今回はカナダのオケ
先週に引き続いて、この週末もコンサートに出向くことにした。先週は台湾フィルだったが、今週は海外マイナーオケシリーズ第二弾で国立カナダナショナル管弦楽団である。正直カナダのオケなんて聞いたことがないが、一応国立と銘打っているのなら、ベルリンシンフォニカーよりも下ということはないだろうとの計算はしている。
外来オケと言っても今の私の財務状況では、ベルリンフィルやウィーンフィルのような欧米の超一流にはとても手が届かない。その結果、このレベルのオケの最安席狙いということになってしまう。今年の来日オケなら、スイスロマンドやロッテルダムフィルぐらいなら無理してギリギリ届かないでもないのだが、どちらも見事に他のオケとスケジュール被りになっていてパスせざるを得なくなったことがツラい(いずれのオケも以前の来日でかなりCPの高い演奏を披露している)。
先週の台湾フィルはいろいろな意味で度肝を抜いてくれたが、果たしてカナダナショナルはどういう演奏を披露してくれるか。懸念事項は指揮者が無名なのと、プログラムがラフマニノフのピアノ協奏曲に運命というド定番であること(往々にして技術力の低いオケがこういうド定番曲を選ぶ)。
公演は14時開演なのでゆっくりと家を出ても良かったのだが、例によって電車賃を払って大阪まで出るなら寄り道をしよう考えて午前中に家を出る。立ち寄ったのは半年ぶりの山王美術館。この美術館は恐らく私などは一生関わりを持つことがないだろう高級ホテルモントレの所有である。

「山王美術館コレクションでつづるエコール・ド・パリ展」山王美術館で7/31まで

5階は日本画コレクションから始まる。まずは巨匠・横山大観だが残念ながら今回の展示作の中にはあまり力を感じる作品はない。それよりも惹かれたのは次の川合玉堂の作品。「急流」などは静かなのに水音が聞こえてきそうな激しさや生々しさも感じる作品。
次は馬の関雪らしく、二点とも馬の絡む作品。やはり馬を描かせたらこの人の右に出る人はいない。前田青邨は彼らしい歴史画的な「出陣」が目を惹くが、出陣前の緊迫の場面だと思うのに、どことなく長閑に見えるのはなぜだろうか?
東山魁夷はいかにもという作品群。大型本画版を見たことのある作品が数点。どうしてもそれらよりはインパクトが低いのは仕方ないところ。堂本印象はあまり奇っ怪な作品はなし。杉山寧はらしい作品、片岡珠子はいかにもの色彩爆発作品ばかりだが、個人的にはあまり好きでない。そして本館が力を入れている棟方志功の作品となる。
4階が表題のエコール・ド・パリの作品群だが、冒頭を飾るのは本館も力を入れているローランサン。ボンヤリとも見える画面に色彩がアクセントとなるが、「真珠で装うエヴァリン」の質感と色彩バランスが私にはもっとも好ましく映る。
次がユトリロだが、ここの収蔵品はややカラフルで軽快なものが多い。私はもっと重苦しく塗り込められたような白の時代の作品が彼らしいと感じるところ。モディリアーニの一品もあるが、あまり彼らしい特徴が顕著にでている作品ではない。
パスキンは相変わらずのボンヤリした作品。藤田については初期の重い静物画から「乳白色の肌」を確立した時期の作品に至る。その完成形とも言える「ダイアナ」は藤田があまり得意でない私の目にも美しく映る。またみっちりと描き込んだ「花」はいかにも晩年の藤田らしい作品。ここにクセの強い子供が加われば完璧である。
私的には白眉はキスリングか。彼らしさが確立する前の時期の作品から、いわゆる「陶器の肌」が確立した作品まで。彼の絵は晩年になるほどモデルの目力が増しているのを感じる。「二人の少女」「庭園の裸婦」などは、こちらに何かを語りかけてくる気がする。そして「ミモザとパンジー」はキスリングらしい静物画。
3階は日本洋画でやはり梅原龍三郎と安井曾太郎が登場するが、彼らの落ち着きのない派手な色彩は私の苦手なところ。神戸出身の私としては、それよりは金山平三の落ち着いた方形画の方が魅力を感じる。さらに小出楢重、坂本繁二郎と個性の強いところが続き、個性の塊のような岡鹿之助が登場する。奇妙な質感の絵だが、なぜか私は彼の絵は嫌いではない。そして精密な田舎の風景画の向井潤吉という私好みの辺りが続く。
後はひたすら駆り立てられるようにパリを描き続けた佐伯祐三の作品に、それとは似て非なるもっと軽快な荻須高徳の作品が続く。山口長男の作品は私には理解不能。最後は神戸出身の私にはなじみ深い小磯良平の端正な作品群。西洋人形を描いた作品が多いのは何かコレクションとしての意図があるんだろうか?
正直なところ既に目にしたことのある作品も少なくないのだが、それでも十二分に楽しめた。毎度の事ながらレベルの高いコレクションである。それと何となくコレクターのポリシーも感じられるところ。
昼食は日本式洋食店
美術館の見学を終えるとホールに向かう途中で昼食を摂ることにする。時間に余裕がありすぎるので聖天通りをプラプラ。久しぶりに「レストランイレブン」を訪問するすることにする。

日替わり定食を頼むことも考えたがそれもあまりに芸がないので、久しぶりにここの看板メニューの一つである「珍豚美人」を注文することにする。


豚の天ぷらに辛味のあるタレをかけたもの。あっさりとした天ぷらにこの特徴的なタレが変化を加えている。なかなかに美味くて食が進む。
満足して昼食を終えたが、今日は様々な予定が早め早めに進んでいるせいで、まだ開場までに30分ほどある。生憎と雨がぱらついてきたので公園で開場を待つのも嫌。仕方ないので「喫茶ピノキオ」に入店して、プリンパフェをつつきながらしばし時間をつぶすことにする。

