徒然草枕

クラシックのコンサートや展覧会の感想など、さらには山城から鉄道など脈絡のない趣味の網羅

お知らせ

アニメ関係の記事は新設した「白鷺館アニメ棟」に移行します。

白鷺館アニメ棟

下野指揮大フィルの定期演奏会の前に、美術館を3軒ハシゴする

土曜日は大フィルと美術館

 今日は大阪フィルの定期演奏会である。ただそれだけに大阪まで繰り出すのはしんどいので、合わせ技を用意している。とりあえずこの日は午前中に家を出て大阪に向かう。例によって阪神高速の渋滞はあるが、夕方ほどひどいものではない。むしろ対向車線の方が渋滞はひどそう。

 予定よりも若干早いペースで大阪に到着すると、アキッパで予約しておいた駐車場に車を入れる。まずは近くの美術館からである。それにしても暑い。表を10分以上歩くのは命に関わりそうである。

目的地は中之島キューブ(私はこの建物をこう呼んでいる)

 

 

「民藝」大阪中之島美術館で9/18まで

会場入口までシンプルだ

 柳宗悦が説いた「民藝」思想とは、生活に密着した手仕事の品々に美を見いだすという考えである。そのような民藝思想に基づいて「衣食住」の観点から民藝の品々に注目するという展覧会。

 最初は柳宗光が提案したというテーブルコーディネートを展示。まさに「民藝のある生活」という趣である。肩肘張ってえらそぶった芸術作品でなく、日用の中に潜む用の美というものである。

民藝のある食卓

こういうのは結構好きだな

いかにもの陶器類

 次が衣食住のコーナーとなり、衣はいわゆる着物の類い。日用的な衣類にさりげなく施されている装飾などに注目する。アイヌの衣なども展示されおり、文化の反映でもある。

 食は食器類。いわゆるいかにも格好付けた茶道具などの類いと違って、もっと日常に溶け込んだ普通の器でありながら、何らかの装飾的要素も持った品々である。住についても似たようなもので、日常生活に使われる品々の中の美に注目する。

 

 

 後半になると世界各地の民藝的な品々(いわゆるプリミティブアートにもなる)や、現在も続く工芸の産地などを紹介している。もっともこの中でも小鹿田焼のように無形文化財に指定されたものもあれば、鳥越竹細工などは原料の調達が困難になってきて危機に瀕しているものもあるとか。

 最後にまさに「現代にマッチした民藝コーディネイト」的な展示があるが、正直なところ少々ゴテゴテしすぎのような気もしないでもない。

少々ゴテゴテしすぎのような印象を受ける

床がいささかうるさすぎる

 展示品はシンプルで素朴な品々が多いが、そこから柳宗悦らの「日常の中に美を見いだす」という精神を感じようという展覧会である。確かにじっくりと見ていたら味のある品々が多い。もっとも現代の我々の日常生活は、無味乾燥な大量機械生産品ばかりになってしまっているが・・・。

 

 4階の展示室の見学を終えると、5階の展示室の方も見学する。

 

 

「Parallel Lives 平行人生 — 新宮 晋+レンゾ・ピアノ展」大阪中之島美術館で9/14まで

会場は5階

 共に1937年生まれの芸術家、新宮晋とレンゾ・ピアノの作品を併せて展示する。

 新宮晋と言えば、一連の風で動く彫刻が有名である。それらを展示してある。風を受けて刻々と形態が変化するそれらの彫刻はメカニカルに興味深いところ。

新宮晋「自由の翼」

新宮晋「模型」

展示室の天井には新宮の作品が

手前「月の船」奥「雲の日記」最奥「星空」

新宮晋「平和」

 

 

 一方のレンゾ・ピアノは大胆な建築デザインで知られる。彼は関空のターミナルビルなど様々な建築で新宮晋とコラボした作品を発表している。やたらに空間を感じさせるデザインは新宮作品との相性が良さそうであることは想像が付く。

レンゾ・ピアノ「アトランティス島」

レンゾ・ピアノ「ジェノヴァ港再開発全体模型」

レンゾ・ピアノ「565ブルーム・ソーホー全体模型」

 最後は新宮の地球アトリエプロジェクト関連の作品と、レンゾ・ピアノの東京海上ビルディング。

レンゾ・ピアノの東京海上ビルディング最終スケッチ

東京海上ビルディング模型

新宮晋「地球アトリエプロジェクト関連」

 どちらも芸術としてどうかは微妙なところではあるのだが、センスの良さのようなものを感じるのは明らかである。やはりなかなかに興味深かったりする。


 それにしても展覧会も高くなったものだ、「民藝展」1700円、「新宮展」2400円。私の感覚では1200円と1500円辺りが妥当な相場。アホノミクスがいろいろな点で価格破壊をして、社会のタガをガタガタにしたのを感じる。

 

 

昼食は鳥取飯

 両展覧会の見学を終えた頃にはちょうど昼時、昼食を摂る店探しと次の目的地移動を兼ねてホールの方向に移動。結局昼食はフェスティバルゲート地下の「麒麟のまち」で摂ることにする。鳥取の産直品ショップを兼ねて、鳥取の地場ものを食べられるという食堂である。「きりん御膳(1000円)」を注文する。

鳥取アンテナショップの「麒麟のまち」

 ハタハタ不漁のためにニギスに変更との注意書きがあるが、私は両者の違いが明確に分かるほど魚類には強くない。添えられているミズタコのフライは歯ごたえがあるを通り越して私の歯とあごの力ではかみ切れない。何てことのない内容だが、この年になるとこういう内容が一番ホッとするのも事実。

鳥取メニュー満載の「きりん御膳」

 昼食を終えるとこの上の美術館に立ち寄ることにする。

 

 

「唐ものがたり 画あり遠方より来たる-香雪美術館の中国絵画-」中之島香雪美術館で7/30まで

中之島香雪美術館

 香雪美術館が所蔵する、中国から日本に渡った絵画を展示。最初は布袋や観音図などの人物が、さらに花鳥画に山水画などが展示されている。

吉祥天像

松下布袋図

寒山拾得図

 

 

 なおこれらの渡来の作品は後の日本の画家に大きく影響を与え、模写から贋作まで様々に登場したようである。本展の出展作品の中にも、中国からの渡来品とされているが、画風などから考えるとかなり怪しいという注釈付きの作品も多々出展されている。

魚蟹図

白鷺図

 とりあえずこのような作品に目を通すと、やはり日本の絵画が中国から受けた影響というのは絶大なものであったと言うことを感じさせられる。その辺りの日本文化と中国との関わりなどに思いを致すと興味深いものがある。

四季山水図屏風 左隻 狩野永徳

四季山水図屏風 右隻 狩野元信

 さてこれで今日の展覧会の予定は終了。後は大フィルの定期演奏会だけである。そろそろ開場時刻近いことなのでホールに向かうことにする。

下野竜也登場

 

 

大阪フィル第570回定期演奏会

大フィルは16型大編成

指揮:下野竜也
ピアノ:ヴァルヴァラ

フィンジ/前奏曲 ヘ短調 作品25
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595
フランク/交響曲 ニ短調

 ブレトークによると下野の大阪フィル定期演奏会への出演は9年ぶりとのこと。最近進境著しい下野が、縁の強いという大フィルを指揮していかなる演奏を披露するか。

 大フィルは16型の大型編成で望むが、第一曲目は弦楽陣のみが登場で、いかにも珍曲マニア下野らしい全く聞いたことのない曲。しかしなかなかに美しい曲である。大フィル弦楽陣もブイブイとなかなかの盛り上がり。贅沢を言うともう少し色気の欲しいところであるが、その辺りはまたデュトワにでも鍛えてもらうか。

 二曲目はオケを10型まで縮小してのモーツァルト。ピアノのヴァルヴァラはかなりエレガントで上品な演奏という印象である。音色はなかなかに美しく、下品な誇張のないストレートな演奏。もっともそれでいて無機質にはなっていない。

 彼女はアンコールでブラームスの3つの間奏曲より第1曲を披露したが、これもなかなかにして美麗な演奏である。ただ個性を強烈に主張しない分、印象の弱さのような者もあるのは事実。

 さて終盤は下野が好きだというフランクの交響曲。これがまた格好良い。下野は例によって低い身長をそれ以上に使ってかなりブイブイとオケを煽るのだが、それに対して大フィルはかなり迫力のある音色で答える。第1楽章などは緊迫感を保ちつつもグングンと前進していくパワーが圧倒的でなかなかに引き込まれる。

 そして美しい第2楽章を経て、主題が錯綜する最終楽章へ。メリハリの効いた演奏で大盛り上がりである。下野はかなりオケを煽りまくっていた印象があるが、それに答えて大フィルもかなりパワー溢れるサウンドを出していた。このコンビニは是非とも今後も公演願いたいところだ。


 これで今回の予定は終了。帰途につくこととなった。なかなかに充実していたが暑さのせいもあって流石に疲れた。

 

 

最終日は京都でルーヴル展の後にハンブルク交響楽団の公演

最終日は灼熱の京都へ

 翌朝は目覚ましで8時に起床。昨日購入していた朝食(いなり寿司)を手早く腹に入れると、まずは朝シャワー。体が温まったところで手早くチェックアウト準備をする。

 今日の予定は京都で開催されるハンブルク響のコンサート。その前に京セラ美術館でのルーヴル展を覗いていくつもりである。ただこの時期の京都には注意ポイントが2つある。まず一つは異様な暑さ。とにかく夏の京都は表に出たら殺意を感じるような暑さで、その暑さ(よりも「熱さ」と書くべきか)は大阪の比ではない。気をつけないと熱中症で命を落としかねない。

