアイドルに留まるピアニストではないと感じた。ガツンガツンと弾いていただけの小山実稚恵と違って、彼はタッチに柔らかさと滑らかさがあり甘美に謳わせる技も有しているようである。華奢な体つきをしているので体力的にまだ強奏部に若干の弱さがあるが、今後さらに体格が成長して体力が付いてきたらかなりのレベルになる逸材と感じた。10年後が楽しみである。外野に惑わされておかしな方向に進む(某女性指揮者のように芸能人枠扱いになったりとか)ことなく、順調にキャリアを積んでもらいたいものだ。

 最後はチャイコの定番中の定番。ロシアのオケはバリバリ鳴らすだけというイメージがあるが、このオケはアンサンブルの良いオケという印象を受けた。プレトニョフの指揮もいわゆる単純な爆演型ではなく、むしろ適度に抑制をかけてオーケストラを良くコントロールしている。圧巻だったのは第4楽章で、オケの能力を試すかの如くに細かく急激にテンポをコントロールしてダイナミックでドラマチックな表現を行っている。オーケストラも乱れずにこれに追随し大きな効果を上げていた。

 アンコールではロシアのオケらしくチャイコの雪娘から「道化師の踊り」で大爆発してきた。この辺りはフェドセーエフ&TSOのレズギンカのようなもので、ロシアのオケにはやっぱりこれがないとというサービスなんだろう。オケも指揮者もノリノリであった。

 

 客層を見た時には明らかに日頃クラシックのコンサートに来ているタイプではない者がかなり見られたので、演奏中はかなりドタバタが起こるのではないかと懸念していたが、案に反して全員かなり静かに傾聴していた(ホールが大きいので、時々どこかで咳や荷物を落とす音がしたりするのは仕方ないが)。また演奏の方も観客を退屈させないだけの中身のあるものであった。ただ観客の不慣れが現れたのがチャイコのピアコンの第1楽章が終わった時。華々しいフィナーレにつられて思わず場内の大半が拍手をしてしまった。私は「あちゃ-、やりおった・・・」という感じだが、プレトニョフは一瞬「おや?」という表情をしたが、淡々と後を続けていた。恐らくこの曲でこの手のことは初めてではないのだろう。ただオケの方は明らかに一瞬緊張感が途切れたのが感じられ、やはりこの手のミスには注意したいものだと思った次第。なお幸いにしてその後の交響曲第5番では楽章間で拍手が起こるなどということはなく、最後に何カ所かあるトラップポイントも無事に抜けて、フラ拍などの無粋なこともなく万雷の拍手と共にコンサートを終えたのである。

 なかなかに盛り上がったコンサートであった。やはりロシアのオケのパワーについては侮りがたいと感じた。特に金管にはその物理的なパワーがもろに反映する。やはり日本人の体力では金管奏者は厳しいんだろうか。日本のオケの金管奏者はどのオケでも欧米のアマチュアレベルなどという酷評もあるが、確かに金管に不安定さを感じさせるオケが日本では大半である。

 これで全日程の予定を終了すると、JR奈良駅でキャリーを回収してから家路へとついたのである。