徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

エメリャニチェフ/読響の圧倒的なシェエラザードにひたすら陶酔する

今日は平日遠征

 今日は水曜日だが日帰りでコンサート(読響の大阪公演)に出向くことにした。なお今週は私の勤務先が全面停電で、商売道具は使えない上に全館空調停止で灼熱地獄化は必至、「お前ら休むか在宅勤務するか出張するかのどれかを選べ」という状態。そこで月火は出張していたんだが、今日は通院もあることだし休みを取って午後から出かける(午前は病院)ことにした次第。

 いつもは仕事を終えてから急ぎ足で大阪に向かうところだが、今日は昼過ぎに余裕を持って大阪へ。早く出た分、一応の予定は考えてはある。三ノ宮で普通に乗り換えると隣の灘駅へ。目的地はここにある美術館。

BBプラザ、生憎この先の県美は今は出し物がない時期

 

 

「開館15周年記念コレクション展 |明日への出発| 後期:フランスの作家たちの物語」BBプラザ美術館で10/6まで

 この美術館の所蔵するフランス絵画を展示した展覧会。入場するといきなりロビーでロダン、ブールデル、さらにルノワールの彫刻作品が出迎えてくれる。

ロダンの「シュゾン」

ブールデル「ヴェールの遊戯」

ドガ「靴下をはく踊り子」

 なお一般的にはルノワールはあまり彫刻のイメージはないと思われるが、実際には結構な彫刻作品が知られており、そもそもこの美術館のシンボルのような作品がルノワールのヴィーナス像である。

ルノワール「ルノワール夫人の胸像」

ルノワール「ヴィーナス像」

 これ以外にダリの「融けた時計」の彫刻があって非常に面白いが、残念ながらこれは撮影禁止。ここを過ぎて展示室に入室すると、まさに先程の彫刻を思わせるようなルノワールの絵画作品が展示されている。

ルノワール「薔薇をつけた少女」

 

 

 展示自体はコローなどのバルビゾン派から始まるが、メインはいわゆるエコール・ド・パリと言われた時代の画家たち。展示が多いのはマルケやアンドレ・ドランなどだが、残念ながらこの辺りはあまり私の好みではない。

マルケ「ノートルダム曇天」

ドラン「女の半身像」

 撮影禁止だが、ヴラマンクの作品が数点あったのは私にとっては大きな収穫。見応えのある作品で、これだけで入場料の価値はあったと私などに感じられる作品群。これと並べてヴラマンクの洗礼を受けた佐伯祐三の作品が展示されているのが興味深い。これ以外にはユトリロもあったが、展示作は所謂「色彩の時代」の作品らしく、「白の時代」の作品ほどの深みは感じさせない。後はいかにものパスキンの作品などが印象に残り、いかにもと言えばローランサンの作品も展示されている。

ローランサン「読書」

 最後はいかにもいかにものシャガールの作品で終了。なおキスリングが一点あったのも私には収穫。

看板になっていたのはキスリングの「エニシダの花束」

 総じて展示作のレベルは高く。会場は小さいが入場料400円以上の価値はあったのではと思わされた。

 

 

 美術品を堪能した後は、JRで大阪に向かう。大阪に到着したのは4時半頃。会場はフェスティバルホールで開場は18時から。まだまだ時間がありすぎである。そこでやはり喫茶ででも時間をつぶすかと考える。で、大阪に到着すると一直線に「つる家茶房」に向かったのだが、店が開いていない。というか、そもそも店がある気配がない。どうやら8月一杯で撤退とのこと・・・。いつもそんなに客が少ない店でなく、私的には結構繁盛している店という印象を持っていただけにあまりに意外。まあ確かに人通りの多いビルではなかったが・・・。客入りの割には所場代が高すぎたんだろうか? それにしても私の行きつけだった店ほど閉店になるのはどういうわけか? 私の感覚が一般からズレすぎてるんだろうか?

 仕方ないので阪神百貨店を覗くことにする。喫茶店ぐらいあるだろうとの読みだが、5階の婦人服フロアにモロゾフのカフェがある模様なので、そこに立ち寄ることにする。場所柄、客の9割以上は女性で、たまに見かける男性はすべて女性の連れということで、私のような年配オッサン一人には風速50メートルぐらいのアゲインストが吹き荒れているんだが、この程度でひるんでいたら、今の世の中オッサン一人で生きてはいけない。ひるまず入店。季節メニューの「モンブランと飲み物のセット」を注文する。