 もう一つの注意ポイントは祇園祭。疫病封じの祭りが今年も大コロナ感染祭りになるのではと懸念されており、とにかく近づかないことが肝要。さらに困るのは京都中心が大規模な交通規制がかかるので、一つ間違うと身動き取れなくなること。これらも考え合わせると柔軟な行動が要求されることになる。

 とりあえずまずは京セラ美術館を目指すが、安全策を取ってかなり早めにホテルをチェックアウト。京都南出口で名神を降りるコースでなく、京都東出口で降りて東側から回り込むルートを選択する。途中で渋滞もあったが、非常にタイミング良く展覧会開場直前の京セラ美術館に到着する。駐車場に車を置いて美術館に入館すると、既に券売所には長蛇の行列が出来ている。やはりルーヴルのネームバリューは強い。

10時前に京セラ美術館に到着

券売所には行列が

 

 

「ルーヴル美術館展 愛を描く」京都市京セラ美術館で9/24まで

テーマは「愛」

 ルーヴルの収蔵作品から「愛の風景」を描いた作品を展示。まずはいわゆる神話を題材にした作品から。神話で愛となるとやはりヴィーナスなどが定番となる。もっともヴィーナスとなると浮気の話も多い。

 これが第2コーナーになると、キリスト教の愛ということで、神の愛の象徴たるマリア像などの話になってくる。そして昔から人気のあるのはマグダラのマリア。娼婦から改悛したということで宗教題材にかこつけて妖艶な絵も描けるからだろうか。

 第3コーナーの人の愛となると、市井の人々の日常を描いたオランダ絵画等が中心。中には下世話なものもあり「家政婦は見ていた」という趣のものも。

 最終コーナーが撮影可能エリアで、作品は結構ごった煮である。それにしても画家の名前や作品の名前がやたらに長いのばかりはなぜだ?

最後の展示室のみが撮影可

アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルシー=トリオゾン「エンデュミオンの眠り」

クロード=マリー・デュビュッフ「アポロンとキュパリッソス」

アリ・シェフェール「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」

 

 

 辛うじて名前を聞いたことがあるのはドラクロワとシャセリオーぐらいか。

テオドール・シャセリオー「ロミオとジュリエット」

ウジェーヌ・ドラクロワ「アビドスの花嫁」

フランソワ・ジェラール「アモルとプシュケ、またはアモルの最初のキスを受けるプシュケ」

 テーマがあるようなないようなで今ひとつテーマ性は薄い。またそのテーマから美麗な絵は多いが、ティントレットなどの有名どころがなく、美麗であるが印象に残らない作品が大半というところ。夏の一服の清涼剤には良いが、芸術作品を堪能すると言うのとは少し違うか。

 

 

昼食は東洋亭で

 1時間弱で展覧会の鑑賞を終えると車を回収してホール方向を目指す。幸いにしてこの辺りは渋滞もなく、予定通りにアキッパで確保しておいた駐車場に到着する。ちょうど時間が11時直前だったことから、11時にオープンする「東洋亭」に立ち寄って、まずは昼食を摂っておくことにする。

東洋亭は営業開始直後

 東洋亭は既に待ち客が行列を作っているが、幸いにして第一陣で着席できそうである。ただそれでもこの店は客あしらいが非常に上品であるために、着席まで15分ほど待たされることになる。ようやく席に着くと注文したのは「ビフカツのランチ」。暑さのせいで疲れてグダグダなので、この際は少し奮発する。

 まずいつもなぜか無性に美味い謎トマトのサラダ。今回は北海道のトマトとのことだが、発汗でミネラルが失われているのかひときわ美味い。

謎のトマトサラダ、謎の美味さ

 次にメインのビフカツが到着。ここのはレアカツで柔らかさが売りのタイプ。朝食が軽すぎて既にガス欠気味だったこともあってやはり美味い。

メインのビフカツ・・・生き返る

 メイン終了後はデザートとドリンク。デザートはお約束の百年プリン。このシッカリとした舌触りのプリンが実に私好みである。今時流行のクリームプリンと対極にある。ドリンクの方はこの暑さであるから、アイスミルクティーを注文。ただアイスティーはやはりアールグレイ系のようで、私の好みにピッタリと合致するものではない。そう言えば今まで「これは」というアイスティーに出会った経験がない。

百年プリンとアイスミルクティー

 

 

 昼食が終わった頃には13時をやや回るかというところ。さてこれからの予定だが、当初は地下鉄で烏丸御池に戻って京都文化博物館に立ち寄るということも考えていた。しかし昼食をややゆっくりと取ったことと、何よりも実際に京都に来て殺人的な暑さを痛感したことで、これからどこかに出向くという意思は木っ端微塵に粉砕された。結局は早めに冷房の効いたホールに入って、グダグダと自堕落に過ごすことに。

痛いような暑さの中をさっさとホールに逃げ込む

 しばし原稿入力などでウダウダした後、ようやく入場時刻が来たのでゾロゾロ入場。入りは2階席、3階席に空席が結構あり、7~8割というところか。やはり高い席の悪い席が売れ残るというよくあるパターンである。

 

 

ハンブルク交響楽団

12型編成の中規模オケ

[指揮]シルヴァン・カンブルラン  
[ピアノ] マルティン・ガルシア・ガルシア 

ベートーヴェン:序曲、「エグモント」作品84 より
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92 

 ハンブルク交響楽団は12型の中型クラス編成。シットリとした弦楽陣はなかなか良い音を出す。また管楽陣は名手揃いとは思わないが、全体として非常にまとまりの良いオケ。日本では関西フィルのイメージと被る。

 さてカンブルランの指揮だが、ベートーヴェンを演奏する時は「ベートーヴェンが聞いたであろう音を再現する」というピリオドアプローチと、性能もアップした現代楽器をフルに駆使するというモダンアプローチの両者があるが、カンブルランはもろに後者の方である。それも「ベートーヴェンが聞いた音と言ったって、そもそもその頃にはベートーヴェンはほとんど聞こえてないでしょ」と言わんばかりに、抑揚強調気味のかなりドラマチックな表現で、超モダンアプローチとでも言うべきもの。そもそも最初からベートーヴェンの曲の中ではドラマチックな部類のエグモントは、まさに映画音楽並のドラマチックさである。カンブルランは躍動感に満ちた指揮でオケを煽りまくる。

 二曲目はショパンであるからなおのこと、初っ端からオケがブイブイとかなりロマンチックな音色を立てる。これは受けるピアノの方も大変だなと思っていたら、どうしてどうしてガルシアはなかなか色男ピアノである(ピアニストが色男なのでなく、あくまでピアノの音色が色男)。しかもこの色男、単なる優男でなく、ここというところではパシッと野性味も見せる濃い系の色男。背後のオケと丁々発止で掛け合う演奏はなかなかにスリリングにしてロマンチック。これはまたとんでもないのが登場したなと驚く次第。

 ガルシアの名演に場内は大盛り上がりで、結局彼はアンコールを2曲演奏してほぼ強引に引き揚げた。アクロバチックにしてロマンチック、なかなかに優れた演奏であった。

 後半のベートーヴェンの7番は、もうエグモントから予想できるとおりの演奏。とにかく超ロマンチックである。よく聞いているとテンポから音色までカンブルランは様々な仕掛けを駆使して表現してくるのだが、それに対して的確に反応するハンブルク響の演奏は見事の一言。なかなか最後まで「魂の熱くなるようなベートーヴェン」であった。

 アンコールはスラヴ舞曲だったのだが、アンコールということでかカンブルラン節がさらに露骨に発揮され、引っ張ったり急にテンポを上げたりとかなり激しい演奏。おかげでオケが崩れそうになる局面もあったのはご愛敬。舞曲と言いながら、合わせて踊っていたら蹴躓いてコケそうな感じの曲である(笑)。

 カンブルランの指揮については今回が初めてではないはずなのだが、ここまで極端にロマンティックな指揮者という認識はなかった。以前に京響に客演した時の記事を改めて目を通すと「現代アプローチのハイドン」との記述があるので、やはり今回の演奏と同じような印象を受けていたようではある。なおハンブルク響に関西フィルに通じる雰囲気を感じていたことから、カンブルランに1度関西フィルでの客演を願いたいなどと感じた次第。デュメイが鍛えたネットリシットリした関西フィルを「躍動するカンブルラン」が振ったら、どういう音楽が登場するかを考えると興味深い。


 これでこの週末の三連休遠征も終了となった。それにしても特に京都の殺人的な暑さ(熱さ)にはまいった。おかげで予定の半分ぐらいはこなすことが出来なくなってしまった。京都は暑いことが分かっているから、事前に大阪でライフライン(ミネラル麦茶)の凍結ボトルを買い込んで乗り込んだのだが、それが帰りには見事にヌル茶になっていたのには呆れる次第。こんな中での野外活動は命取りである。

 

 

この遠征の前日の記事

www.ksagi.work

 

 

