徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

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アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

関西フィルハーモニー管弦楽団 第306回定期演奏会

 昨日の大フィルに続いて今日は関西フィルの定期演奏会に出向くことにした。昨日に続いての地産地消である(笑)。週末の仕事をさっさと終えると大阪に移動する。

 夕食をどうするかだが、「福島やまがそば」に立ち寄って「鴨なんばそば」「おにぎり」を注文する。どうしても体調が今ひとつになるとそばなどの比率が増えてしまう。昔のようにガッツリ肉という気には最近はなかなかなりにくい。

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福島やまがそば

 ここのそばは私好みである。最近は白い更科そばの店が多いが、個人的には黒いそばの方が好み。そばの実を丸ごと挽いた挽きぐるみなんかでも私は食べるぐらい。元々の人間が下品に出来ているので、やはり上品な更科そばというタイプではないのだろう。

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ここのそばは私好み
 

 夕食を終えてホールに到着したのはちょうど開場直前。入口前に多くが行列して待っている。いつも感じる「非常に日本人らしい光景」である。すぐに開場になるのでゾロゾロと入場。

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ホールの前には人だかり

 それにしてもホールは中も外も完全にクリスマスモード。しかし私はクリスマスとは全く無縁の男。とにかく物心ついた頃に「サンタクロースはオモチャを売りたいメーカーがでっち上げた嘘」と親から教え込まれていた。また「キリスト教の祭りは浄土真宗の我が家には関係ない」とも言われた。しかし我が家は敬虔な浄土真宗門徒というわけでは全くなく(家庭内で親鸞聖人の名前を聞いたことなどない)、単に貧乏なためにクリスマスをスルーしていたということを理解したのは、かなり後になってからである。

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ホールの外はこれ

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そしてホールの中はこれ

 開演まではしばし喫茶で珈琲を飲みながら、この原稿でも入力して時間をつぶす(笑)。こういう時の私は、どうも横から見ると「お仕事」に見えてしまうらしい。しかし仕事とはこんなに真剣にするものではない(笑)。

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サンドイッチとコーヒーでマッタリする
 まもなく開演。今日の入りは8割というところか。ステージ上にはピアノが中央に鎮座していて、いつもとは違う雰囲気。

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 第306回定期演奏会

[指揮&ヴァイオリン]オーギュスタン・デュメイ

[ピアノ]上田 晴子

R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18【R.シュトラウス没後70年記念】
R.シュトラウス:メタモルフォーゼン(変容)~23の独奏弦楽器のための~ 【R.シュトラウス没後70年記念】
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」

  今回はデュメイのヴァイオリンリサイタル+関西チェンバーフィル+関西フィルといったイメージ。

 一曲目はデュメイのヴァイオリンソナタだが、伴奏ピアノの上田の演奏がやや力強すぎる感があり、デュメイのヴァイオリンよりも前に出てきてしまう。ヴァイオリンの音色がピアノの音色でかき消される場面も多々あり、いつもよりもデュメイの演奏がか細く聞こえてしまった。

 二曲目は弦楽だけの関西チェンバーフィルだが、デュメイの鍛えた関西フィルの弦楽陣がその威力を発揮するプログラム。なかなかに美しいサウンドで聞かせる。この曲ってこんなに密度が高くて美しい曲だったんだと改めて気づいた。

 最後がメンデルスゾーンのスコットランドだが、いきなり冒頭からデュメイ節が炸裂する。かなりのアップテンポでグイグイと引っ張る。また弦楽陣がさざめくようなかなり独特の表現。特に第一楽章、第二楽章に関してはこれだけの爆速テンポでの演奏は今まで聞いたことがない。第三楽章以降はもう少し落ち着いたテンポになったが、非常に独特でクセのある表現は相変わらず。随所にデュメイ独特の表情付けがある。

 スコットランドといえばロンドンレーベルのマークの名演があったが、あれはスコットランドの演奏の中でもかなりロマン派寄りの解釈を施した名演である。これに対して今回のデュメイの演奏はその対極に聞こえた。デュメイの演奏は以前から決して溺れないクールなところがあるが、今回もそれは端的に出ていた。そしてその響きはかなり古典的な曲にも聞こえる。また12編成といういつもより小さめのオケの構成もあって、室内楽的な響きがする時もある。とにかくデュメイが指揮すると、曲の構造とか構成がなぜかまざまざと浮かび上がってくるのである。

 何にせよかなり独特な演奏であった。それにしてもあんなクセのある演奏に問題なくついて行ける関西フィルもかなりデュメイの楽器として研ぎ澄まされてきた印象を受ける。

 


 コンサートを終えると新今宮に向かう。明日はMETのライブビューイングを見に行くつもりなので今日は大阪泊である。宿泊するのはいつもの定宿ホテルサンプラザ2ANNEX。なんかここもクリスマスデコレートされている。

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クリスマスデコレートされた私の定宿

 部屋に入るとまずはPCを起動して作業・・・と思ったのだが、PCがいきなりWindoews10のアップデートとかで全く触れない状態に。しかもそのまま延々と2時間以上その状態。さすがマイクロソフトのOSは、相変わらず仕事効率を最低限にまで落としてくれる。この辺りだけは昔から揺るぎない。

 仕方ないので現在この原稿はpomeraで入力している。結局はいつも一番頼りになるのはこのマシンということになってしまう。諦めてシャワーを浴びに行くが、帰ってきてもまだやっている。全く使えないOSだ。

 

 結局は3時間近くかかってようやくアップデートが終了。マシンをチェックするとストレージの残量が大幅に減少して、残りがわずかになってしまっていた。これはストレージの増強を考える必要がありそうだ。こうやってOSのアップデートのたびにマシン性能を圧迫し、ユーザーにハードの更新をうながそうとするのもマイクロソフトのいつもことである。

 とりあえずようやくマシンが使えるようになったところで原稿をアップして、今日は眠ることにする。

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第533回定期演奏会

 今日は大阪フィルの定期演奏会である。ここのところ、ウィーンだの、ベルリンだの、ロイヤルコンセルトヘボウだのと洋物の高級品ばかりを賞味してやや胃がもたれてきた感があったので、久しぶりの地産地消である(笑)。

 木曜の仕事を終えると大阪に移動する。夕食をどこで取るかに迷ったが、時間の余裕がないので遠くまで行ってられないし、やや疲れ気味で特に何を食べたいという気が起こらないので、久しぶりに駅ナカの「えん」「鯛茶漬け」を食べることにする。

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駅ナカの「えん」

 濃いめのごまだれに和えた鯛の身を出汁茶漬けで頂く。一番シンプルかつ一番ホッとするメニューでもある。

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鯛茶漬け

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出し汁をかけて頂く

 夕食を手早く終えるとフェスティバルホールに向かう。

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第533回定期演奏会

指揮/準・メルクル
ピアノ/児玉麻里、児玉桃

   ドビュッシー:子供の領分
         :牧神の午後への前奏曲
   武満徹:夢の引用
   シューマン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品97「ライン」

 ドビュッシーに関してはもう少しキラキラした感じが欲しいような気がする。メルクルは色彩的な演奏を目指している印象を受けるのであるが、大フィルの管楽器に今ひとつの冴えがなく、音色がやや暗いめ。そのせいか今ひとつ輝きを感じない演奏になってしまった。

 児玉姉妹のピアノは優美という印象。これが武満のキラキラした曲調と相まって非常に美しいサウンド。ただし曲自体はあまり印象に残らないところがある。

 ラインについてはメルクルの指揮は非常にキビキビしたややアップテンポ気味のものであるのだが、どうも大フィルがこのテンポについて行けていない印象を受ける。特に冒頭からいきなり飛ばし始めたメルクルについていけずに、弦楽器がややグチャグチャした印象に。その後も今ひとつのアンサンブルの甘さを感じさせる場面が多く、全体的にキレや冴えを感じさせない演奏になってしまった感がある。

 どうもメルクルの意図と大フィルの意志が今ひとつかみ合っていないというか、十分に意思疎通が取れていない印象を受けた。メルクルの指揮は躍動感のあるものなのであるが、大フィルから出てくる音楽には今ひとつ躍動感がなかったという印象。最後までどことなくちぐはぐな感覚が拭いきれなかったのである。世界の一流を立て続けに聞いたせいで耳が肥えてしまったのではないと思うが、今日の大フィルは正直なところ今ひとつという印象であった。


 コンサートを終えると直行で帰宅する。まだ明日も仕事である。正直しんどい。

 

カーチュン・ウォン/PACオケ&「下村良之介展」「黄昏の絵画たち」

 翌朝は早朝に中途覚醒なんかがあったせいで2度寝になってしまい、気がついたら8時になっていた。老化に伴う睡眠力の定家を感じる今日この頃。目覚めはかなり悪い。さて今日の予定だが、今日は西宮で開催されるPACオケの定期公演に出向くつもり。これが15時開演なので、それまでは近隣の美術館を回る予定である。

 とりあえずチェックアウト時刻の10時までの間に「健康ボックス」の録画をチェックして、教ドキュ用の原稿を仕上げてアップ。ドタバタと荷物をまとめると朝食を摂る間もなくチェックアウトする。

 今日の最初に向かうのはBBプラザ美術館。とりあえずキャリーは三ノ宮に置いておこうと思ったのだが、三ノ宮周辺は大規模な工事中でコインロッカーが全く見当たらない。仕方ないのでそのままゴロゴロとキャリーを引いたままの移動になってしまう。

 

 

美術館の前に昼食に洋食を摂る

 灘駅に到着したのは11時前。ちょうどのタイミングなので先に昼食に洋食SAEKIに立ち寄ることにする。私が到着した時には待ち客は10人ほど。とりあえず開店同時に入店できそうである。私が並んで待っている数分の間に、私の後ろには10人以上の行列が出来ている。とにかく毎度の事ながら人気店である。

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この店には常に行列がある

 開店と同時に入店すると、昨日食べ損ねた「ヘレビーフカツ定食」を頼む。実は昨日は「グリル梵」に立ち寄るつもりでいたのだが、私の到着時には既に閉店時間だった次第。あそこのミディアムカツとここのレアカツではタイプが違うが、ここのはここので美味い。柔らかいレアカツを堪能する。

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ヘレビーフカツ定食

 昼食を終えるとBBプラザ美術館に立ち寄る。今日は関西美術の日とかで入場無料という太っ腹。

 

 

「下村良之介 遊び礼讃」BBプラザ美術館で2/16まで

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 京都を中心として独創的な芸術活動を展開してきた下村良之介の画業を紹介するとのこと。

 下村は初期は強烈ではあるがオーソドックスな絵画を描いていたようだが、第二次大戦で復員後、画材もない中で陶芸用の土をもらって絵を描いている内に新しい境地に至ったようである。鳥をモチーフにまるで象形文字のような線を紙粘土で立体的に浮き上がらせた独特の作品の時代に至る。

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こんな感じの作品

 なおこの頃に陶芸にまで手を出したらしく、陶器作品も多数展示されている。またこれらの創作活動の一方で版画や挿絵を手がけたり、舞台美術に至るまでかなり幅広い活躍をしている。

 展示室内には還暦を迎えた地震の肖像を描いた作品もあるが、これがコラージュも組み合わせた独特で強烈な感性はあるものの、意外にオーソドックスで緻密な絵画も描いていたりなどとにかく捉えどころのない画家である。

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これが還暦の自画像

 美術館の見学を終えると阪神と六甲ライナーを乗り継いで次の目的地へと移動する。

 

 

「黄昏の絵画たち-近代絵画に描かれた夕日・夕景-」神戸市立小磯記念美術館で1/26まで

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 黄昏と言っても、絵画界が低迷して画家が黄昏れているという意味ではない。古来より光の変化が微妙な黄昏時の表現というのは画家にとっては挑戦的な題材であったと共に、夕暮れは一日の仕事の終わりの休息や終焉に向かいつつある人生の情緒などを感じさせる題材でもあり、洋の東西を問わずこの題材に取り組んだ画家は多い。

 まず最初は西洋編で、ターナー辺りから始まって、逆光を使って暮れなずむ風景を描いたコローらバルビゾンの画家たち、さらに彼らと交流のあったクールベの力強い波の作品なども登場。ミレーなどは夕暮れ時を農夫たちが仕事を終えてホッと落ち着く時と捉えて作品を描いているのが分かる。

 次は光そのものを追究した印象派になり、ここではモネやシスレーなどが登場する。さらに近代の辺りでカンディンスキーやファイニンガーといった辺りまでが登場するが、この辺りになると最早夕暮れの光を書くことが目的ではなくなっている感がある。なお同じ黄昏時の表現でも、時代が下ると共に明るく表現されるようになっているのは偶然だろうか。

 日本の洋画においても逆光を用いた夕暮れ時の表現は一つの課題だったという。最初はこの課題に真っ向から取り組んだ高橋由一の作品から始まり、浅井忠や和田英作ら初期日本洋画の力作が並ぶ。

 その後は黒田清輝に始まる自然主義的な夕日の描写から菱田春草や小野竹喬といった日本画まで登場。段々と混交した世界になっていき、最終的に梅原龍三郎あたりまで時代が下るが、ここまで来ると本当に夕暮れ時の絵なのかに疑問を感じるような状態。さらにはもう一つの流れとしての歌川広重の浮世絵から大正版画につながる流れも紹介。吉田博や川瀬巴水の作品が目を惹く。

 黄昏をモチーフにテーマがあるようなないような雑多な展覧会だったという印象。まあいろいろ見れてよしという考え方もあるだろうが。

 

 