しかし私は早食いのせいで、とにかく気をつけないと飲食店で時間をつぶせない人間だということを忘れていた。喫茶店でも下手をすると料理が届いてから5分で終了になってしまう。意図的にゆっくりと時間をつぶすことにする。それにしてもこのパフェ、見えない部分はほとんどをシリアルで埋めてあるので、やけに腹に溜まるパフェだ。先程ガッツリと昼食を摂ったのでいささかキツい。

ようやく開場時刻となったのでホールにプラプラと向かう。流石にホール喫茶に立ち寄る気にはならないが、喫茶は先週の台湾フィル並みに閑散としている。これは入りの方も予想できるところ。

私の席は先週に続いて3階バルコニーの見切れ席。いわゆるザ・シンフォニード貧民席である。客の入りは私の予想よりもさらに少ない。台湾フィルと違ってP席や3階正面席にも客を入れているが、客の姿はほとんどない。一階席も中央ブロックの中央よりも前半分がやや観客が混雑している以外はガラガラ。ほぼ満席は3階バルコニー席だけ。ホール全体で見ると2割も入っていない。かなり寂しい入りであるというしかない。
国立カナダナショナル管弦楽団

[指揮]アレクサンダー・シェリー
[ピアノ]オルガ・シェプス
[コンサートマスター]川崎洋介
[管弦楽]国立カナダナショナル管弦楽団
ケイコ・ドゥヴォー:水中で聞く(Listening Underwater)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 op.18
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 「運命」 op.67
まず冒頭に楽団員全員立ち上がってのカナダ国歌と君が代の演奏がある。カナダ国歌は初めて聞くがなかなかに格好良い曲である。しかし君が代はイデオロギーを一切抜きにしても音楽的にどうだろう。一本調子でメリハリのない曲なので、どうしてもオケの演奏では映えない気がする。せめてもう少しアレンジはないのだろうかとは思う。
プログラム一曲目はカナダの若手作曲家ケイコ・ドゥヴォーの曲。いかにも現代音楽であるが奇々怪々な曲ではない。表題の通りにいかにも水のイメージがある曲で、オケが細波のように音を出すのが印象的。ただ今ひとつ変化に乏しいのでやや退屈するところがあると言うのが私の正直な感想。
二曲目はラフマニノフの超有名なピアノ協奏曲。さっきの曲では今ひとつハッキリしなかったカナダナショナル管の技倆がここで明らかになるところ。結論から言うと下手ではない。ベルリンシンフォニカーなんかと比較するのはあまりに失礼というものである。
とは言うものの、一流かと言えば例えば欧米の一流オケと比較した場合に根本的に欠けているのが音色の味というか魅力である。欧米の一流オケとなると、○○サウンドと言われるような独自の艶や色気のある音色を出すが、カナダナショナル管の場合は音程的に正確な音は出すものの、そこに味がない。それが故にサッカリンの砂糖漬けであるこの甘々の曲にしてはやや色気が欠けて素っ気ない。シェリーの指揮はもっと情感を込めての歌わせ方を志向しているようにも覗えるが、オケがそれに対応し切れていない感がある。
シェプスのピアノについても、この曲を奏でるにはやや音色が硬質なのが気になるところ。歌わせることが出来ないピアニストと言うわけではないのだが、どうしてもタッチが色気を出すよりはやっつけの放りっぱなしになる印象。しかもだからといって力でねじ伏せるというほどの迫力もないので、いささか中途半端な感を受ける。彼女はアンコールでプロコフィエフの戦争ソナタを演奏していたが、どちらかと言えばテクニックにものを言わせて、こういう早いタッチでバカバカ弾く曲の方が合うようである。
というわけなので、破綻もなく下手でもないのだが、今ひとつの甘美さがなくて魅力のやや薄いラフマニノフに終始してしまった感がある。
休憩を挟んでの後半であるが、ド定番中のド定番の「運命」。冒頭からのアインザッツは流石に完璧。この辺りの技倆はカナダナショナル管に全く不安はない。また味に欠けるという弱点も、曲調とシェリーのサクサクと早めのテンポで進める演奏もあり、問題としては浮上してこない。
二楽章は弦楽アンサンブル中心に歌わせて、第三楽章以降は再びアップテンポ気味でクライマックスに向けて盛り上げる。シェリーもなかなか巧みにオケを煽っていて、一丸となって突き進んだという印象。終わってみるとまずまずの演奏であった。
大盛り上がりにアンコールは立て続けにブラームスのハンガリー舞曲の5番と6番。ここでオケはやや茶目っ気を発揮。色気には欠けるが茶目っ気はあるようだ。もっともまだまだ音色がくそ真面目な印象を受けるが。
観客が少ないにも関わらずの盛り上がりに、ここでまさかのアンコール3曲目。これはヒートアップした場内を静めるかのように美しいニムロッド。なかなかに美しい盛り上がりを見せて終演である。
先週の台湾フィルに引き続いてCPを考えるとまずまずの演奏を聴かせてもらえたようである。表現意欲に富むカリスマ指揮者が就任したら化ける可能性もあるオケに思える。先の台湾フィルにも共通するが、どことなく優等生的な印象を受ける。もっとも台湾フィルの方はメルクル節の炸裂であらぬ方向に行きそうな可能性もあるが。コバケンとハンガリー国立フィルみたいになるかも・・・。