週末三連休初日は関西フィル定期演奏会と金山平三展

週末大阪遠征

 この三連休はコンサートに繰り出すことにした。まず初日の土曜日は関西フィルの定期演奏会である。土曜の朝に目覚めると、午前中に家を出る。コンサートは14時からだから焦る必要はないのだが、コンサートの前に途中の神戸で一カ所立ち寄るつもりでいる。実はここは先日、神戸までMETライブビューイングを見に行った帰りに立ち寄るつもりだったんだが、BBプラザ美術館に立ち寄ったところで力尽きてしまって断念したところである。

 いつものように週末渋滞の阪神高速を抜けると摩耶出口で一旦降りる。立ち寄ったのは兵庫県立美術館。ここで開催されている金山平三展を見学しておこうという目論見。ただ正直なところ入館料の1600円は高いなと思っていたのだが、今日は「ひょうごプレミアム芸術デー」とかで、特別展とコレクション展のチケットが手渡される。ここはコレクション展を見るのは別料金であることを考えると、これはかなりのラッキー。

特別展とコレクション展のチケットを無料で入手

 

 

「日本洋画の巨匠 金山平三と同時代の画家たち」兵庫県立美術館で7/23まで

特別展入口

 以前より兵庫県立美術館がコレクションに力を入れている地元ゆかりの金山平三の作品を、今年が生誕140年(やや中途半端な数字だ)とのことで大規模に展示した大展覧会である。

 金山平三は日本を代表する洋画家の一人である。孤高の画家と言われることも多いらしいが、実際に先輩の満谷国四郎と交流があり、また荒井完や柚木久太らと写生旅行に出かけるなどもしていたという。そのような交流関係を示す絵画がまず登場。

金山平三「自画像」

満谷国四郎「戦の話」

金山平三「秋の庭」

 

 

 ヨーロッパにも渡ったようだが、そうすると渡欧した日本人画家の常として、やはり印象派の洗礼を受けたようだ。元々その傾向があった彼の絵がより顕著に印象派寄りになっている。

金山平三「水汲み女」

金山平三「「ヴェトゥイユ」(モネが住んでいたことで有名な地)

柚木久太「モレーの秋」

 ヨーロッパから帰国しても、彼らから刺激を受けて瀬戸内の絵などを描いていたようである。

柚木久太「春潮(玉島港)」

金山平三「春の内海」

 

 

 さらに満谷国四郎と共に中国にも渡った(途中で児島虎次郎が合流)らしい。

金山平三「江南水郷」

満谷国四郎「石橋」

 装飾的な作品なども手掛けているが、画風が合わなかったか途中で頓挫している。

満谷国四郎「木々の秋」

上記に触発されたと思われるが、金山平三の作品は未完成

 

 

 明治神宮聖徳記念絵画館を飾る壁画制作の依頼を受けて取材のために朝鮮に渡って描いた作品もある。

金山平三「蘇州の石炭運び」

金山平三「働く人」

 また芝居に親しんでいた彼は、芝居絵も残しているという。

金山平三「判官切腹」

金山平三「御無用」

 

 

 さらに風景画のイメージが強い金山平三だが、実は静物画も残しているという。

金山平三「菊」

金山平三「静物」

 中にはあからさまにセザンヌを思わせる作品も。

セザンヌの影響があからさまな「とまと」

 

 

 また列車を乗り継いでは各地に出かけて風景画を製作していたという。諏訪から日本海側に抜けて、十和田湖の辺りまで行ったそうな。放浪の風景画家という趣だが、あえて鉄道を使用しているあたり、実は単なる乗り鉄だったという気もしないでもない。

金山平三「冬の諏訪湖」

金山平三「塩尻峠」

金山平三「梨咲く」

金山平三「紫明仙」

金山平三「渓流」

 以上、金山平三の画業を概観する展覧会であった。金山平三についてはここのコレクション展で作品を見て名前は知っているが、どういう画家かについては極めて印象が薄く、全くイメージが残っていなかった。今回、彼の作品を概観して初めて金山平三という画家を把握した気がするが、私に何の印象も残っていなかった理由も分かった。つまり概ね好ましい絵を描くが、これという強烈な個性も感じないというのが本音なのである。良くも悪くももう少し尖ったところがあれば何らかの印象が残ったのだが(最悪の印象になるかもしれないが)、そういうものがないので流れてしまったようである。

 

 

 特別展にはNHKのカメラが入っていた。NHK神戸放送局の模様。「日曜美術館」だったらこんな会期末の開催中のところにやって来るのもおかしい(大抵は開幕前か、開幕後なら閉場後に客のいない状態で撮影する)ので、多分ローカルニュース辺りだろう。「今日は兵庫プレミアム芸術デーで、無料観覧になった兵庫県立美術館には大勢の美術ファンが押しかけ・・・」とやるつもりではと思ったが、場内は残念ながらガラガラ。だからでもないだろうが、作品をいくつか撮影して行っていた模様。ちなみに私は兵庫プレミアム芸術デーなんて、兵庫県民にも関わらず今日になって初めて知った。そもそもあまりにPR不足なんじゃないか。

 

 

 特別展の見学を終えると、せっかくだからコレクション展の方も立ち寄ることにする。考えてみるとここのコレクション展を見学するのは数年ぶりだと思う。コレクション展は2階及び1階で開催されている。2階には金山平三展示室と小磯良平展示室がある。金山平三の方は上でしっかり見てきたところで、展示作品自体は上の方が面白い。小磯良平の方はいかにも彼らしい洒落た絵画が多い。中には小磯記念美術館で見た記憶のある作品も。

小磯良平「斉唱」

小磯良平「スペインの女」

小磯良平「洋裁する女達」

小磯良平「T譲の像」

 

 

 1階では現代アート。特徴的な作品が多々ある。まあ個人的に感心するような作品はないが、とりあえず現代アートを一望できる雰囲気でそれなりには面白い。

展示室はこんな感じ

マグリットの「美しい囚人」

高松次郎のお約束の「影」

西山美なコの特別展示もあり

ジョージ・シーガルの「ラッシュ・アワー」私は個人的には「プロジェクトX」と呼んでいる

 

 

ジム・ダインの「植物が扇風機になる」・・・まんまじゃん!!

これは今さら説明不要のジャコメッティの作品

作業中の脚立を放り出したようにしか見えない大西伸明の「kyatatsu」

しかし実はアクリルに超リアルな塗装をしているという仕掛けが

今村源の「レイゾウコとヤカン」は放置してカビの生えた冷蔵庫にしか見えん

 コレクション展を一回りしたところで美術館を後にする。当初はコレクション展まで回るつもりはなかったことと、朝の阪神高速が予想以上に混雑していたことで予定よりもかなり時間が押している。当初予定では昼食はここから少し歩いたところにある店に立ち寄るつもりだったが、時間がないのでホール方面に移動してから、そちらで昼食を摂ることにする。

 

 

昼食は寿司ランチ

 大阪までは30分ほど。いつも阪神高速海老江出口から降りてから下道の渋滞で苦しめられるのだが、さすがに平日の夕方と違って土曜の昼時はガラガラである。順調にホール近くに到着、何とか駐車場も見つけることが出来る。

 さて車を置いたら昼食である。それにしても暑い。少し歩いただけで目眩がしそうなほどだ。若い頃はこの炎天下をよくキャリーを引きずりながら歩き回ったものだが、今となってはキャリーを引きずっていないにもかかわらず、歩き回る気力はもう私にはない。コロナが落ち着いたらいずれは交通費節約のためにも鉄道利用に戻したいが、果たしてそれに耐える体力があるだろうか。どうもコロナ禍は私の体力をも著しく削いでいる。

 昼食に何を食うかだが頭にいろいろなメニューが回る。ただこの炎天下をあまり長く歩いていたら、頭に浮かぶメニューがすべてかき氷かアイスクリームになってしまいそうだ。結局この日の昼食は寿司にすることにする。立ち寄ったのは最近ちょくちょく行っている「元祖ぶっちぎり寿司 魚心」。例によってのランチメニューの「ぶっちぎりセット(1000円)」を注文する。

高架下の「魚心」

 大ネタの寿司がなかなか美味い。また付属のあら汁も意外に馬鹿に出来ない。CPぶっちぎりとまではいかないが、大阪という場所を考えるとまずまず納得できるレベルのCPである。私としては今後もこの店がご健勝なることを祈るのみ。

寿司はまずまず

 

 

 昼食を終えるとホールへ。途中でコンビニにクールダウンに立ち寄って時間調整、ホール開場直後に到着するようにタイミング調整する。私がホールに到着した時は、ちょうど目の前で入場が始まったタイミングだった。

ザ・シンフォニーホールはちょうど入場開始中

 その後は毎度のように喫茶でマッタリ。現在この原稿を入力している(笑)。しばしここで時間をつぶしてから、藤岡幸夫のプレトークが始まった頃にホールに入場する。今回のプログラムは藤岡が以前からやりたいと思ってはいたが、なかなか金がかかるために出来なかったとか。特にボーイ・ソプラノが国内では見つからず、はるばる本場のイギリスから呼ぶことになったとのこと。

開演まで喫茶でマッタリする

 

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 第339回定期演奏会

14型のオケにパイプオルガンもスタンバっている

[指揮]藤岡幸夫
[ボーイ・ソプラノ]マックス・トーマス
[ソプラノ]並河寿美
[テノール]村上敏明
[合唱]関西フィルハーモニー合唱団
[管弦楽]関西フィルハーモニー管弦楽団