コンサートの前に岡本駅前の喫茶で休憩

 展覧会の見学を終えると六甲ライナーとJRで摂津本山へ。ここから歩いて阪急岡本、ここからは特急で西宮北口にアクセスできる。ただ岡本到着時ではまだ時間に余裕があるようである。そこで少しお茶をしていくことにする。駅前の「belle-ville pancake cafe」に立ち寄って、スフレパンケーキとアメリカンコーヒーを頼む。

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岡本駅前の喫茶店

 スフレパンケーキは結構あっさりしており、バターには塩気があるのだが、そこに添えられている生クリームと小豆を加えると猛烈に甘くなる。ガムシロップまで添えられているが、これを使う状況は私には想像できない。これは小豆の追加は余計だった。なお珈琲はやや苦味が立ってるタイプで、アメリカンにしたのは正解。

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フワフワのスフレパンケーキ

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アメリカンコーヒー

 一息ついたところで岡本から西宮北口まで移動。ホールに到着した時には観客がゾロゾロと入場中だった。今日は新鋭カーチュン・ウォンにチェロがメネセスとのことだが、どんな演奏を聴かせてくれるやら。

 

 

PACオケ 第119回定期演奏会

指揮:カーチュン・ウォン
チェロ:アントニオ・メネセス
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 op.107
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」

 メネセスのチェロは圧巻の一言。音色が深くて表現の幅が広い。さすがの説得力があるチェロ演奏であり、メネセスのチェロが加わるだけで全体がグッと締まる。この曲は難曲とも聞いているのだが、このクラスのチェリストになると何事もないように軽々と弾いてしまうので簡単な曲に聞こえてしまう。しかもチェロがソロになっても、オケに対して音色的に聞き劣りがしないというのは驚きであった。

 後半の巨人はカーチュン・ウォンの指揮に圧倒される。とにかく表現力豊かであり、細かい仕掛けが無数にある指揮である。それが単なる虚仮威しではなく、細かい計算に基づいているのはよく分かる。全体のバランスも明らかに調整しており、ゆっくり目のテンポの中で金管を抑えめにして細かい旋律までも浮き上がるような設計になっていた。そして浮き上がってきた旋律は徹底的に謳わせており、そこには細かいニュアンスが施してある。非常に精緻な細工のような演奏である。

 しかしそれ以上に驚かされるのはオケの統率力。正直なところあまり上手いオケと言い難いPACオケの場合、これだけ仕掛けの多い指揮をされるとバラバラになりかねないところなのであるが、それをパシッと統率するのには舌を巻く。彼の指揮の挙動自体がメッセージを明確に伝えており(客席からもオケにどういう指示をしているのかが分かるぐらい)、それがオケのまとまりを崩さなかった大きな要因でもあろう。おかげで今日のPACオケは通常よりも一枚も二枚も上級のオケのような印象を受けた。

 

 

 これでこの週末の遠征は終了、帰途についたのである。とりあえずこれでウィーン、ベルリン、コンセルトヘボウの三大オケを網羅したことになるが、やはりキャラクターの強いのはウィーン、演奏技術の高いのはベルリン、これらに比べるとコンセルトヘボウは今ひとつカラーが薄いという印象を受けた。実際に三大○○と言えば、大抵は1と2には誰も文句を言わないようなものを持ってきて、3つめに自分が入れたいものを入れるというのが定番。例えば「世界三大天才と言えば、アイザック・ニュートン、アルバート・アインシュタイン、そして鷺だ」と言っておけば良いのである(笑)。

 そう考えるとNo3に入れるオケは人によって違いそうである。ちなみに私が30年ほど前にクラシックを聴いていたころには3つめにはニューヨークフィルを入れる人が多かった(バーンスタインが指揮した黄金時代である)。またシカゴフィルを上げる人もいた(こちらもゲオルグ・ショルティが指揮する黄金時代)。またニューヨーク、シカゴ、ボストン、クリーブランド、フィラデルフィアを指して「アメリカBIG5」という言い方もあった。しかしいずれも遠い昔の話である。ちなみにニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアについてはここ数年で来日公演を聞いているが、いずれも既に昔日の面影はないという印象であった。諸行無常、盛者必衰はこの世界でも真理のようである。

 

 

堺にパーヴォ/ロイヤルコンセルトヘボウのコンサートを聴きに行く

 ウィーンフィル、ベルリンフィルと怒濤のごとくに続いた散財ウィークだが、この週末はロイヤルコンセルトヘボウのために堺に繰り出すこととした。世界三大オケなどと言われているオケをこの一か月以内に網羅することになるが、これは多大なる財政的犠牲の下に成り立っていることになる。おかげで今の私は素寒貧である。

 土曜日の昼前に家を出ると大阪を目指す。新快速の車内では持ち出し番組をチェック。と言っても最近は疲れていてザ・プロファイラーなどのハードな番組(笑)をチェックする気力はないから、深夜アニメを見ることに。ただやはり最近のアニメってかなりパターン化しているのは感じる。異世界転生ものの類などは、主人公変われど話は変わらずという印象が強い。

 ようやく大阪に到着するととりあえず一旦駅の外に出て、昼食代わりに551の肉まんを購入することにする。やはり大阪と言えば551(神戸なら一貫楼なんだが)。それにしても暑い。日没後に冷える危険性を考えてダウンを持ってきているのだが、荷物になっただけだったか? 昨日なんかはこれがないととても表を歩ける状況ではなかったが・・・。こう毎日気候がコロコロ変わると既に若くはない体には応える。そう言えばもう世界は「気候変動」というレベルを超えて「気候危機」に陥っているという話があったが、確かにそう感じる。何しろ最近は「100年に1度」なんてのが毎年で、異常気象が常態化しているのだから。にもかかわらず相変わらずトランプは、地球温暖化を認めると自分が儲からないと現実逃避の一手。地球が滅ぶ前に、さっとあんな馬鹿は権力の椅子から引きずりおろしてくれ。こればかりはアメリカ人の良識に期待するしかないのだが、正直なところそれが甚だあてにならない。

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551の肉まん

 

新今宮のホテル中央セレーネで宿泊

 肉まんを買い求めると今日の宿泊ホテルである新今宮のホテル中央セレーネに移動。このホテルはオアシスと同じ中央グループのホテルで、この界隈では高級グループに属する。私の到着時はチェックイン時刻の15時まで少々時間があったのでロビー掃除終了を待つことに。その間に先ほどの肉まんを出してきて昼食。そしてポメラでこの原稿を入力している間に、掃除が先に住んだ部屋に通すと言われたので部屋に入る。

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ホテル中央セレーネ

 やはり部屋はこの界隈でも高級クラスだけに広い。また私の部屋は角部屋だったので2面に窓があって明るいのも良い。オアシスと違ってユニットバスなのだけが私の好みと違うが、その分はオアシスよりも宿泊料が安くなっている。私がこの界隈に出入りし始めた十数年前には、ここのホテルはホテル中央新館でもっと汚くてもっと安いホテルだった。リニューアルで全く別のホテルになったようだ。隣では本館のほうもリニューアル工事中のようなので、また高級ホテルに生まれ変わるのだろう。

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高級ホテル(あくまでこの界隈ではだが)だけに室内は広い

 今日のコンセルトヘボウのコンサートはフェニーチェ堺で17時から。新今宮からは南海で1本なのでアクセスはよい。あまり早く行っても仕方ないので、しばし部屋でくつろぐ。汗だくなのでシャワーを浴びたいところだが、さすがにそこまで時間はない。

 4時前になるとホテルから外出する。新今宮から南海の急行に乗車すると10分ほどで堺東に到着。ここから10分強の徒歩でホールに到着する。一般的にはあまりアクセスの良いホールでないイメージだが、こと新今宮からのアクセスと考えるとかなり至便。

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フェニーチェ堺

 ロイヤルコンセルトヘボウはウィーンフィルやベルリンフィルに比べるとチケットは安め。また堺公演は補助でも出てるのかさらに安めの模様。と言ってもそれなりの価格がするために、私が確保したのは4階のC席。フェスティバルホールの3階席よりもさらに高いとんでもない天井桟敷である。なおここのホール、チケット予約の時に座席を選べないという致命的な問題点がある。そのせいで最優先予約で申し込んだワルシャワ国立フィルは前方の端というとんでもないクソ席を割り当てられた(まるでチケットぴあである)。この点に関しては早急に改善するべきである。

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4階席はかなりの天井桟敷

 

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

〈指揮〉パーヴォ・ヤルヴィ

ベートーヴェン: 交響曲第4番 変ロ長調 op.60
ショスタコーヴィチ: 交響曲第10番 ホ短調 op.93

 ベートーヴェンはパーヴォらしく、やや早めのテンポでいささか素っ気ないほどに明瞭簡潔な演奏である。細かい仕掛けが全くないわけではないが、全体としては極めてオーソドックスな演奏。ロイヤルコンセルトヘボウの演奏はさすがの安定感なのであるが、サクサクした演奏のためにそれがあまり前面に出ない印象。完璧なアンサンブルであるが、普通に上手(もっともその「普通」のレベルが図抜けてはいるが)なベートーヴェンという感覚を受ける。

 これが後半のショスタコは一転してコッテリとした演奏となる。こうなるとしっとりとした弦楽器が非常に魅力的な音色を奏でるうえに、さらに驚かされるのは木管楽器の上手さ。抜群の安定感であり、奏者の技量の高さを感じさせる。パーヴォのテンポ設定はこの曲においてはややゆっくり目であるのであるが、それでも緊張感が途切れることがない。弱音と強音のダイナミックレンジの広さ、さらに全楽器が斉奏しても決して喧しくならないなど、演奏技術面は完璧である。パーヴォが少々仕掛けを施しても、そんなことでは全く動じない。これはさすがと唸らされる演奏であった。

 場内の大盛り上がりに、アンコールは2曲。くるみ割り人形からトレパークとシベリウスの悲しきワルツ。特に悲しきワルツが絶品。パーヴォにしては珍しいぐらいの濃厚な情感のこもったネットリした演奏。こういう美しい音色を聴くと、ロイヤルコンセルトヘボウの本領はこのタイプの演奏だという気がするのだが、どうもパーヴォの指揮はややクレバーで淡泊すぎるような気がしないでもない。今回パーヴォはこのオケのポジションを得たと聞いたが、果たしてパーヴォの指揮とロイヤルコンセルトヘボウのサウンドの相性はどうなんだろうと若干の疑問はないでもない。

 演奏終了後は大盛り上がり、団員引き上げ後も拍手は鳴りやまず、パーヴォの一般参賀あり。帰りも満足した表情の観客が多かった。

 なお天井桟敷の4階席であったが、思いのほかステージからの音が飛んでくるという印象で遠いという気はしなかった。もっともこのホールの音響特性はややデッドに感じられた。

 

夕食は新世界でまたもや串カツ

 コンサートを終えると新世界で夕食を摂ることにする。しかしここで私がとんでもないミスをしていた。というのは現在時刻を完全に間違えていた。通常は土曜日のコンサートは15時ごろから始まるものが多いので、その感覚で今は18時ごろだと考えていたのである。しかし今日のコンサートは17時開演だったので、もう20時を回っている。そのために頭の中にあった店はことごとく店仕舞い。完全に当てが外れてしまった。何も思いつかないのでやむなく「串カツだるま動物園前店」に行くことにする。どうも最近は串カツづいている。特選串の3本セットに数本を追加、さらにはご飯ものも欲しいと考えたのでおにぎりを注文する。

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串カツだるま動物園前店

 特選串はA5牛肉とイベリコ豚、華味鳥のセット。さすがに美味い。ただし3本セットで888円と値は張る。それと思いのほか美味かったのがオニギリ。次回からはこれもありだな。ただ今回の支払いは3000円弱とやや高めになってしまった。

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オニギリ

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串カツ盛り合わせ

 夕食を終えるとホテルに戻ってシャワーを浴びてからマッタリと過ごすのである。明日もまたコンサートである。

 

カンブルラン×京都市響&「円山応挙から近代京都画壇へ」@京都国立近代美術館

 翌朝は目覚ましで7時に起床する。体に疲れが残っているのは否定できないところ。立ち上がるとややフラフラする。

 さて今日の予定であるが、これから京都までトンボ返りして京響の定期公演を鑑賞する予定。とりあえず荷物をさっさとまとめると東京駅まで移動。この日の朝食は東京駅で買い求めた「深川飯」。

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深川飯

 疲労が溜まっているのか、京都までの新幹線車中はほぼ寝て過ごす。ここのところ体力の低下が著しい。

 京都に到着したのは昼前。秋の京都というわけかとにかく大混雑している。荷物をロッカーに入れたいところだが、案の定ロッカーに空きはない。仕方ないので移動の途中で荷物を置くことにする。

 今日の予定は14時半からの京都市交響楽団のコンサートだが、その前に京都国立近代美術館に立ち寄りたい。荷物は乗り換え駅の烏丸御池の構内ロッカーに入れておく。帰りも通り道ではあるが、途中で一旦下車する必要があるが仕方ない。

 東山周辺も人でごった返している。途中で昼食を先に摂ろうかとそば屋を覗いたが30分待ちとの話。仕方ないので美術館に先に行く。

 

「円山応挙から近代京都画壇へ」京都国立近代美術館で12/15まで

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 京都では円山応挙を祖とする円山派を中心として諸派が競い合う形で京都画壇を形成、それが江戸とは別の形で発展して近代にまで至るのであるが、その京都画壇を代表するような画家の作品を集めて展示。円山応挙や長沢芦雪といったところから、竹内栖鳳や上村松園などといった辺りまで総出演である。