阪神百貨店5階のモロゾフのカフェ

 後はしばしマッタリしながら時間つぶし。場所柄CPは良くはないが、ケーキ自体は栗粒とかも入っているようで実に美味い。まあ価格相応のクオリティはあるとのことで、場所柄を考えると良しだろう。なおアイスコーヒーは私が普通に飲めるものだから、本格的なわけではないのだろう(笑)。というわけで、ケーキをつついてアイスを頂きながら、今この原稿を書いている(笑)。

CPは良くないが、ケーキは美味い

 

 

 しばし喫茶でくつろいでからホール近くまで移動するが、入場までに夕食を摂っておく必要がある。フェスティバルゲート地下の店を物色するが、立ち食い寿司に行く気はせず、キッチンジローは行列ということで、「インディアンカレー」に入店する。

フェスティバルゲート地下のインディアンカレー

 インディアンカレーはチェーンのはずだが、私が以前に行ったことがあるのは学生時代にまで遡るので、味については全く記憶がない。今回数十年ぶりになるのだが、明らかに甘口カレーがベースだと思われるが、やけに舌にピリピリとくる独特のものである。甘口ベースのカレーは不快なものが少なくないが、ここのについてはまあ悪くはない。もっともこれで880円はCPも良くはないが。

なんか妙な魅力を持ったカレーである

 夕食を終えるとホールに。まだ開場10分前ぐらいだが、既にホールの前は観客でごった返している。やっぱり読響の公演は客が多い。ようやく開場時刻になるとゾロゾロと入場。会場内には何やら重苦しい背広族が控えているのは相変わらず。

本日はイケメンコンサートでもある

 ステージの配置は対抗配置のようで、金管は右手にティンパニと共にまとめてあり、中央後列にコントラバスがズラリと並ぶという独得の配置(カーチュン・ウォンが似たような配置をしていた気がするが)。

 

 

読売日本交響楽団 第39回大阪定期演奏会

中央後列に低弦が整列している

指揮=マクシム・エメリャニチェフ
トランペット=セルゲイ・ナカリャコフ

リムスキー=コルサコフ:序曲「ロシアの復活祭」作品36
アルテュニアン:トランペット協奏曲
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」作品35

 一曲目の冒頭から非常に鮮烈で色彩豊かな音色に圧倒される。まさにキラキラとした印象の音色である。元々技倆が高い読響のソリストから、エメリャニチェフは非常に巧みに美しい音色を引き出している。正直なところこの曲自体はややまとまりを欠く分かりにくいところのある曲なんだが、そういう細かいことを考えさせずに単純に音色だけで楽しませてくれる印象。

 二曲目はソリストのナカリャコフがやはり光る。いきなりかなり格好良い演奏という印象を受けるが、その通りに音色は力強くて美しい。緩急の表現力なども見事なものである。まさに圧倒的な表現力を有している奏者である。バックの読響のスゴさもあって、思わず聞き惚れてしまったというのが本音。

 さてメインのシェエラザードであるが、これも一曲目から予想されたとおりの演奏で、もう冒頭からその輝かしいまでの音色に魅了される。読響ソリスト達の名人芸が光るのであるが、エメリャニチェフはそれを最大限に魅力的に聞かせるように細かい仕掛けも行っている。よくよく聞いていると、細かいアクセントや揺らしなども駆使して、ソリストそれぞれの個性まで引き出させているように感じられる。極彩色の音色が嫌味でもなく下品でもなく、至高の美しい世界で繰り広げられるのである。音楽がまさに生々しくこちらに迫ってくることが感じられる。

 とにかく圧倒的という表現しかない演奏であった。もう聞き手としては細かいことは云々言わずにひたすらそこに繰り広げられる音楽世界に身を委ねているだけで至福の時を送ることが出来るという体験。正直なところ私としては完全に恍惚としてしまっていた。ここまでの体験はあまりない。まさに読響の技倆とエメリャニチェフの巧みな指揮があいまっての芸当だったと言える。実際のところ私は今までシェエラザードに関しては「部分的に魅力もあるが、全体を通してはやかましくまとまりのない曲」という印象を持っていたのであるが、それを見事に全否定して、かくも魅力的な曲であったのかと認識を改めさせてくれたのである。


 流石に読響は上手いなというのもあったが、エメリャニチェフの指揮には圧倒された。なお私はエメリャニチェフは初めての指揮者だと思っていたが、調べてみると実は2年前に関西フィルで聞いていたようである。

www.ksagi.work

 この時も関西フィルの能力を極限まで引き出す演奏に圧倒されたようである。この指揮者、やはり侮れないようだ。これは今後にかなり楽しみ。現在36才とのこと。38才のカーチュン・ウォンといい、この年代に侮れない新星が登場しているのは実に楽しみである。彼らが数十年後にどんな巨匠になっているかが今から期待されるのであるが、問題はその時に私が彼らの演奏を聴けるような状態であるかである。