エルガー:エニグマ変奏曲 op.36
アンドリュー・ロイド・ウェッバー:レクイエム

 前半はエルガーのエニグマ。14型のオケにパイプオルガンを加えた大きい編成での演奏である。この曲はつい最近に下野/PACで聞いたところであるが、下野のガンガンと行く演奏と違って、藤岡はもっとしっとりゆったりと聞かせる印象。そもそも関西フィルの弦楽陣もそういうタイプのカラーになっている。もっともその分、かなり明快だった下野の演奏と異なり、エルガー特有の曖昧模糊とした感覚は強くなる。

 藤岡は関西フィルでこの曲を演奏するのは初めてとのことだが、ニムロッドだけはデュメイのアンコールで何度か聞いたことがある。同じ曲でもデュメイはこれでもかと弦楽陣にしっとりネットリとした音色を要求するのに対し、藤岡はもっとあっさりした感じがある。

 藤岡は藤岡で結構ノリノリであり、それなりにキレのある演奏ではあったのだが、そもそもエルガーがあまりに得意ではない私の場合、下野の極めて明快でエッジの立った演奏の方が好ましく聞こえたのも本音ではある。

 

 

 前半が終了したらいつもの倍以上の数のスタッフが出て、ステージの大組み替え作業である。何しろ次の曲はシンセサイザーにピアノ、打楽器類に合唱団にパイプオルガンとかなりの大編成の曲。その一方でヴァイオリンだけは本日はお役御免だそうな。楽器の入れ替えからひな壇の組み上げまでてんやわんや。かなり大変な状況である。

大勢のスタッフでステージ組み換え中

 後半のレクイエムはヴァイオリンが全員お休み(その代わりのシンセサイザーらしい)なので、当然ながらコンマスも不在。演奏開始前のチューニングをヴィオラ主席の中島が行ったのがなかなかに珍しい光景。

 作曲したウェッバーは「キャッツ」や「オペラ座の怪人」などを手掛けたミュージカルの大家とのことで、その彼があえてオーケストラに向けて作曲したのがこのレクイエムであるという。もっともそこにはやはり一ひねりあり、ヴァイオリンが不在でその代わりにシンセサイザーを用いるとか、多彩な打楽器にピアノなどと言った非常な音色の多彩さが秘められている。

 曲自体はミュージカル作曲家だけあって、いわゆる現代音楽の奇々怪々なものではない。単純なクラシックのオマージュではなく、かなり音色的に現代的な部分は多いが、基本的にメロディラインは存在するタイプの音楽である。また時には破壊的な音色を出すこともあるが、概ね荘厳さが保たれるという音楽でもあり、間違いなく「レクイエム」であるということは分かる。

 とは言うものの、私には初物の上に分かりにくいところもある音楽であるというのが本音。決して付いていけないものではないが、かと言って好ましいかと言われるとそれも難しい。関西フィル合唱団及び関西フィルの演奏自体は実に良くできていた印象であるが、正直なところこれも比較対象もないので断定的なことは言えない。

 

 

いつものように新今宮で宿泊

 コンサートが終了するとホテルに移動することにするが、もう駐車場に車を取りに行くだけで暑さにやられるような状況。しかもホテルまでの道は大渋滞でやたらに時間がかかる。何だかんだで予定よりは遅れ気味になるし、体力は底をつくしで、当初考えていたこの後の立ち寄り先は断念することにする。どうも老化による体力低下で昔のように思ったとおりには活動できなくなっている。

 予定よりやや遅れてようやくホテルに到着する。ホテルはいつもの定宿「ホテル中央オアシス」。今回はダブルの部屋に振り替えしてくれたとのことで、ベッド幅がいつもより広いが、どうもデスクの幅も広いようである。おかげで仕事環境が余裕を持って構築できる。

ベッドはダブルサイズでデスクもやや広い

おかげで仕事環境もやや余裕あり

 

 

 エアコンを全開にして火照った体を癒やしたら、やや早めであるが夕食に繰り出すことにする。新世界まで繰り出す体力はないし、そもそも串カツを食べる気もない。となると新今宮界隈で店を探すか。「らいらいけん」を覗いたが、日替わりが今ひとつ私の好みでないので、「南自由軒」を訪問することにする。注文したのは「和牛煮込みハンバーグとオムライスのセット(1020円)」

巨大オムライスの看板が目印の「南自由軒」

 牛肉のオムライスがコクがあって非常に美味い。とにかく「オムライスは鶏肉でケチャップ」という思い込みを完全に打破してくれる料理である。人間は往々にして思い込みからの決めつけというのがありがちなので、たまには頭をやわらかくする必要があるということを痛感させるメニューである。さらに和牛煮込みハンバーグが価格柄小ぶりではあるが、なかなかに美味い。これをメインにしてガッツリ白飯を食いたい気分もする。

オムライスと煮込みハンバーグ

 

 

 コンビニに立ち寄って明日の朝食を調達するとホテルに戻る。ホテルに戻って再び冷房で部屋を冷やしてから一息つくと、次にするべきは入浴。そもそもそのためにこの新今宮では高級ランクに入るホテルを予約したのである。このホテルでもユニットバスの部屋ならもう少し宿泊料金が安くなるが、そこはやはりゆったりと風呂に入るためにはセパレートというのは譲れない矜持というものである。

やはり風呂とトイレはセパレートに限る

 風呂でサッパリと汗を流すと原稿入力作業。しかしどうも頭がクラクラする。かなり意識的にライフライン(ミネラル麦茶)を摂取していたにもかかわらず、軽い脱水状態になったような気がする。


 今一つ能率が上がらないが、時々ベッドで横になって一休みしながら人心地ついたら作業再開。結局この日はその調子でグダグダと暮れていくことに。

 

 

この遠征の翌日の記事

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ロッテルダムフィルはとんでもない名演を聴かせてくれて胸が熱くなる

遠征最終日

 翌朝は目覚ましをセットしていた7時半の直前に自動で目が覚める。爆睡したと思うのだがやはり一晩寝ただけでスッキリとはいかないのは年のせい。懸念していた通り、足に少々だるさもある。

 とりあえず昨日買いこんでいたおにぎりを朝食に摂ると、シャワーで体を温めながら体調を整える。後は原稿入力及びアップ作業。この2日間ほとんど寝ていたから、最低限度の仕事をしておく。

 11時になるとチェックアウト。今日の目的は14時からザ・シンフォニーホールでのロッテルダムフィル。とりあえずアキッパで確保しておいた駐車場に車を入れると、昼食を摂る店を探してプラプラする。「イレブン」も考えたが、昨晩が洋食だったこともあって洋食の気分ではない。結局は以前に一度訪問した高架下の「魚心」を訪問してランチメニューの「ぶっちぎりセット」を注文する。

JR高架下の「魚心」

 ちょうど気分に合致していることもあって寿司はまずまず。内容的には過不足ないと感じる。なかなかに使える店を見つけた。ただ問題はこの店がいつまで続くか。なんせこの場所は以前から店の入れ替わりが激しい場所である。今日のランチ時を見た限りではそこそこ客は入っているが、問題は夕食時だろう。

ランチ用のぶっちぎりセット

 

 

 寿司屋を出た時には12時頃。開場が多分13時であることを考えるとどこかで時間をつぶしたい。暑いし、公園などで過ごす気にはならないことを考えると、やはり喫茶店が望ましい。しかし以前に福島界隈をウロウロしても喫茶店は皆無だったし・・・と思ったら目の前に喫茶店があるのに気付く。「ピノキオ」私はこの店はランチの店と認識していたのであるが、よくよく見ると喫茶と書いてあり、喫茶メニューもある模様。ここに入店することにする。

よく見ると喫茶だった「ピノキオ」

 メニューにパラパラと目を通すと「昭和のプリンプリン」なるメニューがあるのでこれを注文することにする。

Wプリンである

 プリンプリンの名の通りにダブルプリンである。昭和かどうかは定かではないが、確かに懐かしい印象の柔らかめのカスタードプリンである。やわやわのプリンと下に敷いてあるコーンフレークの食感の差が快適。よくパフェの底に嵩増しで入れているコーンフレークと違い、プリンの場合は湿気ないのでサクサクの食感が保たれていてこれは正解。

 

 

 ここでしばし時間をつぶして体を冷やすと開場時刻なのでホールへ。喫茶でアイスコーヒーを頂きながら時間つぶし。それにしても私も老化とともに軟弱になったものである。昔はホールの喫茶はCP最悪の典型例として拒絶していたんだが・・・。老化で体が弱ってくると、少々金を払ってでも涼しいところで座って過ごしたくなる。

喫茶でいつものようにコーヒーブレイク

 今回確保したチケットは最安のD席。3階バルコニー席の後列という見切れ席である。館内を見回してみると入りはかなり悪い。1階は後半分のいわゆる「傘かぶり席」が観客0、2階もガラガラで正面席は価格の安い後の2列だけが満席で、その前は最前列中央付近に客がいる程度で3列目以降は客の姿なし。ホール全体では5割入っているかどうかというところか。やはりアベノミクスの副作用(というよりも、本来から円安誘導して見かけの景気をよく見せるということだけが目的だった)による円安でのチケットの高騰が影響しているのは間違いない。ロッテルダムフィルの知名度を考えると、S席18000円という価格設定はいかにも高い。コロナ明けでウィーンフィル、ベルリンフィルを含む海外オケ来日目白押しの中で、ロッテルダムフィルにこれだけの資本を投入しようという余裕があるマニアはそうそういないだろう。つくづくアベノミクスとは日本の国力を弱めるだけの愚策であった。こういう状況が続くと、そのうちに来日オケ自体がなくなるのではということが懸念される。