 いきなり冒頭に登場するのは円山応挙が手がけた兵庫・大乗寺の襖絵であるが、墨一色で描いた「松に孔雀図」で驚かされた。黒一色のはずなのに松葉は緑に幹は茶色に見えるのである。何かを混ぜているのかと思ったらさにあらず、あくまで混ぜているのは墨だけであるとのことで、これは墨の扱いに長けて金箔の特性を熟知している応挙だからこそなせる技とか。これには心底驚かされた。

 この図以外でも襖絵の角を利用してダイナミックな風景を描いていたり、かなり大胆な技法にさすがに応挙は精密描写だけの画家ではなく、あの奇想の画家・長沢芦雪の師匠であるということを改めて思い知らされたのである。

 応挙が取った写実の姿勢はその後継者達にも明らかに継承されている。そこに各人の個性が加わる。竹内栖鳳のダイナミックな作品や、上村松園の上品な作品、川合玉堂の静かな作品など様々だが、根底には共通のものが流れていることは分かる。

 狩野派一色になっていた江戸絵画に比べてバリエーションが多い印象があるが、ただしそれでもパターン化しているように見られる作品もなかったわけではないか。やはり伝統を踏まえた上で、そこにどれだけ己の個性を表現できるかという辺りが、いわゆる一流となる画家とそれ以外の違いなのかなどいうことに思いを致したりした次第。


 展覧会の見学を終えると駅に戻ってくる。途中でそば屋を覗いたが、待ち客はさらに増えている模様。周辺も似たり寄ったりのようなので、とりあえず北山まで移動してしまうことにする。

 

 北山に到着したところで昼食を取る店を探す。確か裏通りにとんかつ屋があったはずなのでそれを探して入店。「かつ善」はかなり奥まったところにある小さな店。「ヘレカツ定食」を頂く。

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奥まったところにある「かつ善」

 カツはサクッとしていて美味い。全体的に上品な味付けであり、この辺りは京都らしいところか。野菜が刻みキャベツだけでなくレタスもあるのは個人的にうれしいところ。場所柄か客層は結構常連っぽい面々が多かったような印象。

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ヒレカツ定食

 昼食を終えるとホールに向かう。場内はそこそこの入りで、相変わらず京都市響は人気が高いようである。また今回はカンブルランの指揮ということで、それが目当ての者もいるだろう。

 

京都市交響楽団 第640回定期演奏会

[指揮]シルヴァン・カンブルラン

武満徹:夢の時~オーケストラのための
ハイドン:交響曲104番ニ長調「ロンドン」Hob.I:104
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

 武満は私にはやはりよく分からない曲。とにかくキラキラしたイメージだけが印象に残る曲である。

 2曲目のハイドンは、最近は古楽器を使ったオリジナルに近い演奏なんていうアプローチがある中で、カンブルランはそれとは対極的なアプローチ。その響きは極めて現代的であり、古典派の交響曲ではなくてロマン派の交響曲として響く。プレトークでカンブルランは「ハイドンは音楽の改革者である」という旨を述べていたが、それをまさに表現しているような演奏。劇的でありロマンティックな響きは、ベートーベン以降の作曲家の影もちらつくような印象。ハイドンのこういう演奏を聞くと、私の中のハイドンに対する固定観念自体が崩されるような気がする。

 メインは音楽の破壊ことストラヴィンスキーの問題作だが、このような荒々しい曲は当時はかなりセンセーショナルであったということは想像に難くない。カンブルランの演奏は極めて色彩的であり、まさに極彩色の音楽絵巻をぶちまけるという印象。それに対して京都市響の演奏も実に華々しくかつ安定してキレのあるものであり、カンブルランを意図を十二分に表現していたと感じられる。流石と言おうかかなりレベルの高い演奏であったと感じられた。

 やはりカンブルランはなかなかやるという印象。また京都市響だからこそその意図に答えることも出来たのではと言う気もする。これが下手なオケなら、汚い金管の音をブカブカ鳴らす聞くに堪えない演奏になった危険もある。


 これで今回の遠征は完全終了。帰りは烏丸御池で途中下車してキャリーを回収してから家路につく。帰りのJRは異常な混雑でヘトヘトになって自宅へ帰り着くこととなった。

 ベルリンフィルから始まって、東京とんぼ返りという滅茶苦茶なことまでやった今回の週末遠征だが、どの公演もかなり印象に残るものであった。さすがにベルリンフィルの高い技倆には圧倒されたし、東京の2公演も交通費の元を取ったと感じさせる非常に満足度の高いものであった(特にインバルのショスタコはもう神がかっていた)。そして最後の京都市響もカンブルランが期待以上のパフォーマンスを発揮してくれた。

 もっともその代償も大きく、体力的にも金銭的にほぼ払底状態となってしまったのである。正直なところ現在の私は瀕死といったところ。

 

東京に移動して、インバル×都響とノット×東響のダブルヘッダー、合間に辰野金吾

 翌朝は目覚ましで7時に起床。さて今日の予定だが、急遽東京に移動すると都響と東京交響楽団のダブルヘッダーという強行スケジュール。まだベルリンフィルの感動冷めやらぬ状態だが、インバルのショスタコとノットのマーラーを聴きに行こうという考え。例によって体力的にも財政的にも無茶苦茶なスケジューリングである。

 30分ほどでさっさと身支度を調えるとホテルをチェックアウトして新大阪に向かう。朝食は新大阪駅で買い求めた弁当。品川貝づくしを新大阪で購入とは何とも馬鹿らしい話ではある。

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昼食の品川貝づくし

 東京に向かう新幹線の中では持ち出しビデオをチェックしながら「教ドキュ」の原稿執筆。横から見たら移動中も仕事に専念する猛烈サラリーマンに見えるかもしれない。確かに私の私生活ってブログ絡みの作業がほとんどで、それ以外は寝てるか風呂入ってるか飯食ってるかぐらい。もしこれが仕事だったら壮絶ブラック職場でやってられるもんじゃない。もっともビジネスだったら、莫大な経費に対して儲けはほぼ0なんだから、とっくに破綻してるが(笑)。要するにブラック企業というのは、社員に仕事を趣味にしろと要求しているわけであるが、そういう会社に限って仕事内容は単なる労働力搾取で趣味の余地のないものばかりだから破綻しているわけ。そういう働き方を要求する経営者は自ら無能を証明しているようなものだから、ビジネスの世界からは永久に手を引くべきである。

 そう言えば、以前NHKに出演した時、スタッフが早朝から深夜までずっと仕事漬けなのに驚いたことがある。あれは結局彼らにとって仕事が趣味と一体化しているから成立するものなんだろう。実際に全員異様なモチベーションの高さがあった。それに当てられてしまって、その後のしばらくの間、自分の今の仕事について本当にこれで良いのだろうかと悩んでドツボにはまったことがある。あれを仕事として強制されていたらそれは単なる地獄である。

 原稿を2本ほど書き上げた頃に東京に到着する。よりによって東京は今日、山手線が工事で止まるとかで混乱を極めている模様。とりあえずその中を駅内の美術館へ。

 

「辰野金吾と美術のはなし」東京ステーションギャラリーで11/24まで

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 東京駅を建築した辰野金吾の業績を振り返る・・・とは言うものの、実際は一番の業績といえば東京駅の設計になってしまうので、東京駅の設計図がメイン。後は親交のあった洋画家・松岡壽の作品など。これらで展示品の9割方になる。後は賞状の類いを展示されても仕方ないし、というわけで意外に見所の少ない展覧会でもある。だから会場も二階だけで入場料も普段の半額の500円ということか。

 ところで最初に東京駅の駅舎の設計を行ったのはドイツの技師のバルツァーであり、彼は日本建築を研究した上で和風のデザインを提案した。しかし当時の「近代化=欧米化」と考えていた日本では受け入れられず、結局は辰野金吾がヨーロッパ式に再設計したわけである。しかし今改めてバルツァーの案を見てみるとこれはこれで面白く、もしこの案が採用されていたら今の東京の風景は全く異なるものになっていただろうななどと思いを馳せることになる。

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和風なバルツァーの案

 

 美術館の見学を終えたところで11時過ぎ。今日のコンサート昼の部は東京芸術劇場で14時開演。とりあえずまずは荷物をホテルに置きに行くことにする。

 今回宿泊するのは南千住のホテル丸忠Classico。CENTROの方は何度も利用しているが、そちらが週末割り増しで高かったことからこちらを予約。と言ってもこちらの宿泊料も新今宮の高級ホテル・ホテル中央オアシスと変わらないぐらいの額になっている。

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ホテル丸忠Classico

 ClassicoはCENTROよりもさらに駅から遠くにあり、最寄りバス停は泪橋というかなり濃い地域。新今宮が「じゃりン子チエ」の世界だったら、こっちはもろに「あしたのジョー」の世界である。

 とりあえずホテルに荷物を預けるとホールのある池袋に向けて移動。しかし山手線運休の煽りをうけて車内は殺人的混雑(東京の通常の朝ラッシュ並み)。池袋に到着した頃にはかなり疲れてしまう。

 ようやく池袋に到着したものの毎度の事ながらこの駅の構造はサッパリ分からない。とりあえず芸劇は西口方面だったはずと西口を目指すが、どこから地上に出られるのかも分からない。つくづく東京はダンジョンである。そう言えば東京をそのままダンジョンにしていたゲームもあったような・・・女神転生だったっけ。

 

 地上に出ようと出口を探していたらビルのエレベータを発見。どうやらそのビルの上階に飲食店街があるようなので、ついでに昼食を摂る店を物色することにする。立ち寄ったはビル6階の「秋田真壁屋」。稲庭うどんを扱っている店のようなので、稲庭うどんの定食を頼む。

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秋田真壁屋

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窓からは芸劇がそこに見えた

 入店して窓際の席に座ったら、窓の向こうに芸劇が見えていた。どうやら道は間違っていなかった模様。なお稲庭うどんについてはなかなか美味い。ただ秋田の佐藤養助を何回か訪問したことのある身としては、うどんにもう一腰欲しい気もする。それとやはり東京は水が良くないのがどうしても分かる。

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稲庭うどん

 昼食を終えると1階に降りて、目の前に見える芸劇へ。しかし西口公園完成記念イベントとかでごった返していて、目の前に見える芸劇まで大回りを余儀なくされる。

 私の席は二階席中央ブロック。定期会員ではない遠隔組であることを考えると、まずまずの席を確保できたと考える。

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まずまずの席

 

東京都交響楽団 第891回 定期演奏会Cシリーズ

指揮/エリアフ・インバル
ヴァイオリン/ヨゼフ・シュパチェク

ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 op.77
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番 ニ短調 op.112 《1917年》

 一曲目のショスタコのヴァイオリン協奏曲はシュパチェクの演奏に圧倒される。最年少でチェコフィルのコンサートマスターを務めていたというチェコの新進気鋭。その技と音色の豊かさは並ではない。ショスタコのこの曲は曲想がころころ変わる変化の激しい曲だが、彼の表現力の幅に魅了される。まさに神業である。

 二曲目のショスタコの12番は、初っ端からホールが地鳴りするような轟音。低弦がビンビン響いて、実はこのホールってこんなに反響があったんだって驚いた(笑)。とにかく怒濤のような演奏で始まる。ホールを揺るがさんばかりの演奏だが、ここで都響は乱れない。そこから急に静かな第二楽章になると今度は謳わせる。そこから終盤に向かって徐々に盛り上げて、作曲家がほとんどやけになっていたのではないかと思わせる大フィナーレになだれ込む。まさに圧巻の音楽が展開。ここまで凄まじいのは久方ぶりに聞いたような気がする。

 場内は大興奮の坩堝となった。結局インバルの一般参賀あり。私は都響のことはよく知らないが、定期公演で一般参賀って普通にあることなんだろうか? 少なくとも関西では見たことはない。

 

 もうこの公演だけで東京までの新幹線代の元を取った気分であるが、興奮の内にコンサートを終えると次の会場に向けて移動する。今日はコンサートのダブルヘッダーである。次はサントリーホールで開催される東京交響楽団のコンサート。地下鉄を乗り継いでホールに移動するが、サントリーホールへは開演時刻18時の1時間以上前に到着してしまう。夕食を摂ろうかと思ったが、昼が稲庭うどんだったので杵屋のうどんという気にはならない。仕方ないのでホールまでプラプラ歩きながら店を探すが、適当な店がない。パン屋があったので覗いてみたら、思わず目を疑うような非常識極まりない六本木価格に仰天して、さっさと撤退する羽目に。元々オフィス街なのか、休日に開いている店が少ない上に、店もお洒落だがやたらに高いというタイプばかりで私が入店する気になるような店は皆無。毎度の事ながら六本木周辺は私にとっては鬼門。ヒルズだけでなくてこんなところまで禍々しい成金結界が及んでいるのだろうか。

 仕方ないので、ホール前のベンチでこの原稿を打ちながら開演時刻を待っている(笑)。関西のホールは開演の1時間前に開場するところが多いのだが、東京のホールは開演30分前に開場というところが多いから、ホール内で時間をつぶすこともできない(まあホール内に入ったところで、特に時間をつぶせる場所もないが)。日没と共に辺りは段々と冷えてきた。今日の日中は暑くて少々もてあましたが、こうなってくるとダウンジャケットを着てきたのは正解だったという気がしてくる。

 体が冷え切った頃に開場。ゾロゾロと場内に入る。今回の私の席は二階席。これも会員でないことを考えるとまずまずの場所。会場内には空席もチラホラあり、入りとしては8割と言うところか。

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サントリーホールの2階席

 結構疲労が溜まってきているので、ホール内で普段はまずしない贅沢をすることに。1本500円の超高級ペプシコーラと600円の高級サンドイッチを頂く。ようやく一息ついた頃に開演時刻となる。

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高級コーラ&サンドイッチ

 

東京交響楽団 第675回 定期演奏会

指揮:ジョナサン・ノット

ベルク:管弦楽のための3つの小品 op.6
マーラー:交響曲 第7番 ホ短調 「夜の歌」

 正直なところベルクは私にはよく分からない。何やらやけにキラキラした曲であると言うことは感じるが、それ以上の感慨は特にない。

 さて本題のマーラーであるが、非常に個性的なメリハリの強い演奏。ノットの指揮には実に仕掛けが多く、細かいテンポの変動など随所に様々なニュアンスをつけていた。テンポもかなり抑えめで弛緩してしまいかねないギリギリの線。ただし単に酔狂で個性的な演奏をしているわけでなく、各所で楽器のバランスなども考えていることも覗える。

 これに対して東響の演奏は概ねノットの意思に対応していた。細かいところを見ていけば、金管がヘロってしまったりなどのミスもいくつか見られたが、それが致命的な破綻にまではつながっていない。ベルリンフィルやウィーンフィルを聴いた直後の耳にはかなり劣って聞こえるのは仕方ないところだが、概ね健闘していたというところか。

 ただ総じて言えるのはなかなかの熱演だったということ。東響の演奏も気合いの入ったものであったことを感じた。

 個性的なマーラーなので好き嫌いは分かれるところだろう。終演後足早にホールを去る客がいる一方で、残って拍手を続ける観客も少なくなく、何とこちらでもノットの一般参賀に。

 

 東京までの新幹線代の元を取ったことを感じさせるなかなかの演奏続きに胸一杯だが、一方で腹の方は空いてきている。この日の夕食は帰りに上野の「つばめグリル」に立ち寄って「ハンブルクステーキのセット」を頂くことにする。洋食店のはずなのだが、茶碗に入ったご飯とスープでなくて味噌汁が出てくるというのはなかなか異色。確か横浜ではこんなことはなかったはずだが・・・。上野という土地柄に配慮したのか? とりあえず味噌汁が意外に美味かったのは驚き。

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上野のつばめグリル

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ハンバーグのセット

 夕食を終えるとホテルに戻ってくる。やはりこうやって疲れた時に歩くと駅からの距離が結構気になる。

 ホテルに戻ると風呂の時間は23時からなので、それまでは原稿の執筆及びアップ。23時になったところで大浴場に繰り出すが、カランが6つの浴場に10人ぐらいの宿泊客が入れ替わり立ち替わりでやってくる大盛況。これには「このホテルにこんなに大勢が宿泊していたのか」と驚いた。一見すると閑散として人の気配を感じなかったのだが。

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三畳一間のシンプルな部屋

 明日は早朝から京都までとんぼ返りになる。とりあえず「ザ・プロファイラー」と「ガイアの夜明け」の録画分をチェックしてから就寝する。

 

連日のベルリンフィル公演+MET「トゥーランドット」&「バウハウス展」

 翌朝は目覚ましをかけずに8時半まで爆睡していた。こういう時間に縛られずに寝ることもたまには重要。

 さて今日の予定だが、昨日に続いて今日もベルリンフィルのコンサートに出かける予定。さすがに2日続けてS席を確保する財力は私にはないので、今回はもっと安い席である。開演は昨日と同じく19時からなのでそれまでの時間がまるまる空いてしまった(今日は年有休暇を取得している)。そこで今日から始まるMETのライヴビューイングを見に行くことにする。演目は「トゥーランドット」。実は数年前の上演をWOWOWで放送したものを一度見ているので、今回はパスするつもりもあったのだが、部屋でボンヤリ過ごしていても仕方ない。

 それにしても今朝は寒い。とりあえず朝風呂で体を温めると10時前に出かけることにする。今日は朝食を取っていないので、ホテル近くの商店街の「神戸屋ウーピー」サンドイッチのモーニング(500円)を頂く。ところでウーピーの意味が不明。

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神戸屋ウーピー

 サンドイッチはまさに神戸屋のをそのまま出している雰囲気。可もなく不可もなくというところ。それにしても本当にこの界隈はワンコイン以下でモーニングを出す喫茶ばかりだな。

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サンドイッチのモーニング

 朝食を終えると大阪駅に移動。その途中の車内で昨日確保したムビチケで席を予約するが、驚いたことに最前列の辺りに数席残っているだけ。平日にこんなに客が来るのか。これには驚いた。

 劇場に到着すると年配客がズラリと並んでいた。なるほどリタイアして時間に余裕がある連中が大挙して出てきているらしい。ところで私のリタイア後は、時間はともかくとして、こんなところに来る財力はあるだろうか・・・。

 

 

METライブビューイング プッチーニ「トゥーランドット」

指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:フランコ・ゼフィレッリ
出演:クリスティーン・ガーキー、ユシフ・エイヴァゾフ、エレオノーラ・ブラット、ジェイムズ・モリス

 さすがに音楽面は主役陣の力量もあって圧巻の一言だが、今回さらに感心したのは演劇としての側面。トゥーランドットは男性恐怖症というか、十代の少女などによくある恋愛に対する憧れはあるものの男性はちょっと怖いという心情を徹底的にこじらせたと言って良い人物である。その辺りの微妙な心の揺れなどをすっ飛ばしたり、カラフが「あんな男のどこが良いの?」と見えてしまったら完全に失敗である。そうなるとやや強引なストーリー展開ばかりが目に付くことになってしまう。

 本公演では細かい所作や演出でトゥーランドットの感情の揺れが現れていて、それを追っているとかなり強引とも感じられたストーリーが無茶に見えない。これは驚いた。ガーキーは歌手としての力量だけでなく意外に演技力があるようである。またカラフの方も、英雄的とも思えるような行動力やトゥーランドットのことも思いやっているような様子が覗え、こんな男になら氷の姫が落ちるのも当然と納得させるところがある。

 音楽的にも本作品はそもそもプッチーニの最晩年作だけに音楽の完成度は高い。それをネゼ=セガンは的確な解釈でオケをコントロールしているので、実に見事な劇構成になる。ドラマと音楽が一体化したオペラという芸術の醍醐味を感じさせるのである。

 結果としてはパスしないで良かったというとこか。先の公演と演出は基本的に同じはずなのに、ここまで印象が違うというのはどういうことだろうか。まあこんなこともあるんだなと驚いた。

 

 

 映画を終えると下のフロアで遅めの昼食を摂ることにする。いつもここを通る時は週末の昼時のせいでどの店も大行列だが、今日は平日の上に昼時よりはかなり遅いので行列のある店はない。店を特に探す気もしなかったので、目の前にある中華料理屋「桃谷楼」に入店、「桃谷楼ランチ」を注文する。

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桃谷楼

 味はなかなか良い。中華料理は特に安物店と高級店の味の違いがハッキリしやすいジャンルなのだが(化学調味料に対する依存度の違いだと考えているが確証はない)、しっかりと高級中華の味がしている。最初に出た鳥のスープなども美味だし、次の炒め物や酢豚なども味が良かった。もっともこれで2480円というのは、さすがに場所柄もあるのだろうがCPは悪い。

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まずは前菜とスープ

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次が海鮮炒め

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メインは酢豚

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デザートの杏仁豆腐

 勘定を済ませて店を出て、エスカレータで降りかけたところで一つ思い出す。そう言えばこのフロアの飲食店は当日の映画の半券があれば割引などの特典があるんだった。しまった、損をした・・・。

 遅めの昼食を終えたところで15時過ぎぐらい。やはりもう一箇所ほど美術館にでも立ち寄ることにする。この美術館は駅から嫌な距離があるので車で行きたいところなのだが、車で出てしまうと大阪で困るというわけで、どうしても足が遠のきがちになる場所にある。

 

 

「開校100年 きたれ、バウハウス ー造形教育の基礎ー」西宮市大谷記念美術館で12/1まで

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 バウハウスはドイツで開校された造形学校であるが、建築を最終到達点に置いた総合芸術の学校でもある。初期には芸術的感覚の教育を行うらしいが、講師にはパウル・クレーやカンディンスキーなど蒼々たる一癖ある面々が揃って、独自の観点での教育を行っていたという。諸々の資料があったが、明らかに講師の志向がもろに出ていて面白い。個人的には紙から立体を作り上げるなんてのはなかなか私好み。

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決まったパーツでアルファベットのロゴを作るデザイン教育の一環

 初等教育を終えた後には様々な分野の工芸に分かれるとのことであるが、これが家具から陶器や版画などなかなか多彩。ただここで行われているデザインは、妙に現代アート的な感性に走っているものでなく、根底に合理性が見えるというところで私としては馴染みやすいデザインであった。

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バウハウスデザインの椅子、くつろげるが立ち上がるのは大変

 

 

 展覧会の見学を終えると大阪に戻ってくる。一旦ホテルに戻るつもりだったが、その余裕はなさそうだが、ホールに直行するのはまだ早すぎる。終演時間のことを考えると夕食を摂っておくべきかもしれないが、昼食が3時頃とかなり遅かったので正直なところまだ腹が減っていない。など諸々考えたところで、結局はお茶でもしていくかとの結論になる。立ち寄ったのは「つる家茶寮」で、馬鹿の一つ覚えの「生麩ぜんざい」を注文する。

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いつものつる家茶寮

 いつものことだが、ここの小豆を口にするとホッとする。それに生麩の美味さと言ったら・・・。とりあえずの燃料補給をしたところでホールに移動する。

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いつもの生麩ぜんざい

 フェスティバルホールは今日も観客が一杯だが、プログラムの関係かまだS席の一部に売れ残りがあるようで、昨日もホール内でも販売をしていた。どの程度が売れたかは定かではない。なお私は二日続けてS席などの大散財をする財力は当然のようにないことから、今回は貧民席であるD席。3階席の一番奥である。ちょうどこの前にウィーンフィルを聴いたのと同じ辺りの席。相変わらず3階席は怖いが、ここのところの立て続けの3階席で、さすがにいささか慣れた感じもする(と言ってもさすがに最前列には行きたくはないが)。前を見ると3列目までの席に観客が全くいないことから、S席の3階席はまるまる売れ残ったようであることが想像できる。やはり料金が高すぎるということはあるだろう。

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今日は3階席

 

 

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演

指揮/ズービン・メータ
管弦楽/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
チェロ/ルートヴィヒ・クヴァント
ヴィオラ/アミハイ・グロス

曲目/R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
   ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」

 

 さすがにベルリンフィルは上手い。それも半端じゃない。弦の緻密さは言うまでもないが、管楽器なんかも一人一人がソリストクラスの腕を持っている。そしてティンパニが神(笑)。1曲目のリヒャルト・シュトラウスはソロパートの上手さが非常に際立つ演奏。そして全体を通じて昨日と同じでとにかく美しい。圧倒されるほど美しい。ウィーンフィルとは違った意味での美しさだ。

 圧巻だったのは2曲目のエロイカ。管の人数は半分ほどになったにもかかわらず、管の音が十二分に伝わってくる。そして今まで以上に際立つ弦楽アンサンブルの緻密さ。もう冒頭から体がゾワゾワ来て魅了されてしまった。

 一流オケとそうでないオケの一番の違いはピアニッシモの美しさだと私は思っている。ベルリンフィルの演奏はピアニッシモでも埋もれないかすれない。その上にフォルテッシモになっても割れない濁らない。だから非常にダイナミックレンジの広い演奏となる。それがさらなる感動へとつながる。

 ベートーベンでこれだけ深く感動したのは久方ぶりのような気がする。例によってメータのテンポはかなりゆっくり目なのだが、それが緻密さと美しさにつながっている。終始一貫圧倒されながらうっとりという状況になってしまった。

 かなりベルリンフィルを堪能したというのが今日のコンサート。会場内も大盛り上がりで昨日に続いてのメータの一般参賀あり。

 

 

 なかなか堪能したのだが、落ち着いてきたら非常に腹が減っていることに気づいた。しかしホールを出たのは9時半頃(急に寒くなったことでクロークの行列がひどい)。今から新今宮に戻ったのでは10時を回ってしまって店がほとんど開いていない可能性が高い。これはどうしたものかと考えていたら、フェスティバルゲート地下の「キッチンジロー」がまだ営業中だったので飛び込む。

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開いててよかったキッチンジロー

 私と同じ状況の者もいるのか、その後もバラバラと客はやって来る。私はエビフライとトンカツのセットを注文。腹が減っているせいもあってとにかく美味い。空腹は最高の調味料と言うがその通り(決してここの料理がまずいとは言っていないので注意)。あまりに腹が減っているせいで、写真を撮るのを忘れてエビフライを先にかじってしまった(笑)。

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トンカツとエビフライ(少し短いです)

 夕食を終えるとホテルに戻る。ようやくゆったりと出来る時間。美術館に行った帰りに立ち寄った「あおやま菓匠」で買い求めた和菓子をつまむ。後は入浴して明日に備えることにする。

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今日のおやつ

 

 

フェスティバルホールで初めてベルリンフィルの演奏を聴く(メータ/ベルリンフィル大阪公演)

 今日はいよいよメータ指揮のベルリンフィルのコンサートである。私がベルリンフィルのコンサートに出かけるのは初めて。今まで何度か来日はしているものの、その度に公演は東京だけで、しかもチケット争奪戦は数分で敗北決定という状況であった。それが今回の来日では大阪公演もあるとのこと。そこで今度こそはとチケット手配には万全を期することにした。今回のチケット入手はフェスティバルホール会員の優先予約を使用している。この予約は高い席でしか使えないので、つまりは今回はS席を確保したと言うこと。これはチケットの価格を考えると清水の舞台から紐なしバンジーという状態である。おかけでこの秋は金欠で瀕死の状態になってしまう。