今回は3階の見切れ席

 

 

ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団

[指揮]ラハフ・シャニ
[ヴァイオリン]諏訪内晶子
[管弦楽]ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団

メンデルスゾーン/シャニ編曲:無言歌集より
 「失われた幸福」 ハ短調(第3巻 op.38-2)
 「ヴェネツィアの舟歌 第1番」ト短調(第1巻 op.19-6)
 「紡ぎ歌」 ハ長調(第6巻 op.67-4)
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調「悲愴」op.74

 一曲目からなかなか良い音を出すオケだなと感心した。メンデルスゾーンの小品なんだが、メンデルスゾーンと思えないほどに色っぽい音色が出る。またシャニのオーケストレーションもそのような音色になることを想定して書かれているように感じられる。

 図らずしも二曲目は昨日と同じチャイコのvn協奏曲になってしまった。金川と諏訪内の一騎討ちというところだが、正直なところ条件が異なりすぎているから優劣は付けがたい。あえていうなら、純粋な音色の美しさだと金川に軍配が、ニュアンスなどの細かい手業には諏訪内に一日の長があるという印象である。

 諏訪内の演奏はこの曲に様々なニュアンスを加えてくるというタイプの演奏で、ここというところではタップリと濃厚に歌う。その辺りの手練手管というものに関しては流石というところがある。また無視できないのはバックのロッテルダムフィルを率いるシャニの手腕。諏訪内が濃厚に歌ってきたら、それに合わせて背後のオケもシットリと歌わせてくるので、音楽が盛上がることが著しい。この辺りは残念ながら昨日の京都市響はここまでは至っていない。弦楽陣のまとまりは良い勝負だが、やはり根本的に違うのは音色にある色気である。

 なかなかの名演に場内は大盛り上がりで諏訪内のアンコールはバッハの無伴奏ソナタ。これもなかなかにシットリと聞かせてさらなる盛り上がり。場内が盛上がりすぎて収拾がつかないので無理矢理照明を点灯して追い出しにかかる始末。

 

 

 後半は「悲愴」。前半は12型ぐらいで演奏していたロッテルダムフィルが、この曲ではフルの15型編成を取っている。しかしオケの編成が大きくなっても音色に乱れがないのが見事の一言。何となくここまでの演奏で予想は出来てはいたが、かなり濃厚で艶っぽい音色が出てくる。そして「悲愴」とは思えないほどに生命感が感じられる。こう言ったら全くダメな演奏のように聞こえてしまうかもしれないが、そうではなくてこれは方向性が違った上でのかなりの名演である。第一楽章を聞いていたらその美しさは絶品。人生が最後にさしかかった者が、若き頃の恋愛の記憶を思い出すような感がある。そこに運命が襲来してかき乱すが、それを撥ねのけて最終的には安らかな心境に至るというような趣である。

 この時点で非常に感動的で正直鳥肌が立ちそうになったし、涙まで滲んできたこれは正直なところ驚き。

 続く第二楽章は平和で美しい雰囲気。この楽章はかなり皮肉な感じで演奏する者もいるが、そういう影はなくてあくまでストレート。そして第三楽章。乱痴気騒ぎにする者も少なくないが、そうではなくて一定の枠をはめた上でこれまでの人生を回顧して最後に自身の人生の勝利を確信するかのような趣がある。

 そして第四楽章。切実な身を切られるような悲壮感に満ちて・・・というような演奏が定番だが、シャニの手にかかるとこの楽章も生命力が存在している。いよいよ大往生を迎える瞬間が迫っても、最後の瞬間まで精一杯生きようというような感覚であるような音楽である。最初から感じられていた音楽の美しさがここでかなり極まり、ついには最高点に到達する。そして達観するように終焉を迎えるというところ。弦楽陣を中心としたロッテルダムフィルのアンサンブルの艶っぽさと美しさが胸を打つ。

 かくのように一貫して「悲愴」ではない生命力満ちあふれる美しい音楽だったのだが、それがダメではなくて逆に「これはこれで多いにあり」と心を打った。陽性の悲愴としては以前にバッティストーニによる「迫り来る運命をバッタバッタと快刀乱麻」するかのような演奏もあったが、スタンスは近くなくもないがそれよりもさらに深さを極めた印象である。今まで悲愴については、ポリャンスキーの緊張感漲る身を切られるような演奏、ゲルギエフ/ウィーンフィルの圧倒的な美しさの中での大往生などなど様々なスタンスの名演に遭遇してきたが、今回また新たな名演に出くわしたというところである。

 いやいや、ここに来て「今期No1の名演登場です!」というところ。観客が少ないにも関わらず場内は大盛り上がりで、アンコールのニムロッドの後にはさらに爆発的な盛り上がり。結局はオケ団員の引き上げが始まっても拍手が止みそうな気配が全くなく、シャニの一般参賀ということに相成った。


 こうして非常に大きな満足感を抱きながら帰途についたのである。久々に音楽に感動してテンションが上がったせいか、私の活力まで増したような感じで、この日は不思議なほどに帰りの運転で疲労がなかったのである。とりあえず目下のところは本公演が今期No1なのは確実であるが、まだまだ今年も半分以上残っている。これから本公演をさらに超えるような名演に出くわすことを期待したい。

 

 

この遠征の前日の記事

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2日目は福田美術館に立ち寄ってから京都市交響楽団の定期演奏会へ

京都に向かうが・・・

 翌朝は7時半に起床すると、とりあえず朝風呂で体を温めてから活動開始する。昨日帰りに阪急オアシスで購入していたミートスパを朝食にすると出かける準備。今日は京都コンサートホールで京都市交響楽団の定期演奏会があるから、それに立ち寄りつつ美術館なども回るつもり。

 とりあえず9時前に外出すると京都へ移動。最初は福田美術館に10時の開館直後に滑り込むつもり・・・だったんだが、いきなり予定が狂いまくる。まず中国道の吹田付近で渋滞。まだそれはどうにかなったが、京都縦貫道に入ってから事故渋滞で車が動かず、その上に降りるべき出口を通過してしまう(私のナビが古すぎて京都縦貫道に対応してなかったのが原因)というミスも重なり、その挙げ句に毎度のような嵐山周辺の渋滞でダメ押し。結局は嵐山到着が予定よりも1時間以上遅れる羽目に。

京都縦貫道に入った途端に事故渋滞

 ようやく嵐山に到着するとまずは駐車場探し。この近辺は観光客が異常に多いせいで、駐車場もボッタクリばかりである。近くの観光駐車場は1日1000円という辺りが相場だが、この時間になるとどこも満車。もう少し遠い場所の駐車場を探すが、気をつけないと20分300円で上限なしなどというような超ボッタクリ駐車場もある(しかも少なくない)ので要注意である。結局は嵐山から10分以上歩くような場所に上限500円の駐車場を見つけたのでそこに車を置く。

 後は福田美術館で歩くことに。嵐山周辺は観光客が多く、外国人観光客も多いせいかマスク率が異常に低い。もう緩みまくりである。反動が怖い。

嵐山周辺は観光客も多い

 

 

「橋本関雪 生誕140周年 KANSETSU ー入神の技・非凡の画ー」福田美術館で7/3まで

ようやく福田美術館に到着

 日本画家橋本関雪の大規模展覧会。橋本関雪は京都四条派の絵画を学び、そこに独自の学識を加えて画風を確立したとのことであるが、この規模の展覧会を観覧するとさすがにその画風の広さを実感することができる。

 基本は四条派の精密写生にあることは間違いないのだが、中国に関して知識があったとのことで、いわゆる伝統的な山水画の類のような絵画も多数残している。

この「美人観桜図」なんかはいかにも日本画

日本画らしい画題の「雪月花」

「諸葛孔明」右隻、これなんか完全に山水画だ

「諸葛孔明」左隻、劉備一行が描かれている

この「僊女」なんかもまた雰囲気が違う

 定番の「だるま大師」なんかの絵もあるが、以前から私はだるま大師と聞くと少年(江木俊夫)が「だるま大師!」と叫びながらだるま型の笛を吹くと、巨大赤だるまが飛んできてガシンガシンと手足が生えてロボットになるという妄想が浮かんでしまう。

日本画の定番である「達磨大師」

 

 

 さらに私は個人的には「馬の関雪」と言ったりするのだが、とにかく動物画に関しても上手さを感じさせる。本展では猿を描いた作品が多数展示されている。

玄猿図

狐を描いた「夏暁」

「木蘭」の右隻には馬も登場

「木覧」の左隻は本展の表題作

「秋桜老猿」

 

 

 福田美術館の見学を終えると嵯峨嵐山文華館の方にも立ち寄る。もうどうせ他のところに立ち寄っている時間的余裕はないから、今回共催のこちらも見学するべくセット券を購入している。

嵯峨嵐山文化館へ

 福田美術館は主に館蔵品の展示であったが、こちらは橋本関雪記念館の所蔵品の掛け軸や屏風などが中心。人物山水十二題などの新南画と呼ばれた作品が中心となっている。

人物山水十二題

人物山水十二題より「霧林樵父」

人物山水十二題より「松林翠嵐」

 四条派から始まった関雪であるが、元から中国志向があったようであることから、南画方向に向かうのは必然だったように感じられる。こちらに展示されているのはもろに南画である。関雪の境地が覗えて興味深い。