 木曜日は仕事を早めに切り上げて大阪に移動する。とりあえず荷物をホテルに置きに行く予定だが、その前にステーションシティシネマに立ち寄って、明日から始まるMETライヴビューイングのムビチケを購入する。

 

 

 ムビチケを入手すると新今宮に移動。今回は宿泊ホテルはいつもの定宿と違ってホテル中央オアシスを確保している。一泊4000円以上とこの界隈では高級クラスに属するホテル。やはりベルリンフィルのコンサートに出向く時に、あまり貧乏くさいホテルに泊まりたくないという考え(でありながら、やはり宿泊先は新今宮なんだが)。

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ホテル中央オアシス

 ここは大浴場がなくて部屋風呂だが、一番のポイントはユニットバスでなくて風呂とトイレがセパレートになっていること。やはりユニットバスで便器を眺めながらではゆっくり入浴する気にもならないが、これだとゆったりとくつろげる。実はこのホテルを選んだのは、公演終了後に帰ってくると大浴場だと入浴時間が終わっているという理由もあったりする。

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シンプルな室内

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風呂、トイレ、洗面台がセパレート

 

 

 ホテルにチェックインして荷物を置いてしばし休息を取ってからホールに出向くことにする。ホールに入場する前にフェスティバルゲート地下のラーメン屋「而今」「特選煮干し醤油ラーメン(1000円)」を注文する。

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フェスティバルゲート地下の而今

 麺はかなり固め。スープはかなり濃い煮干しの味がするが、麺を食べるとなぜか普通の醬油ラーメンである(笑)。それなりに美味いラーメンではあるが、CPはいささか悪いと言わざるを得ない。

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煮干し醤油ラーメン

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麺はかなりしっかりしている

 ラーメンを腹に入れるとホールへ。フェスティバルホールには多くの観客が押しかけていた。チケットはほぼ完売している模様。私の席は中央のやや奥手。発売すぐにチケットを手配しようとしたのだが、既にこのような場所しかなかった。フジテレビか仕切るイベントは異様な枚数を関係者方面にばらまくと聞いているが(いわゆる接待チケット)、今回もそうなんだろうか。ちなみに特等席には明らかに関係者と思われる風体の連中が座っていた。

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私の席は中央やや奥

 ホール内でしばし開演を待つが、ここで私がいつになく緊張しているのを感じる。どうも初めてのベルリンフィルと言うことで気合いが空回りしている模様。少し落ち着かないと冷静に演奏を聴けない。そこで落ち着くために座席でこの原稿を入力している(笑)。

 しばらく後にようやく開演時刻となる。

 

 

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演

指揮/ズービン・メータ
管弦楽/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ブルックナー:交響曲 第8番 ハ短調 ノヴァーク版第2稿(1890)

 初っ端から「なんて綺麗な音を出すんだ」と驚かされる。弦のしなやかさ、美しさが抜群である。またベルリンフィルはもっと管がバリバリ出しゃばるオケのイメージがあったのだが、メータの指揮はそれを抑えている印象。ゆっくり目のペースで弦が主体の極めて密度の高い美しい音楽を奏でる。

 第二楽章や第四楽章などはもっと金管が前面に出てくるかと思っていたが、それでもやはり後ろに引っ込んでいる印象。全体的に極めてエレガントで上品な演奏。以前にウィーンフィルでブルックナーの7番を聞いた時もメータのアプローチはかなり洗練された上品なものであった記憶があるが、今回もそのスタンスである。

 ただ私としては、ブルックナーとはもっと粗野に金管がバリバリと前に出てくる音楽だと感じているので、この演奏にはいささの戸惑いと物足りなさを感じずにはいられなかったりするのである。実際に美しくはあるが、ややメリハリの弱さも感じられ、周りを見渡すと舟をこいでいたり完全に寝落ちしている観客も少なくなかったのも事実。

 演奏終了後はとにかく場内は大盛り上がりであり、楽団員が引っ込んだ後にメータの一般参賀あり。ベルリンフィルサウンドを堪能した観客が多かったということだろう。その点では私も楽しんだのであるが、惜しむらくはもっとバリバリ鳴らす曲の方がよりベルリンフィルのイメージ通りで良かったのではということである。

 

 

 コンサートを終えると新今宮に戻ってくる。今日はブルックナー一曲だったので早めにコンサートが終わっており、新今宮に到着したのは9時ちょうどぐらい。そこで急いでじゃんじゃん横町へ夕食に。閉店前の「だるま」に飛び込んで串カツを10本ほど頂く。

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いつものだるま

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串カツ、肉類編

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串カツ、野菜類編

 ホテルに戻ると浴槽に湯を張って入浴。足を伸ばせないのが難点だが、ゆったりと湯に浸かってくつろげるのは何より。

 風呂から上がって一服するとさっさと今日のレポートをまとめてアップすることにする。私は今までノートPCを持っていなかったので、遠征中はブログの管理が出来なかったのであるが、これでは不便ということでこの度1万円台の格安PCを購入した次第。これについての詳細はまた後日別記事でアップしたい。

 

ティーレマン指揮/ウィーンフィル大阪公演を聴きに行く

 翌朝は7時頃ぐらいから周囲の部屋がドタバタと喧しくなり始めたので8時前には目が覚める。それにしても喧しかった(子供かそれとも知能が子供レベルの大人かが定かでないが、廊下を走り回っていた)が、まあこの辺りは良くある安宿リスクとして許容しないといけない部分。このホテルでは対応策としてフロントで耳栓を配布している。なお静かで落ち着く環境というのを望むなら、1万円以上を出して梅田周辺の高級ホテルにでも泊まるしかない。

 目覚めると録画していた「健康カプセル」をサーバに接続してチェック、ザザッと「教ドキュ」用の原稿をしたためた後、朝食に出かけることにする。

 

 

新世界の喫茶店でモーニングを頂く

 最近は朝食の度にこの周辺の喫茶店を探すのが日常化しているが、実際にこの界隈には安価にモーニングを提供する喫茶店が非常に多い。今日も朝の新世界をプラプラしながら入店したのは「喫茶タマイチ」。昭和レトロの雰囲気が強い喫茶店である。モーニングはトーストのAセットからスクランブルエッグなどまで付いたDセットまであるが、私はホットドックのCセットを注文する。

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昭和レトロ風味な喫茶タマイチ

 カレー味のホットドックがなかなかに美味い。また珈琲の味も私好み(ということは本格的ではないと言うことだろうか?)。これで1コイン以下(480円)なんだから値打ちもの。

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ホットドックもコーヒーもなかなか美味い

 今日はウィーンフィルの公演が15時からフェスティバルホールである。で、それまでの予定は皆無。11月になってから毎週末ごとに大阪に宿泊している状態なので、この周辺の美術館の類いは行き尽くしている(笑)。仕方ないので部屋でボンヤリと過ごすことにする。

 

 

昼食は近くのラーメン屋で

 昼食は遠くまで出歩く気にもならないので、ホテル向かいの「天龍ラーメン」に行く。ラーメンと炒飯と餃子がセットになった「天龍セット(1100円)」を注文。特に可もなく不可もなくという内容だが、さすがにこの界隈らしくCPは良い。

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新今宮の天龍ラーメン

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ラーメン

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炒飯はフックラとなかなか美味い

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餃子はもう一味欲しいか

 

 

 店内でテレビを見ていたら田代まさし逮捕の件を放送していたが、つくづく薬とは恐ろしいというのを彼を見ていたら感じる。売れっ子から一気に転落して、薬の怖さは身をもって知っているはずなのにそれでも止められない。一旦薬を使用すると、脳が薬に依存するように作り替えられてしまうので、最早本人の意思ではどうにもならないと言うが、彼を見ているとまさにそうなんだなと感じられる。たばこなども同様の効果があるが、重度の依存症に陥っていなければ意思で止めることが出来るというのは、中毒性が薬物よりは軽いと言うことではある。彼のような薬物依存患者の治療法は今のところなく、薬物使用を繰り返しているうちに段々と脳機能が低下して行き着く先は廃人となってしまうのであるが、そうなる前に脳の機能を元に戻すアンチ薬物治療のようなものが開発されることを願うところ。

 それにしても芸能界の薬物汚染のひどさは目に余る。昔から芸能界は裏社会との結びつきもある業界なので、その関係なんだろうか。この辺りは根本的にメスを入れる必要があるだろう。

 1時過ぎになったところで出かけることにする。ホールまでは地下鉄ですぐである。ホール前には昨日以上の大行列。開場時刻になってもまだリハーサルが続いているようで、しばし一階席ロビーに客は足止め状態になったのだが、おかげでロビーに観客があふれかえる状態に。

 私の席は昨日に続いて3階席。さすがにウィーンフィルのS席なんか買えるだけの財力がないので、3階最後列のD席である。これはいわゆる貧民席。といっても2万円近くしてしまうというのがウィーンフィルのウィーンフィルたる所以だが。

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二日続けての三階席

 

 

第57回大阪国際フェスティバル2019 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

指揮/クリスティアン・ティーレマン
管弦楽/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ドン・フアン』作品20
               :『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』作品28
ヨハン・シュトラウスⅡ世:オペレッタ『ジプシー男爵』序曲
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ『神秘な魅力(ディナミーデン)』作品173
リヒャルト・シュトラウス:オペラ『ばらの騎士』作品59 組曲

 一曲目の「ドン・ファン」はオケがブンチャカ鳴る曲なので、今ひとつウィーンフィルらしさというものが明瞭には出ない。とは言うものの、全楽器が斉奏しても決して喧しくなることはなくむしろ響きがゴージャスになるというのはウィーンフィルのウィーンフィルらしいところではあるが。

 二曲目の「ティル・オイレンシュピーゲル」の方がよりウィーンフィルらしい演奏。この曲は良く聴いているとところどころワルツ的な旋律があり、そういうところになるとウィーンフィルのネットリシットリした弦が特徴を発揮する。また分厚いホルンの響きなんかもウィーンフィルらしいところ。

 ウィーンフィルが本領発揮するのは休憩後の「ジプシー男爵」とワルツ「神秘な魅力」。弦を中心にうっとりするようなウィーンフィルサウンドでその心地よさに酔いしれている間に曲が終わってしまったという印象。いかにも「ウィーンフィルを聴いた」と思わせる演奏であった。正直なところ陶酔しすぎて我を忘れそうになったぐらい。

 驚いたのは最後の「ばらの騎士」もそのままの調子で突入したこと。こうしてウィーンフィルのネットリシットリした演奏で聞くと、この曲の中に潜むワルツ的な節回しなどが表面に浮かび上がってきて、ブンチャカ喧しい印象のあるリヒャルト・シュトラウスが、全く別の曲に聞こえてくるから不思議。リヒャルトがヨハンに変わった印象だ。驚きつつもその美しさに圧倒されている内に曲が終了してしまった。正直なところ、もっと聞きたいと思わせる演奏。

 アンコールはエドゥアルト・シュトラウス1世のポルカ・シュネル「速達郵便で」とのことであるが、これが軽妙かつ華麗な演奏で実に見事。最後まで終始一貫「ウィーンフィルを聴いた」と満足させる演奏であった。場内も大盛り上がりで、拍手は鳴り止まずティーレマンの一般参賀あり。ただしよくよく考えてみると、ウィーンフィルのカラーが濃厚すぎて、むしろティーレマンのカラーがどこにあるのかがつかみかねるところがあった。

 

 

 コンサートを終えると新今宮に戻ってくるが、この時点で17時半。夕食を摂るには早すぎるが、一旦ホテルに戻ると体調が良くないだけにもう二度と出る気が起こらなくなる可能性が高い。そこでそれを見越してじゃんじゃん横町の「佐兵衛すし」で寿司の一合折りを持って帰ることにする。結局はこれが今日の夕食となったが、内容的にはまずまずで、これで700円はCPが良い。

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じゃんじゃん横町の佐兵衛すし

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にぎりの一合折

 結局この日は入浴をするとグッタリしてしまって、明日の仕事に備えて早めに就寝するのであった。


 この翌日はホテルから仕事場に直行して仕事を済ませたのだが、とにかく今回の週末は疲労が強かった。本当は奈良の正倉院展にでも行こうかという気もあったのだが、テレビで大行列の様を見るとその気が失せてしまった。おかげでホテルでゴロゴロと過ごすという不抜けた遠征となってしまったのである。もっともコンサートの方はウィーンフィルなど非常に充実したものではあったが。

 

 

トリエステ・ヴェルディ歌劇場「椿姫」

 芸術の秋などと言うが、この11月はコンサートラッシュである。この週末はその一環でオペラとウィーンフィルという財布にとって極めて過酷な遠征へと繰り出すことと相成った。とにかくおかげで私の財政状態は完全破綻。既に財布は餓死寸前となっているのだが、この際はひとまずそういうことからは現実逃避である。

 土曜日の午前中に家を出ると大阪には昼過ぎに到着する。今日のオペラはフェスティバルホールで15時からなのでまだ余裕がある。とりあえずいつもの定宿・ホテルサンプラザ2ANNEXにチェックインすると、しばしの休息の後に昼食のために出かけることにする。

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ホテルサンプラザ2ANNEX

 

 

昼食はじゃんじゃん横町で寿司を頂く

 やはり昼食となると新世界か。じゃんじゃん横町に立ち寄ると「大興寿司」に入店する。マグロから始まって、トリ貝、ヒラメ、シマアジ、ハマチ、カンパチ、タイと7皿ほどつまむ。これで支払いは2000円以下。さすがにCP最強である。

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じゃんじゃん横町の大興寿司

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マグロ
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トリ貝とヒラメ
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シマアジとハマチ
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カンパチとタイ

 

 

 昼食を終えると地下鉄でホールへ。到着時にはホールは開場直前の時。例によって全員指定席券を所持しているにもかかわらず、ゲート前で開場時間前から整然と行列して待つ日本人気質である。

 私の席はC席なので3階。貧民席ではないが選民席でもないという長途半端な平民席である。相変わらずここの3階席は高所恐怖症の者にとってはツラい。目が眩みそうになる。客の入りは上から見たところ8割ぐらいか。

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3階席は目が眩みそうになる

 例によってオペラはオケとは客層の違いを感じる。私の回りでもパスポートがどうとかの話をしている有閑マダムが。幸いにして今回はダウニーオバサンや香水マダムは近くにいなかったようだ。

 

 

トリエステ・ヴェルディ歌劇場「椿姫」

指揮:ファブリツィオ・マリア・カルミナーティ
演出:ジュリオ・チャバッティ

ヴィオレッタ:マリナ・レベカ
アルフレード:ラモン・ヴァルガス
ジェルモン:アルベルト・ガザーレ

管弦楽:トリエステ・ヴェルディ歌劇場管弦楽団
合唱:トリエステ・ヴェルディ歌劇場合唱団

 イタリアのトリエステの歌劇場であるとのことだが、舞台装置はシンプルであり、演出も極めてオーソドックスである。そういう意味では無難な公演であると言える。

 序盤はやや独唱陣に弱さを感じる。オケが容赦なくブンチャカ鳴らすので、それが独唱をかき消してしまう場面も見られた。乾杯の歌などもっと豪快に行っても良いのにという印象。特にアルフレードのヴァルガスのやや線の細さが気になったところ。

 このようなアンバランスさは進むにつれて解消していった。怒濤の第二幕二場を受けてからの第三幕は、かなり劇的なクライマックスとなった。ヴィオレッタのレベカの鬼気迫る演技がなかなかに涙を誘う。やや線の細めのアルフレードもこういうシーンにはシックリとくる。ジェルモンのガザーレが良いアクセントになっている。

 最終的には場内は結構盛り上がっていた。まずまずの公演と言って問題ないだろう。

 

 

新世界で久しぶりのグリル梵でビフカツを夕食に

 オペラを終えると新今宮に戻る。ホテルに戻る前に新世界で夕食を摂ることにするが、何を食べようと考えた時に頭に浮かんだのがビフカツ。久しぶりに「グリル梵」に立ち寄って「ヒレビフカツ」を頂くことにする。

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久しぶりのグリル梵

 今流行のレアカツでなく、シッカリとミディアムの火の通り具合。これが正しい関西のビフカツである。相変わらず満足度は高い。

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正しい関西のビフカツ

 夕食を堪能するとホテルに戻って休息。やはり外を出歩くとそれだけで疲労が溜まる。もう年なんだろうか。ここのところ目に見えて体力が低下しているのを感じる。しばらくベッドで横になって休んで、ようやく体が動くようになったところで大浴場へ入浴に行く。とにかくこういう時には風呂で体を温めておくに限る。

 結局この日は、10時前ぐらいに疲れて眠り込んでしまう。

 

 

ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団演奏会で久しぶりに辻井伸行のピアノを聴く

 翌朝は8時前まで爆睡していたが、無理が祟ったのかやや腰の具合が不穏なのが気になるところ。今日は14時からフェスティバルホールで開催されるハンブルクフィルのコンサートに出向くが、それ以外には予定はない。ホテルのチェックアウトが10時なので、それからの時間をどうつぶすかが問題。

 とりあえずホテルのチェックアウト時刻のギリギリまで粘ってからホテルを出ると、一旦大阪に出る。そこでキャリーをコインロッカーに放り込んで身軽になってからしばし辺りを放浪。朝食を摂る店を探して阪神百貨店地下をウロウロ。結局は南館地下のフードコート的な一角のカドヤ食堂で中華そばを頂くことにする。

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朝食の中華そば

 いわゆる魚介系醤油ラーメンというところか。味付けはシンプルだが悪くない。もっとも場所柄CPは今ひとつ。

 阪神百貨店を回ったのは初めてだが、阪神と阪急が統合されて久しいが、その影響はここの売り場構成に出ているようである。この手の百貨店にしては珍しいレストランフロアがないという構成になっているが、これは阪急百貨店が巨大なレストランフロアを有しているので、それとの競合を避けたのだろう。その分、地下の食品街に力を入れているのは、今時の百貨店ではいずれも同じ。なお地階と一階にトイレがないのにはまいったが、場所柄公衆トイレ的な使い方をされてもコストアップ要因になるだけだからとの計算か? ましてや今時トイレさえまともに使えない猿人レベルの輩も増えているというし。

 

 

 朝食を摂って阪神百貨店をウロウロしている内に11時を回ったので「つる家茶寮」にお茶をしに行くことにする。「生麩ぜんざい」を頂きながらホッとする一時。こういう一瞬が今は貴重かもしれない。

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いつものつる家茶寮

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この生麩ぜんざいが美味い

 

 

 しばしここで時間をつぶした後、昼時が近づいてきたので昼食を摂るためにも場所を移動することにする。地下鉄で肥後橋に移動し、フェスティバルゲート地下の「キッチンジロー」に入店。トンカツとエビフライのランチを注文するが、朝食からあまり時間が経っていないこともあって全部は食べられず。

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フェスティバルゲート地下のキッチンジロー

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今日のランチ

 昼食を終えるとホールへ移動する。今回は辻井のコンサートということで本来ならパスなのだが、ハンブルクフィルに興味があったために行くことにした。ただし辻井を考慮して安席確保で久しぶりの3階席。それにしてもやはりここの3階席は怖い。高いし急だしで目眩がする。

 

 

ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団

ケント・ナガノ(指揮)
辻井伸行(ピアノ)

ベートーヴェン:「エグモント」序曲
リスト:ピアノ協奏曲 第1番
マーラー:交響曲第5番

 一曲目のエグモントはナガノが思いの外、オケを煽っていた印象。ハンブルクフィルはかなりドッシリとした落ち着きのある音色を出すオケである。なかなかに堂々とした演奏であった。

 二曲目は辻井のピアノ。彼の演奏を聞くのは久しぶりであるが、かつての単に上手だけで弾いていた頃から比べると表現力の幅が増したのを感じた。彼もピアニストとして脱皮しつつあるように感じられた。特にアンコールのラ・カンパネラは情念のようなものまで籠もっていてなかなかに濃い表現。かつての辻井の演奏はキラキラしているだけでこの情念が感じられなかった。

 それと共に観客層の方もやや変化してきたか。かつては有名な辻井を見に来るという雰囲気のミーハーファンが大半であったが、今回は辻井の音楽を楽しむという音楽ファンが比率的に増えたように感じられ、かつてのようなマナーの悪さがあまり目立たなくなっていた。

 後半のマラ5はナガノのドッシリと構えたテンポが印象的。とにかく序盤は息が詰まるほど重苦しい展開で進む。何か人生に疲れ切って諦めつつあるかのようにさえ感じられる音楽である。それが楽章が進むにつれて段々と顔を上げていき、第4楽章で安らぎを得て、フィナーレではついに雄々しく立ち上がるというイメージ。非常に感動的な音楽となった。

 なかなかの熱演で場内は結構な盛り上がり。それに答えてのアンコールはハンガリー舞曲。あの思いっきり深い演奏をした後に、気分を変えてのハンブルクフィルの自在の演奏もなかなかに楽しめるものであった。


 この週末のコンサートもなかなかに豊作であった。満足をして帰宅することになったのである。

 

 

フェニーチェ堺にワルシャワ国立フィルのコンサートを聴きに行く

 翌朝は8時まで爆睡していた。かれこれ10時間近く寝ていたことになる。やはりたまに体を動かすと疲れが出るのか。

 さて今日の予定だが、堺にオープンしたフェニーチェで開催されるワルシャワフィルのコンサートに出向くということだけ。大阪地区での展覧会はほぼ攻略済みだし、堺には特に何もないしということで、他の予定は一切何も入れていない。

 とりあえず朝食を摂るために一度外出する。立ち寄ったのはこの界隈の喫茶店「ロミ」モーニングセット(380円)を頂く。

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喫茶ロミ

 オーソドックスなトーストにサラダとゆで卵、そしてなぜかバナナが付いている。珈琲は苦味が強すぎない私向きのもの。こういうのが朝からお安く頂けるこの界隈は実にありがたいところ。

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オーソドックスなモーニング

 

 

 朝食を終えるとホテルに戻ってくるが、今日は何の予定もないというわけでこの日の午前はシャワーを浴びたり、昨晩の放送番組をリモートでチェックしたり、この原稿を打ったり(笑)などでのんびりと過ごしている。

 ホテルを出たのは12時前。フェニーチェ最寄りの堺東駅はここから南海高野線で1本なのでアクセス至便である。駅からは少々距離があるようだが、トータルで見ると私の拠点からのアクセスではザ・シンフォニーホールと同レベルである。

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全国に多数ある銀座の一つ

 堺東の南口から出ると、目の前に「堺銀座」なる商店街がある。日本に多数ある銀座の何番目だろうか? この日の昼食は堺銀座内のそば屋「杵つきそば」「カツ丼」を注文。典型的な家族経営のそば屋の模様。シッカリしたそばはまずまずなのだが、全体的に味付けが薄い目でやや物足りない。

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商店街内の杵つきそば

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そば付きのカツ丼

 

 

 昼食を終えるとフェニーチェに向かう。なかなかに大きいホールである。内部は4階客席まである巨大なもので、構造的にはPACと類似している。ただしPACよりも客席の勾配が強い。

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フェニーチェ外観

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4階立ての客席はPACを連想させる

 なお今回のチケットについて、私は最優先販売なるものを利用したのだが、その結果は前方の端という超クソ席を割り当てられてしまった。どうやらチケットぴあと同じで、ここの最優先販売なるものはクソ席を先に捌くためのシステムだったと思われる(チケットぴあの場合はさらに優先販売手数料まで取られるという悪辣ぶりである)。ワルシャワ国立交響楽団なんて売り切れることはまずはあり得ないのだから、もう少し後で購入しても良かった(といってもそもそも座席指定販売自体がこのホールはないようだが)。

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かなり端の席だ

 で、開演を待ちながらホール内で今、この原稿を入力している(笑)。なお携帯電話抑止装置を装備しているとの放送があったが、さっき調べたら普通にスマホが4Gでネットにつながるんだが?

 

 

ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

〔指揮〕アンドレイ・ボレイコ
〔ピアノ〕反田恭平

モニューシュコ:歌劇「パリア」序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 op.95「新世界より」

 初っ端からドッシリとしてシットリとした弦楽器、さらには安定感抜群の管楽器に魅せられる。さすがにこのオケは上手い。技術的にはヨーロッパでも一流クラスだろう。一曲目のモニューシュコは初めて聞くが、なかなかに活気のある音楽。演奏が見事に統制の取れたものなので非常に引き締まっている。

 二曲目のショパンのピアノ協奏曲はピアノが入る前に演奏に魅せられてしまった。決して煽るところのない演奏なのだが、その中に深いロマンがある。これはポーランドの共感のようなものなのだろうか。そのあまりの深さに涙が出そうになった。

 反田のピアノはかなりロマンティックな演奏。情感タップリのメロドラマである。下手をするとメロメロになる危険もあるのだが、バックのオケが極めて冷静な演奏であるので、トータルとしてはバランスが取れて、反田は思いのままにメロドラマに走れるという印象。なかなかに聴き応えのある甘いショパンとなった。

 最後の新世界は抑え気味のテンポで謳いはするが決して溺れないというクールな演奏。東欧アプローチとでもいうべきなのだろうか、一音一音まで鮮明に描き出すというタイプの演奏である。溺れはしないが冷たい演奏というのとは違う。情感は籠もっているが、そこに一線を画しているということ。ここでもワルシャワ国立フィルの演奏は極めて安定したレベルの高いもの。最後まで見事なアンサンブルを通したのである。


 ウーン、実に見事という言葉の出てきたコンサート。ワルシャワ国立フィルは以前よりCPの非常に高い来日公演を行ってくれていたが、今回もまさにそうだった。演奏の満足度は高い。

 ただ一つ気になったのはホールの観客のマナー。静かなシーンではゴトゴトと誰かが音を出すし、演奏が終了するとフラブラやフラ拍も出てくる。挙げ句の果てが演奏終了後にストロボまで光ったようである。かといって第一楽章終了後に拍手とはならなかったので、動員がかかった素人が来ているというわけではなさそうで、たまたまマナーの悪い観客が集まったというところか。

 

 

大阪名物551の肉まんを土産に購入

 コンサートを終えるとホテルに戻ることにする。途中で夕食を摂ろうかと堺東駅地下のレストラン街を一回りしたが、ピンとくる店がなかったので新今宮に引き返すことにする。堺銀座の商店街をうろついた時にも感じたのだが、なぜ堺の町にはチェーンの飲食店ばかりがあるんだ? 堺まで来て「杵屋」や「KYK」や「家族亭」や「そじ坊」に入るのは悲しすぎるというものである。

 南海で新今宮まで戻ってくると、久しぶりに551の肉まんを買って帰る。551の店が新今宮にあるのは良いが、南海の改札の中なので南海に乗る時にしか買えないのが難点。ホテルに戻って辛子をつけて頂いたが、久しぶりに美味い。やはり大阪名物といえばこれか。

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大阪名物といえばやっぱりこれ

 

 

夕食は新世界の「だるま」で串カツ

 しばし部屋でゴロゴロと過ごす内に7時前になったので、夕食のために新世界に繰り出すことにする。どこに行くか悩んだが、面倒くさくなったので久しぶりにじゃんじゃん横町の「だるま」に行くことに。到着時には既に2グループほどが待ち客。その後ろに付くが、すぐに私の後ろにも数グループの行列が出来る。前のグループの1つが5人と人数の多い家族連れだったために、そこが栓になってしまってしばし待たされることに。入店できたのは20分後ぐらい。

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親父が目印のだるま

 串カツを10本ほどとコーラを注文する。やはりここの種類の多い串カツの方が私に合っている。軽くつまんで1750円ほど。まあこんなものか。

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キャベツをつまみながら串カツの来るのを待つ

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串カツ一式

 食後はジャンジャン横丁をプラプラ。相変わらず八重勝とてんぐの前はとんでもないことになっている。それを横目に見ながら、レトロゲーセンで久しぶりにゲームを少しプレイしてからホテルに戻る。

 この日もかなり疲れがあるので、風呂に入る気力もないまま早めに意識を失ってしまう。

 

 

関西フィルいずみホール公演の前に「佐竹本三十六歌仙絵」を見て、嵐山の福田美術館の名品を鑑賞する

京都ユニバーサルホテル烏丸は私の第二定宿となり得るか?