二階は大広間

「東海大観」なんか横山大観みたいだ

「雨意」

 ところで話は全く変わるが、マグマ大使って後で調べてみたら、手塚治虫だったんですね。私はてっきり横山光輝だと思っていた。手塚はとにかく少女漫画からSFまで何でも書いてたが、昔の漫画家は結構いろいろ描いてますから。赤塚不二夫が少女漫画書いてたりとか。

     
私はてっきり横山光輝だと思い込んでいた

 

 

昼食はそばにする

 美術館の見学を終えた時には昼頃である。昼食を摂らないといけないが、嵐山周辺は大混雑の上に一見の観光客相手のボッタクリ店ばかりなので、ホールの方に移動してしまうことにする。このドライブも途中渋滞で普通以上に時間がかかる。やっぱり京都って本来は車で来るところではないようだ。予定よりも時間を浪費しながらようやく北山に到着、アキッパで確保していた駐車場に車を置いた時には1時頃になっている。

 これから昼食を摂る店を探す必要があるが、「東洋亭」は例によって20組以上待ちでいつになるやら不明の状況。他の店もフォルクスにまで行列が出来ている状況。結局店を選ぶ余地がほとんどないままに、たまたま待ち客がいなくなっていたそば屋「そば料理よしむら北山楼」に入店する。

結局は蕎麦屋に入る

 注文したのは北山御膳。内容的には悪くはないのだが、ここはそばはともかくとして丼が以前からあまり美味くないことを忘れていた。天丼のご飯に味がない上にやけに柔らかくてしっくりこない。むしろ付け合わせの大根サラダや豆の方が美味かった。

北山御膳

 朝食を終えるとホールへ。ザクッと8~9割の入りと言うところ。

 

 

京都市交響楽団第679回定期演奏会

久しぶりの京都コンサートホール

エリアス・グランディ(指揮)
金川 真弓(ヴァイオリン)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
バルトーク:管弦楽のための協奏曲

 一曲目の協奏曲は金川が非常に良い音色を出すのに驚かされる。深い上に力強い。巨匠の片鱗どころか、もう既に巨匠の域に踏み込みつつあるのを感じさせる。末恐ろしいなどという次元ではない。バックの京都市響も実に安定感があってしっとりとした良い演奏で金川を盛り上げる。

 演奏終了後には爆発的な盛り上がりであったが、それも頷ける名演である。また金川はアンコールのプロコでもしっとりとした旋律を聴かせてくれた。

 後半はバルトークの炸裂する音楽。グランディの指揮は京都市響からなかなかに鮮烈な音色を引き出している。それにしても驚いたのは京都市響の抜群の安定性である。弦楽陣は一体となって全く乱れがないし、管楽陣もかなりの安定度で危なげがなかった。弦楽陣についてはここまでまとまって一丸となった音色を出せるオケは、残念ながら関西には他にない。大阪フィルにしてもここまでのまとまりはないし、デュメイに鍛えられた関西フィルでもまとまりという点に関しては遠く及ばない。後はこれで音色にもう少し艶が加わったら世界レベルと言っても過言ではない。

 グランディの指揮は奇をてらわない正攻法のものに感じられたが、音楽のまとまりが非常に良かったことを考えれば、しっかりとツボを押さえているのだろう。単なるガチャガチャとした空騒ぎでなく、音楽がピンと一本筋の通ったものになっている。グランディが自らの意志の元にオケを統率できていることが伺われる。

 トータルで見て京都市響の技量が光ったコンサートであった。さらに金川といい、グランディといい、次世代の巨匠の登場を思わせる内容であったのである。実りが多く京都まで出張ってきた価値を感じさせる内容であった。

 

 

大阪に戻ると夕食のために久しぶりの新世界へ

 コンサートを終えると大阪に戻ることにする。しかし夕方の京都は大渋滞。いつも京都に来るとこれで神経と体力を消耗してしまう。やっぱり京都は車で来るべきところではない。結局は京都市内を抜けて高速に乗るまで1時間以上を費やすことに。名神はスムーズに流れていたが、阪神高速は渋滞だし、ホテルに戻ってきた時には結構疲れている状況に。

 さて夕食だが、今日の夕食については「らいらいけん」でなく、頭にイメージのあるものがある。そこで部屋に荷物を置くとすぐに出かけることにする。ここで一息ついてしまったら疲れが出て動けなくなりそうである。

 じゃんじゃん横町を抜けると新世界へ。この界隈も外国人客がやたらに多くてごった返しており、またいかにもそれをターゲットにした串カツ屋などがやたらに増えている。「てんぐ」や「八重勝」などの人気店は相変わらずの大行列だが、「大興寿司」なんかにも行列が出来ているし、「串カツだるま」も大行列。

通天閣周辺は外国人らで大混雑

じゃんじゃん横町の「てんぐ」や「八重勝」も大行列

 

 

夕食は久しぶりの洋食店へ

 さて今日の目的の店は裏通りにある。小さな店なので混雑してたら嫌だなと思っていたが、久しぶりに訪れたその店はいつもの様子であった。私が訪れたのは「グリル梵」。久しぶりにどうしてもビフカツが食べたくなったのである。当然注文はビフカツにライスをつけて。

裏通りの「グリル梵」、この日は私が最後の客だった

これぞビフカツ

 以前から何度も言っているが、そもそも関西においてカツと言えば本来はビフカツのことである。最近はそういう昔からのお約束もなかなか通用しにくくなったのか、トンカツ、ビフカツという両表記を関西でも見ることが多くなってきた。それはともかくとして、やはり関西の正しいビフカツとは、最近多いレアカツではなく、ここのようなミディアムカツである。まさに関西の正攻法の洋食である。

このミディアムな火の通り具合が正解

 しっかりと久しぶりのビフカツを堪能したのである。財布に負担をかけないようにとは考えていたのだが、京都往復で散々疲労すると自制心の方が消耗してしまっていた。また明日から節約生活をしないと。

 夕食を終えるとホテルに戻って入浴。後は今日の原稿を・・・と思ったのだが、なんだかんだで今日は1万3千歩以上歩いていたようで疲労が半端でなく、デスクに向かっても意識が飛びそうになる。もう諦めてかなり早めに就寝することにする。明日は最終日だ。

 

 

この遠征の翌日の記事

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この遠征の前日の記事

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山形交響楽団のサクランボコンサートでバボラークの音色を堪能する

週末ライブ三連荘開始

 この週末も先週に続いてのライブ三連チャンである。正直なところ財布の方が瀕死なんだが、既にチケットを入手している以上は実行しかない。なるべく財布を温存しながら行動するしかない。まあ元々私の遠征は毎回赤貧ツアーなので、そんなに浪費はしないが。

 金曜日の仕事を早めに終えて職場を出ると、そのまま車で阪神高速を突っ走る。今日はいつもよりも交通はスムーズで、高速でスローダウンは数回あったが、完全停止は2回ほど短時間のものがあっただけだった。どちらかと言えば高速から降りてからの方が渋滞がひどい。何だかんだで予想よりは若干早めに大阪に到着、いつもの駐車場に車を放り込む。

 ホールはまだ開場していないようなので、まずは夕食からである。気分としてはラーメンが食べたい。以前はこの界隈でラーメンと言えば鯖6製麺だったのだが、あそこはやけに塩っぱくなりすぎて食べられないなと思っていたら最近に閉店していた。移転とのことだが果たしてどうやら。そういうわけで上等カレーの隣の「まこと屋」に入店する。

上等カレーの隣にある「まこと屋」

 注文したのは背脂醬油ラーメンのチャーシューに半炒飯をつけて。ラーメンは細麺の硬めのタイプ。そのためかスープはかなりしょっぱめ。そのまま飲めるようなものではないが、この濃さがスープが絡みにくいストレート細麺にはちょうどのバランス。なお炒飯はオーソドックスな私好みのもの。

背脂醤油ラーメン

麺は硬めの細麺

半炒飯をつける

 

 

山形交響楽団のコンサートだ

 夕食を終えたところで既に開場時刻となっているのでホールに向かうことにする。

ホールに到着

 さて今日は山形交響楽団のさくらんぼコンサートである。このコンサートでは抽選でサクランボがあたることが有名。ちなみに私は昨年当選している。ちなみの昨年は、チケットを買った時から「今年は絶対にサクランボが当たるな」という予感がヒシヒシとして、結果としてはその通りになったのだが、今年はそのような予感が全くないのでこれはハズレだなと思っていたら、予想通りにハズレだった。

 まだ開演までにはかなり時間があるので、例によって喫茶でアイスコーヒーを頂きつつ、原稿入力作業を行いながら開演を待つ。

いつものように喫茶で時間をつぶす

 15分前ぐらいから山形の観光案内を兼ねたプレトークが始まる。しっかり物産展のことを宣伝している。このコンサートは実はこっちもメインだったりするようだ。なおホール内は3階及びP席、2階バルコニーの前半分には客を入れていないザ・シンフォニー中ホール構成であるが、客の入りとしてはほぼ満席に近い。山形交響楽団の本拠のテルサ山形(私は昨年に訪問している)の座席数が800人ほどだから、それよりは多く入っているだろう。

山形物産展は大盛況

 

 

山形交響楽団特別演奏会 さくらんぼコンサート2023 大阪公演

[指揮&ホルン]ラデク・バボラーク
[管弦楽]山形交響楽団

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」 第6曲 “ブラニーク”
モーツァルト:ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調 K.447
ドニゼッティ:ホルン協奏曲 ヘ長調
ドヴォルザーク:交響曲 第8番ト長調 op.88