 翌朝は7時半頃に目が覚める。さて今日の予定であるが、京都地区の美術館を回ってから、大阪のいづみホールでの関西フィルコンサートに出向くつもり。ただやや寒さがあって体が冷えているのでまずはシャワーで体を温める。この辺りはやはり京都か。これからの季節は京都の厳しい冬がやって来るんだろう。

 朝食はレストランでバイキング。一応和洋両対応だがかなり簡素な内容である。とりあえずたっぷりと燃料補給しておく。

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朝食

 このホテルは初めての宿泊だったが、印象としては結構使えるなというところ。部屋は広めだし大浴場があるのが特に良い。夕食が付いてくるのはコストを抑えるのには良いが、これのせいで会社の研修所感が強くなってしまうので、良し悪しでもある。なお立地的に近くに飲食店が見当たらないのはマイナス。またコンビニが近くにあるのは良いが、それがヤマザキ比率の高いローソンなのもマイナス。トータルとしてみると、チェックイン四条烏丸に次いで第二定宿として使えるポテンシャルはある。今後も空きと価格次第だろう。

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ローソンが入っている

 8時半頃にホテルをチェックアウトすると京都駅の地下のコインロッカーに荷物を放り込み、最初の目的地へ向かう。ここはバスでないとアクセスしにくい場所なのだが、毎度の事ながらこのバスが異常な混み方である。

 現地には開館の15分前ぐらいに到着するが、この時点で200人ぐらいの行列が出来ていた。最近になってNHKがやたらに宣伝に力を入れていたのでその影響か。

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開場前にこの状態

 

 

「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」京都国立博物館で11/24まで

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 鎌倉時代に作成されたとされる三十六歌仙を描いた絵巻物を、後に分割して掛け軸にし直したものを展示している。この絵巻が分割された経緯についてはヒストリアで放送していたが、要は売りに出された時に高すぎて丸ごと購入できる者が国内におらず、海外流出が懸念されたために絵巻を分割して当時の一流の財界人がそれぞれ購入したということである。

 もっとも財界人というのは常に栄枯盛衰がつきものであるので、中にはその後の所有者が変更されたものもあるようだが、所有者自身が美術館を設立してそこの収蔵品になっているものも多いようである。

 さてその作品自体だが、鎌倉肖像の傑作と言われているが、残念ながらそこに描かれている人物の顔を私は知らないので、どれだけうまく描けているのかは判断できない。全く不可能な話ではあるが、モデルになっている人物の写真でもあれば分かりやすいだろうに。また非常に細かい表現をしているらしいことも何となく分かるが、これも残念ながら作品を手にとって間近で見られるわけでなく、さらには長い年月による劣化もあるので不明瞭な部分も多々ある。

 つまりは「傑作」と言われればそうなんだろうなと納得はするが、かと言って強烈に何かのインパクトを受けるという作品でもないというのが私の正直な感想。やはりあまりに玄人好みのような気がする。

 なおテレビで散々宣伝していた斎宮女御の絵が後期のみの展示というのはドッチラケだった。確かに複製画で見る限り、他の人物がすべて白地に人物だけが描かれているのに対し、彼女だけ回りの調度なども描かれており、明らかに別格扱いである。なお大和文華館の所蔵品のようなので、また向こうで展示される時に奈良まで見に行くか。

 

 

大観光地・嵐山の美術館へ

 展覧会の見学を終えると嵐山に向かうことにする。目的はこの地にこの10月にオープンしたという福田美術館を訪問すること。私のページにGoogleAdSenseでやたらにこの美術館の宣伝が入るので何だと思って調べたところ、なかなか面白そうであると判断した次第。

 地下鉄で太秦天神川まで移動すると、ここから嵐電に乗り換える。嵐山方面に向かう二両編成列車は乗客を満載している。

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嵐電嵐山に到着

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嵐山駅自体が観光センター

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辺りは観光客がウロウロ

 嵐山には10分ちょっとで到着するが、嵐山周辺の観光地度合いはかなりすごい。観光客目当ての店が林立して、外国人観光客が大勢闊歩している。目的とする美術館はそういう一角から少しだけ外れた鴨川縁にある。

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渡月橋

 

 

「開館記念 福美コレクション展」福田美術館で1/13まで

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 展示室に入るなり竹内栖鳳の獅子と虎の掛け軸が迎えてくれる。リアルで力強い描写は栖鳳ならでは、さながら第一展示室の門番と行った趣がある。

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栖鳳の獅子と虎

 その隣には大観と春草の掛け軸があり、大観が静かな竹林を描き、春草が荒々しい波を描いているというのが面白いところ。竹林の絵は大観にしては非常に緻密な絵。

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春草の波と大観の竹林

 同じ展示室には大観の富士を描いたいかにもという大作もある。さらには上村松園の美人画や下村観山の逸品も。

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大観の富士に

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松園の美人画

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下村観山の逸品

 これだけで既にお腹いっぱいだが、さらに別室には伊藤若冲の鶏を描いた屏風絵に北斎による掛け軸といったいずれも唸らせられる逸品が揃っている。

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さらに若冲の鶏に

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北斎の掛け軸まで

 挙げ句にモネやシャガールの秀品まで収蔵していた。このコレクションのレベルの高さには圧倒されたのである。

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なんと、モネまでありました

 観光客目当てのリゾート美術館と少々なめてかかっていたところがあったが、ここのコレクションには圧倒された。個人美術館でこのレベルは驚きではある。これだけのコレクションを蒐集するにはかなりの財力が必要だと思われるが、調べたところオーナーはアイフルの創業者とのこと。さもありなん。また後期の展示もあると言うことなので、スケジュールが合えば訪問したいところである。

 

 

嵐山で元祖桜餅を頂く

 美術館の見学を終えると移動だが、その途中で桜餅の店「こときき茶屋」を見かけたので入店する。桜餅に惹かれたというか、抹茶に惹かれたというか。どうも山種美術館でお茶して以来、抹茶付いている。先頃亡くなった某大女優のように「私の血液には抹茶が流れている」とでも言うか。いや、それだと血液が緑色になってしまって昆虫かガミラス人である。

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元祖桜餅の茶屋

 ここの桜餅は餅と餡が別になっているという変わったタイプ。この店は「本家桜餅」と名乗っているが、桜餅の元々の形態はこうだったということだろうか。葉っぱに包んだ餅が出てくるが、葉っぱごと食べられますとのわざわざの説明付き。いちいちこれをめくろうとする客が少なくないのだろうが、桜餅は柏餅と違って葉っぱごと食べるのが前提である。桜の風味が心地よい。餡は甘すぎずの上品な味。

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ホッとする一品

 桜餅で一息ついたところで移動にする。当初予定でもう一軒美術館に立ち寄ろうと思っていたが、時間的にもう無理なので次回に回すことにする。思いの外、嵐山は京都から遠かった。とりあえずこの後はいずみホールで開催される関西フィルのコンサートに出向く予定なので、京都駅に舞い戻ってキャリーを回収すると新快速で大阪に移動する。

 

 

京橋で昼食を摂ってホールへ

 京橋で降りるとホールに向かう道すがらで昼食を摂る店を探すことにする。結局立ち寄ったのはオフィスビルの3階にある「香港食卓」。ランチ用の炒飯とエビチリのセットを注文する。まあ可もなく不可もなくの内容。場所柄か大阪にしてはCPは今一歩。

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オフィスビル内の中華料理屋

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可もなく不可もなく

 昼食を終えるとホールに向かう。既にホールの前には開場待ちの人だかりが出来ていた。

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いずみホール

 

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 いずみホールシリーズVol.46

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ヴァハン・マルディロシアン(指揮、p)
関西フィルハーモニー管弦楽団

グリーグ:ホルベルク組曲 op.40
     ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
シベリウス:交響詩「エン・サガ(伝説)」 op.9
      交響詩「タピオラ」 op.112

 一曲目のホルベルクは磨き上げられた関西フィルの弦楽陣が威力を発揮する曲。シットリじっくりと描ききったという印象。それにしても完全に古典スタイルの曲である。

 二曲目のグリーグのピアノ協奏曲はマルディロシアンの弾き振り。マルディロシアンのピアノはその厳つい顔に似合わぬ(笑)かなりロマンティックな演奏。弾き振りにもかかわらず、そのテンポ設定は結構変則的で細かい変化が随所にある。それにピッタリと合わせた関西フィルも見事。マルディロシアンとコンマスが頻繁にアイコンタクトを取っていたようである。マルディロシアンは見た目に反して(笑)意外に器用で繊細な男のようである。情緒タップリで非常に表現幅の広いグリーグであった。

 休憩後はシベリウス。マルディロシアンの指揮はシベリウスが曲で展開した風景をそのまま描くと言った印象。「エン・サガ」の方は北欧の霧の中から突然に沸き起こる英雄譚のような印象を受ける。「タピオラ」はシベリウス晩年の難しい曲であるが、それをそのままありのままの風景として表現しているように感じられる。タビオが森の神とのことだが、確かに幽玄として奥深い北欧の森の風景そのまま。マルディロシアンの表現スタイルは濃厚でありながら、あくまで自然だったのが印象に残る。


 マルディロシアンの演奏は初めて聴いたが、なかなかにピアニストとしても指揮者としても注目株というように感じられた。なおピアノ演奏に関しては、どうも当意即妙の即興的な演奏が彼の本来ではという印象を受けた。現音も得意レパートリーとしていると冊子にもあったが、そうだろうなと納得できるところ。

 

 

夕食は新世界でふぐを頂く

 コンサートを終えると宿泊ホテルに移動。今回も宿泊は定宿化しているサンプラザ2ANNEX。チェックインを済ませて部屋に荷物を置くと夕食のために新世界に繰り出す。

 何を食うか考えながらプラプラするが、どうもピンとこない。串カツも考えたがそういう気分ではない。昼が中華だったから中華もなし。段々と面倒くさくなってきて、目の前に浮かんでいるふぐ提灯につられて「づぼらや」に入店する。

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巨大ふぐ提灯が目印

 関西人なら誰でもCMを見たことはあるという有名なふぐ専門店である。とりあえず「てっさ御膳(3100円)」を注文する。

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てっさ御膳

 てっさに小鍋や唐揚げなど一渡りが付いてくる。相変わらずふぐの唐揚げは鶏の唐揚げのような感覚。てっさはうまいが、正直なところ驚いたり感動するレベルではない。改めて私が以前から言っている「カワハギの刺身はてっさよりも美味い」ということを再確認してしまったような気がする。最後はてっちりの小鍋を頂いて終了。うーん、美味くはあるのだが、想定内というか驚きがないんだな・・・。この店で感動するものを食べようと思うと、倍ぐらい出さないと無理なのかな?