 地方オケの雄、山形交響楽団の大阪公演である。ホルンと指揮がバボラーク。チェコ出身のバボラークによるチェコ音楽中心のプログラムである。

 一曲目は定番の「わが祖国」から。しかし日本でよく演奏されるモルダウでなく、チェコで人気という第6曲のプラニークを持ってきているのが最大の特徴。なおチェコではこれと第5曲を続けて演奏するパターンが多いとか。

 バボラークとしては故郷の音楽に対しての思い入れもあるだろうが、意外に抑制的な演奏である。リズムとアクセントに独特のものがあり、その辺りはチェコ式、及びバボラーク式なんだろうが、祝祭的にガンガンと派手な演奏をする者が少なくない(例えばアルトリヒテルとか)中でバボラークの解釈は抑え気味に聞こえるところがある。10-8-6-6-4の10型の2管編成であるので、ややバランス的に金管優位であり、下手をすると金管ばかりバリバリ前に出かねないバランスのところを、バランスに配慮して抑えているような感もある。

 二曲目はモーツァルト。オケの方も6-6-4-3-2の小型編成に再編成して、室内オケ的な音楽を聴かせることになる。この曲は随所にいわゆるモーツァルト節とでも言うべき特徴的な節回しが出てくるので、初めて聞いてもモーツァルトの曲であることはすぐ分かるような曲。さすがにこの曲になるとバボラークのソロホルンが冴え渡る。とにかく見事という音色を出してくる。やっぱりバボラークの本領はホルンにあるなと思わされる。

 もっともバボラークのホルンが冴え渡ったのは三曲目のドニゼッティ。ドニゼッティの曲だけあってどことなくオペラ的で、バリトン歌手よろしくホルンが歌いまくる曲であるので、バボラークのホルンの音色が響き渡るという印象。まさにその妙技を堪能するにふさわしい曲であり、5分ほどの演奏時間はほとんど一瞬で終わってしまったという印象。

 後半は再びオケを10型に戻して、いわゆるドボ8。チェコ的アクセントは相変わらずで、メランコリックな旋律でも溺れすぎないややクールな演奏は一曲目と同じ印象。もっとも歌わせるところではしっかり歌わせており、10型の2管編成とやや弦楽陣が物理的に負け気味な山響弦楽陣も、ここぞとばかりにしっかりと聞かせてくる。また随所にある舞踏的節回しではしっかり踊ってくるのもチェコの指揮者の特徴。もっともこういうところでもバボラークはかなり「節度」を保っている印象。

 予想以上にバボラークがお上品な演奏をするなというのが全体を通じての印象。私的にはもっと下品な演奏の方が面白かったりするのは本音。なお山響のアンサンブルについては相変わらずなかなかにしっかりしたものを感じる。これからも地方オケの雄として活躍していって欲しいところ。本当は山形にまた聴きに行きたいが、もう私にはそんな余裕は永久に出来ないかも。少なくとも岸田の「庶民からは徹底的に巻き上げて、富裕層に配分」という政策が続く限りは絶望的。

本公演はカーテンコールが撮影可

バボラークもやり切った感が伺える

 

 

宿泊は新今宮で

 コンサートを終えるとおみやげのサクランボを受け取ってから車を取りに行く。後は例によって新今宮のホテルへ。今回宿泊するのは先週と同じビジネスホテルみかど。前回は空きがなかったせいで旧館の方に宿泊したが、今回はいつもの新館を確保してある。まあやはり新館の方が綺麗ではある。部屋の殺風景さは同じようなものだが。

館内は旧館よりはやや綺麗

部屋はシンプルで機能的(殺風景を言い換えるとこうなる)

 部屋に入ると疲れているので軽く夜食。先ほどもらったサクランボを出して来て少しつまむ。かなり美味。さすがに本場ものである。PR用だけにかなり厳選してある気がする。

土産のサクランボ(後ろも土産ののど甜茶飴)

 一息ついたところで仕事環境構築。しかし疲れが強いので作業は進まない。風呂の時間が来るが大浴場まで入浴に行く元気がないので、近くにあるシャワーで済ますことにする。体をザクっと洗ったところで、諦めてこの日は就寝する。

仕事環境は構築したが、仕事ができる体力がなし

 

 

この遠征の翌日の記事

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PAC定期演奏会は井上道義のファイナル(になるはずだった)バレエ付き「火の鳥」

行くところがないので尼崎歴史博物館に立ち寄る

 翌朝は8時前に起床、昨日買い込んでいた朝食を腹に入れると朝風呂。その後はチェックアウト時刻の11時まで原稿執筆などをしながらゴロゴロ過ごす。

 さて今日の予定だが、15時からのPACのコンサート以外はキチンと定まっていない。ちなみにPACのコンサートは井上道義の公演のはずだったのだが、井上が体調を崩したらしく、急遽若手指揮者に振り替えられた模様で、その時点で「なんだかなあ」である。また開演までやや時間があるのだが、その間のつぶし方もまだキチンと定まっていない。もう半分以上は出たとこ勝負である。

 

 11時にホテルをチェックアウトすると、まずは尼崎を目指す。昨日の夜に調べたところによると、尼崎市立歴史博物館なるものが復元された尼崎城の近くにあるという。

校舎を流用した尼崎市立歴史博物館

教室が展示スペースになっている

 

 

 歴史博物館は明らかに元々学校だった建物を流用したもの。入場料が無料なのは良いが、駐車場は有料。2階の教室が常設展示室となっており、6つの教室に古代から近代までの展示だが、古代から中世をかなりすっ飛ばして近世の尼崎城の時代になっており、中世辺りがあからさまに手薄。どうも収集資料に少々偏りがありそう。

近代の展示室

ここは近世(江戸時代)

隣の展示室にあった尼崎城の模型

古代の展示室

 3階に企画展示室があり、内容は尼崎ゆかりの武将、細川高国、三好長慶、佐々成政にまつわる資料だが、文書中心であってマニアックで地味。そこまでコアな歴史マニアではない私には、あまりにもマニアックすぎるのでザッと流すような感じ。

企画展は文書中心

 歴史博物館の見学を終えると次に向かうのは大谷美術館。何やらボダニカルアートの展覧会をやっているという情報を得ている。ボダニカルアートに特に興味はないが、どこかでボーッと時間をつぶすよりは有用だろうとの判断。

 

 

「英国キュー王立植物園 おいしい ボタニカル・アート 食を彩る植物の物語」西宮市立大谷美術館で7/23まで

大谷美術館に入館する

 英国キュー王立植物園は18世紀に熱帯植物を集めて作られた広大な植物園で、同時にボダニカルアートコレクションも収蔵している。本展ではそのようなボダニカルアートコレクションから、イギリスの食について観察する。

 最初は序章として農村風景を描いた作品から始まる。次は野菜の絵。中には新大陸から伝わって広がったジャガイモ、トウモロコシ、トマトなども含まれている。これらはイギリスの食生活をも大きく変化させたという。そしてイギリスで人気の果物達。イギリス菓子の定番がアップルパイだと言うが、リンゴだけでもかなりの種類が描かれている。

 そしてイギリスに不可欠の茶の習慣について。最初は上流階級の楽しみだったようであり、豪華なティーセットなども展示されている。

貴族のティータイム

 しかしそれはやがては市民レベルにも浸透する。この頃ちょうど民藝運動が起こった時代とのことで、モリスの壁紙を背景にした素朴なティーセットが展示されている。

市民はこんな感じ

 さらには茶だけでなく、コーヒー、カカオ、砂糖、アルコールなども様々登場したとのことで、それに関するボダニカルアートなど。

 最後はハーブにスパイスの図鑑のようなものが登場するが、それを見ると一体何種類のスパイスが存在するのかと呆れるばかり、なおショウガも登場したが、なぜか根がかかれてなかったのが謎。そしてレシピ本の類いなんかも登場するようになったとのことで、一番最後はそこから雰囲気を再現した豪華ディナーの風景で終わり。

豪華な晩餐を再現

 まあ正直なところ、図鑑の絵が並んでいるような感じなので、いわゆる芸術的感慨は皆無ですが、博物的興味と食から透けて見える当時のイギリスの社会なんかが結構興味深かった。

 何だかんだでここで1時間弱をつぶしていた。時間が余っていたのでゆっくりじっくりと見学したのが反映したのだろう。あまり期待はしてなかったのだが、意外に面白かったので良しだろう。

 

 

昼食は洋食店に立ち寄る

 そろそろ一時頃、ホールに車を置いてから西宮ガーデンズ辺りで昼食でも摂ろうかと考えていたのだが、交差点で車線を間違えて右折できず、そのまま直進したら阪急の高架まで来てしまったので、このすぐ近くにある「ダイニングキノシタ」で昼食を摂ることにする。

阪急高架下のダイニングキノシタ

 幸いにして車を停めるスペースも店内の席にも空きがあった。ザッとメニューを見渡して「エビフライとハンバーグの盛り合わせ雷鳥ランチセット(1500円)」を注文する。ちなみに雷鳥なのはここのマスターか誰かが鉄オタだからの模様。これ以外にもトワイライトエクスプレスセットなんかもある。