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てっちり小鍋と唐揚げ

 夕食を終えるとスーパーで買い物をしてからホテルに戻る。ホテルに戻るととりあえず入浴。ホッとする瞬間である。後は部屋に戻ってウダウダしていたが、やはり疲れがあるので早めに就寝することにす
る。

 

 

格安のDaiwaシートが当たったので、BBC Proms in OSAKAを聴きに行った

 今日はBBC Promsの公演を聴きに行くために大阪に出向いた。この秋は来日オケが目白押しで経済的に破綻状態にあるため、平日のこの公演はパスするでいたのだが、スポンサーの大和証券による格安のDaiwaチケット(1000円)が販売されるとのことなので、その抽選販売に応募したところ何と当選したという次第。本場のBBC Promsは格安の立ち見席があるらしいので、それに習ってスポンサーのご厚意により格安チケットを販売したとのこと(日本のホールに立ち見席はないので着席できます)。くじ運の持ち合わせが皆無でクジの類いにはまずは当たらないという私なのだが、購入希望者が少なかったのか、それともようやく私にも運が向いてきたのかは不明だが、とにかく当たったものは行かないとというわけで大阪まで出向いた次第。

 

 

大阪駅で夕食は博多ラーメン

 仕事を早めに終えてから大阪に移動すると、会場であるザ・シンフォニーホールに駆けつける前に夕食を腹に入れておくことにする。立ち寄ったのは大阪駅の「博多一幸舎」「味玉チャーシュー麺」に「ご飯」と「餃子」を付ける。「魅惑の炭水化物フルコース」だが、同時に「糖尿病患者はさっさと死ねコース」でもある。

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博多一幸舎

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ラーメンと白ご飯

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そして餃子

 細麺のいかにも博多ラーメンという麺が実に美味いが、正直なところスープが私には濃すぎ、いささか塩っぱすぎるように感じられる。こういうのに慣れてしまうと、健康カプセルで言っていた「デブ味覚」ってやつになってしまうんだろうか。

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 夕食を終えるとホールへ移動する。ホール内は9割方埋まっていて結構な入りである。なお私の席は正面2階席の隅。格安席だからどうせ3階の2列目の見切れ席かP席だろうと思っていたのだが、予想よりも遥かに良い席である。なお本公演はP席には観客は入れなかった模様。

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予想していたよりは遥かに良い席

 

 

大和証券グループpresents BBC Proms JAPAN 2019 Prom2(プロム2)BBC Proms in OSAKA(BBC プロムス・イン・大阪)

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[管弦楽]BBCスコティッシュ交響楽団
[指揮]トーマス・ダウスゴー
[ピアノ]ユリアンナ・アヴデーエワ

メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 op.23
マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調

 最初のフィンガルはあまりにも前のめりの演奏。ダウスゴーがかなりのペースで突っ走ってしまい、海に面した洞窟の曲と言うよりも、その洞窟の前をモーターボートですっ飛んでいくというイメージ。正直なところ情緒もへったくれもない。またBBCスコティッシュ交響楽団も精緻なアンサンブルを聴かせるというタイプのオケではないようで、ところどころでアンサンブルの怪しいところが耳につく。さらにはダウスゴーの痙攣のような指揮スタイルが極めてタイミングを取りにくいものであり、もしかするとこれもアンサンブルが甘くなる一因かもしれない。

 アヴデーエワをソリストに迎えてのチャイコフスキーは、いきなり冒頭からダウスゴーがすっ飛んでいきそうになるところを、アヴデーエワが主導権を握った途端にテンポを抑え気味にするという印象。オケは飛ばそうとし、ピアノはそれを抑えるという奇妙な緊張感のある第一楽章となった。第二楽章も似たような様子だったのだが、第三楽章になると今度はアヴデーエワがオケよりもペースを上げてくるというように立場が反転。怒濤のように曲を終えてしまった。さすがにアヴデーエワの演奏は堂々とした見事なものであったが、バックとのどことなくギクシャクした雰囲気が曲への集中を妨げてしまうきらいがあった。

 正直なところここまでで「何かイマイチだな」という印象を抱いたが、元々1000円の公演だし仕方ないかと考えていたところ、休憩後のマーラーになると演奏が一変した。あれだけせわしない演奏をしていたダウスゴーが、一転して腰を据えてじっくりとマーラーの音楽を描き出したのである。14編成から16編成に拡大したBBCスコティッシュ交響楽団の演奏も、前半と違って気合いの入ったキレの良いものとなっており、かなりノリが良くなっているのがビンビンと伝わってくる。もしかして後半のマーラーをじっくりやるために前半を急いだのか?との疑問まで湧いてくる状態。それなら最初からフィンガルをプログラムに入れるなよと言いたくなるところ。

 ダウスゴーのマーラーはかなり細かいテンポ変動も多い濃厚で劇的な表現である。テンポを落とし目でドラマチックに描いた第一楽章に、徹底的に美しく表現した第四楽章などが印象に残る。そしてクライマックスの第五楽章は様々なニュアンスを含みつつ見事に完結。マーラーの心の機微さえ表現しようとしているかのような濃厚で熱さのある演奏であった。ダウスゴーの指揮スタイルは相変わらずギクシャクとした奇妙なものではあったが、かなり熱が入っていたのは間違いなかった。

 この時点で場内は結構な盛り上がりとなったのだが、アンコールは威風堂々。歌詞が配られていたので場内の皆さんも歌ってくださいという趣向だったのだが、さすがに英語の歌をぶっつけ本番で歌える観客はほとんどおらず(たとえカタカナで読みを振ってあっても)、歌声はあまり聞こえては来なかったのだが、オケの熱の入った演奏に場内は大盛り上がりで、演奏終了直前に既に場内は「ウォーッ」状態。お祭りに相応しい大盛り上がりとなってコンサートは終了したのである。

 終了した時点で21時半。なかなかの長時間公演になった。だから前半あんなに急いだのか? しかしそれならやはりフィンガルをプログラムから抜いておけば良いのに・・・。


 最初はパスするつもりの公演だったのだが、結果としてはめっけものということになった。ただ予定していたよりも終演がかなり遅かったので、駅まで早足で移動することになったのである。明日も仕事だ。ああ、休みてぇ(笑)。

 

 

チェコフィル大阪公演&「刀装具鑑賞入門」「ショパン-200年の肖像」

 翌朝は回りの部屋がバタバタし始めた7時頃に起床する。今日は14時からザ・シンフォニーホールでチェコフィルのコンサートなので、それまでは美術館などをウロウロするつもり。テレビをつけるとちょうど健康カプセルを放送中だったので、リアルタイムで原稿執筆。その後はこの原稿を書いたりなどしていたが、9時前になったところでホテルをチェックアウトすることにする。

 

新今宮の喫茶で朝食

 朝食を摂っていないのでまずはそれ。新今宮界隈の喫茶店「ラ・ミア・カーサ」モーニングセットを頂くことにする。この界隈は朝から開いている喫茶店が多いのは助かるところ。珈琲は私の好みよりはやや苦め(基本的に私は珈琲についてはインスタント舌である)だが、サンドイッチはなかなかうまい。

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ラ・ミア・カーサ

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モーニングセット

 朝食を済ませたところで最初の目的地へと。ここの博物館は隣がNHK大阪局である。

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大阪歴史博物館

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隣はNHK大阪放送局

 

「刀装具鑑賞入門」大阪歴史博物館で12/1まで

 最近は刀剣ブームで刀の展覧会が多かったが、あれらは刀身の方がメインで刃紋などが最大の見せ所となっていた。しかし本展は鍔やら小柄などといった拵え、刀装具の展示を行っている。刀装具コレクターで研究者だった勝矢俊一氏のコレクションの一部を遺族から寄贈されたことを記念しての展覧会だとのことである。

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刀の拵えについての説明

 展示品は鍔やら小柄に笄や目貫などの三所物、柄頭など各種に及ぶ。この中でいわゆる三所物がピンとこなかったが、目貫は刀身を柄に固定させるための釘を覆う金具、笄は髪をかき上げて髷を作るための道具で、小柄は小刀で木を削ったりなどの実用ナイフといったところで、これらはすべて太刀とセットで持ち歩くのが通常だったらしい。そう言えば時代劇で「あっ、危ない」という場面で主人公が何やら手裏剣のようなものをビシッと敵に投げつけるシーンを何度か見たことがあるが(私の脳内では現在里見浩太朗の映像が再生中)、あれが小柄だったようだ。

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三所物から小柄と笄

 この三所物は刀を飾るお洒落道具として統一したデザインなどを用いるのが流行だったようだ。また刀の鍔なんかも様々な意匠を凝らしたものが多い。ただ中には浮き彫りを凝りすぎて、鍔の本来の役割である相手の滑った刀身によって手をやられないように止めるという機能を果たすだけの強度があるのだろうかという疑問の湧くような作品もあった。やはり多分に刀も形式的な物になった江戸時代の話だからこの手の装飾が流行するわけで、刀がそもそも実用品であった戦国時代などでは考え方も違うだろう(大体刀自体が消耗品でもあったし)。平和になったら装身具の類いに凝るというのは世の常のようだ。その内に世界中の銃もその必要性がなくなり、射撃に邪魔になりそうなデコレーションが流行するような世の中になればよいのになんて考えることもしばし。

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この鍔なんか強度は大丈夫か?

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この鍔なんか太陽の塔にしか見えない

 凝った工芸品を鑑賞すると共に、刀という物について学ぶことが出来るという面白い趣向の展覧会であった。たまにはこういうのもありか。


 展覧会の鑑賞を終えて時間を見るとやや微妙なところではあるが、昨日立ち寄れなかった「ショパン展」に行くことにする。大阪から神戸まで戻ると美術館へと急ぐ。昨日は空気が抜けて干物状態になっていた屋上のカエルが、今日は復活している模様。

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屋上のカエルが今日は復活

 

「ショパン-200年の肖像」兵庫県立美術館で11/24まで

 画家ならともかく、音楽家のショパンを扱う展覧会とはいかなる展示をするのだろうという野次馬根性で見に来たような展覧会であるが、冒頭はショパンや同時代の有名人の肖像というお約束のパターンであった。その中にはショパンのいかにも甘いマスクの肖像画もあり、このマスクにピアノの詩人と来ればさぞかしモテただろうなんてことを想像する。その上にショパン以上にモテたと言われているリストのイケメン肖像なんかも登場する。

 さらにはショパンの曲をイメージして描いた絵画なども登場するのだが、残念ながらピアノ曲にあまり詳しくなく、ショパンの前奏曲第3番と言われても曲想が全く浮かばない私にはただの版画。さらにはショパンゆかりのワルシャワやパリなどの当時の風景と言ったようなかなり脈絡のない展示となっていく。

 面白くて貴重なのはショパンの直筆楽譜が展示されていたことだろうか。ショパンはインスピレーションが湧くと、まずはピアノでサラッと弾いてみて、それからスケッチをし、場合によってはそれを清書して出版するというスタイルだったらしい。いかにもピアニストとして名をなしていた人物らしい作曲スタイルではある。直筆楽譜を見ると結構細かくビッシリと書いてあり、天才肌でありながら結構几帳面な性格だったのではということが覗える。

 最後にはショパンコンクールに関する展示があり、歴代受賞者の紹介なんかもあった。一番最後にはピアノの森に関する展示まであったが、これは完全に蛇足。

 全体的にとりとめのない展示内容だったが、とりあえずショパンを核にしてその人物像にボヤンと迫るというぐらいの感覚だったらありなんだろうか。まあ正直なところ、ところで一体何を見せたかったんだとのツッコミを入れたくはなるが。


 見学はザッと30分ぐらいで終わる。これだと昨日ショパン展の方も立ち寄って、中之島香雪美術館を今日に回せば良かった。交通費と移動時間を無駄にした感がある。と言っても実際は美術展見学に費やす時間は事前には読めないのであくまで結果論である。人生、あの時にああしていたらというのは無数にあるものである。

 移動に時間がかかったので時間に余裕がない。結局は昨日に続いて今日も昼食抜きでホールに駆け込むことになる。ホール内でサンドイッチでも買おうかと思っていたが、今日は補助席まで出る大混雑なので喫茶には長蛇の列。案の定サンドイッチはさっさと売り切れなので、せめてコーラでわずかな燃料だけでも補給しておくことにする。

 

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

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[指揮]セミヨン・ビシュコフ
[ヴァイオリン]樫本大進
[管弦楽]チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

スメタナ:連作交響詩「我が祖国」より「モルダウ」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 「悲愴」 op.74

 もう一曲目のモルダウから魂を鷲づかみにされた印象。ビシュコフの表現力は川の水が跳ねる様子、月夜の下で静かに輝く水面、逆巻く激流と目の前にモルダウの流れがあるかのように見事に描き出す。このビシュコフの表現は一つ間違うと演出過剰の嫌みなものにさえなりかねない危険もあるのだが、それが超一流のテクニックを持つチェコフィルにかかると、他に例を見ないような濃厚で素晴らしい演奏となる。特にアンサンブルの完璧さはさすがと圧倒される。

 二曲目は樫本大進をソリストに迎えての協奏曲だが、大進の演奏は上手いのであるがやや表現が淡泊なところがある。それがビシュコフがオケセッションになると情感たっぷりに濃厚な表現をするので、大進も中盤以降はややそれに引っ張られた印象。結果としてはバランスの良いなかなかの名演。

 出色の出来だったのはラストの悲愴。緊張感張り詰める中で始まった第一楽章はとにかく美しい。美しすぎて切ない。それだけに展開が分かっていても途中の運命の暗転にはドキッとさせられる。怒濤のように訪れる運命にあらがおうとしつつも翻弄されているという印象。続く第二楽章は滑稽なワルツのような楽章なのだが、ここでも常に背景に不安が漂っていて、時々それが表層に表れる。第三楽章は演奏者によっては単純なファンファーレにしてしまう場合さえあるのだが(典型的だったのがバッティストーニ)、ビシュコフは決してそんな浅い表現はしない。押し寄せてくる不安感の中で空元気を出そうとしているかのような雰囲気であり、やがてはそれが狂乱状態に近づくのだが、そこで力尽きるという印象。

 そして最終楽章。ビシュコフは曲全体のクライマックスをシッカリとこの楽章に持ってきた。そこで繰り広げられる美しくも切なすぎる音楽はまさに魂を揺さぶる。あまりの切なさに思わず涙が出そうになった。ビシュコフもオケも見事な集中力でまさに力を使い果たすかのようにラストまで突っ走った。

 演奏終了後もビシュコフはグッタリした様子でいつまでもこちらを振り返らなかった。見ていて「出し切った感」が半端なかったが、同様にこちらもいささかグッタリしてしまった。実に濃厚で真に迫る悲愴であった。ポリャンスキーのテンション張り詰める悲愴とはまた別のタイプの超名演であった。


 これでこの週末の予定は終了だが、最後に今年を代表するかのような名演に出会えて非常に満足である。疲れも吹き飛ぶ思いで家路につくのである。