 しばし待った後にまずはカボチャのポタージュスープ。これが口当たりがまろやかで実に美味である。

カボチャのポタージュスープが美味

 次は野菜サラダ。酸味のあるドレッシングがかなり多めにかかっている。

酸っぱいサラダ

 そしてメイン到着。エビフライが3本も入っているのがなかなかに豪華。また肉の感覚のしっかりしたハンバーグが美味。以前にここでハンバーグを食べた時には、ジューシーなのはともかくとしてそれが脂でベチャベチャする感覚があったが、今回はそういう不快さは感じられなかった。

メイン到着、エビフライは3本

 正直なところ前回のアスパラカツがややハズレだったので、ここはあえて選択肢から外していたんだが、いざこうやって来てみるとなかなかに大正解だった。満足して洋食ランチを堪能したのである。

 

 

いざ、兵庫芸文へ

 昼食を終えるとホールに移動、車を駐車場に置いて上がってきた時には開場間近であった。

ちょうど開場直前

 ホール前には井上道義の体調不良で指揮者交代の案内が出ている。私は事前にtwitterで知ったのだが、会場に来て初めて知った者はドッチラケだろう。なんせコンサートのタイトルが「井上道義 最後の火の鳥」となっているんだから。なお井上自身も今回はかなり気合いを入れていた企画らしく、土壇場でのキャンセルは忸怩たるものがあったようで、プログラムパンフにかなり長々とした井上の説明書き(言い訳である)が付けてある。腎臓から来るかなりの体調不良に苦しめられてどうしようもなかったらしい。

指揮者交代の張り紙が出ている

 ちなみに本日代演をする横山奏なる指揮者は、正直なところ初めて聞く人物である。1984年生まれとのことだから39才か。若手と言うよりはやや中堅にかかってきた辺りの指揮者で、国内オケのあちこちに客演歴はある模様。今回の公演はバレエ付きというかなり変則的なものだし、その内容も井上と森山開次がかなりミッチリと打ち合わせして詰めたものであるようだから、それからはみ出してしまうと破綻するので、指揮者としてはあまりやりやすい条件ではないとは感じられる。

 井上の最後の公演と銘打っていたためか、チケットはほぼ完売とのことで、確かに場内にはかなりの観客が入っていたが、指揮者交代を聞いて来るのもやめた客もチラホラといるような印象は受けた。

 

 

第142回定期演奏会 井上道義 最後の火の鳥

オケはステージ奥に位置して、中央に花道が作ってある

指揮:横山 奏 (※当初発表より変更)
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
【キャスト】
★バレエ音楽「火の鳥」のみ出演
男 森山 開次 ★
王女の亡霊 本島 美和 ★
火の鳥 碓井 菜央、梶⽥ 留以、南 帆乃佳、浅沼 圭、⽔島 晃太郎、根岸 澄宜 ★

スタッフ
【バレエ音楽「火の鳥」】
総監督:井上 道義
演出・振付・出演:森山 開次
舞台監督:酒井 健
照明:足立 恒
衣装デザイナー:武田 久美子
衣装製作:武田久美子・工房いーち・内田智子・飯高絵莉聖・根岸麻希
金属装飾:森 千尋
美術プラン:森山 開次

プログラム
<オール・ストラヴィンスキー・プログラム>
ディヴェルティメント(バレエ音楽「妖精の口づけ」による)
バレエ音楽「火の鳥」(1910年原典版)

 バレエをする関係で、ステージ奥の音響反射板を外して、オケ自体はかなり奥目に配置してステージ手前を開けた上に、センターに花道を作っているというかなり変則的な配置になっている。また音響反射板を外すことによって反響音がなくなることを補うために、電気的な音響システムを使用して補完しているらしい。もろもろ意欲的に初めての試みがなされている。

 プログラムによると、オケとバレエの両メインという形にするために、あえてオケをピットに入れずにステージ上に配したのだという。井上的にはバレエ公演ではなくてあくまでオケのコンサートであるということにこだわったようである。

 

 

 さて一曲目はストラヴィンスキーのこれもバレエ音楽なのだが、こちらは踊りなし。オマージュとしてチャイコフスキーのメロディを多数組み込んでいるという曲であり、そのせいかストラヴィンスキーの曲にしては非常に馴染みやすい。随所にチャイコ節の断片が入り込んでいるので、普通のストラヴィンスキーのイメージとはやや異なる感じの曲である。

 横山の指揮については可もなく不可もなくというところか。今回は彼としてはあまりに自分の色を出すわけにもいかないから、どうしてもそこは抑制的にならざるを得ないだろう。オケの演奏の方は力強いし安定感もあり、なかなかに鮮烈な音色を出しているのが印象的。PACの若さが良い方向に出ている。

 後半がいよいよメインの火の鳥だが、音楽に森山演出のバレエが加わることになる。シナリオはパンフに書いてあるが、元々のシナリオにかなり矛盾点があるので森山なりの解釈を加えてストーリーをアレンジしたという。

 バレエを見ない私としては、今回初めてバレエの付いた火の鳥を鑑賞したのだが、こうして見てみるとなるほど、この曲はバレエの音楽だと言うことが改めて再確認された。というのも音楽を聴いているだけだとグダグダしていて意味があるように思えないシーンが、そこにバレエの踊りが加わると「ああ、こういう意味のシーンだったのか」とすんなりと納得できるのである。

 全編を通して、このような「腑に落ちる」という箇所が非常に多かった。それは森山の演出が巧みにツボを突いていることも示しているのだろうと思われる。踊りについては何とも分からない(バレエ公演を見たことはなく、せいぜいオペラに付随しているバレエを見たことがあるぐらい)私にはバレエに関して云々できる資格はないが、とにかく音楽に関してはPACオケがなかなかに頑張って気合いの入った演奏をしていたように思われる。また横山もかなりしんどい条件だっただろうと思われるが、どうにか無難に井上の代役を務めきったという感を受けた。少なくても終わってから「金を返せ」になるという最悪の事態からはほど遠い見事な出来であった。

 実際にいつものコンサートとは雰囲気の違ったショーに、場内の盛り上がりもなかなかだった。

 これでこの週末遠征は終了である。今回はコンサートの内容がかなり充実していたというのが印象に残る。こういう「ハズレのない回」というのはありがたいところである。

 

 

この遠征の前日の記事

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大フィル定期で1年ぶりのデュトワマジック炸裂、大盛り上がりの大熱狂に

昼食は牛肉のオムライス

 翌朝は疲労もあるので目覚ましは9時半にセットして寝たところ、目が覚めたのは9時過。その頃になると周囲の部屋がドタバタし始めるので必然的に目が覚める。眠気はないのだが体はダルい。

 とりあえず昨日調達しておいた朝食を腹に入れると、しばし原稿入力などもしながらゴロゴロ。10時から11月のベルリンフィルのチケットの発売があるが、最安席(それでも2万円)は瞬殺でチケット争奪戦は早々に敗北決定。まあ元々入手できるとは思ってなかったが。もう少し高い席なら入手可能だが、今の私は2万円でもかなり無茶という状況なので仕方ない。とりあえずゴロゴロしながら横目で朝ドラをチラチラ見たり。昨日の原稿をアップしたり、教ドキュ用の原稿を1本書いたりなどをしながら午前中を過ごす。

 

 

 昼になったのでそろそろ出かけることにする。昼食を摂るのに立ち寄ったのは新今宮の「南自由軒」。前回にも訪問した町の洋食店である。「オムライスと海老フライのセット(1030円)」を注文する。

オムライスの看板が目立つ「南自由軒」

 牛肉のオムライスは例によってコクがあってなかなか。最近は段々とこっちの方が正しいオムライスに思えてきた。エビフライについてはやや細いが、まあ価格を考えると仕方ないか。一応は有頭エビである。頭までムシャムシャと頂く。

オムライスとエビフライのセット

 

 

博物館を見学する

 昼食を終えると移動。とは言うものの、今日の大フィル公演は15時開演なので今からだとまだ早すぎる。そこで天神橋筋六丁目にあるという「大阪くらしの今昔館」で何やら企画展をやっているとのことなので、この博物館は今まで行ったことがないということもあるので立ち寄っていくことにする。

 天神橋筋六丁目までは地下鉄堺筋線で直通。博物館は3番出口直結のビルの8階にある。

 どうやらこの博物館は江戸時代の大阪の町を再現しているようである。それを最上階から全体を鳥瞰してから降りてくるというコースが順路となっている模様。

再現された江戸大阪の街並みを上から見学

通りがある

 はて、このような展示をつい最近に見たことがあるような・・・と思ったら、それはこの前訪問した大阪歴史博物館だった。あちらは近世大阪の復元に力を入れていたが、こちらはそのひとつ前の時代ということか。確かに復元建物などには力を入れているが、正直なところ規模はそんなに大きくもなく、やや中途半端な印象がある。

先ほどの通りを下から

再現された住宅

裏路地なども雰囲気はあるが・・・

 

 

 しかも一階下には近世大阪を再現した模型なども展示してあり、これはもろに大阪歴史博物館と被る。正直なところわざわざ2つの施設に分けている意味が今一つ不明。というか、あっちは一応近くにある難波の宮から現代に至るまでの大阪の歴史を紹介するというストーリーがあるが、こっちは唐突に江戸時代であり、その辺りの趣旨がピンとこない。

下のフロアの展示

通天閣近辺の様子だとか

 常設展示を抜けると企画展示になる。こちらを見学することにする。

 

 

「五井金水とゆかりの画家たちー船場で愛された絵師の画房からー」大阪くらしの今昔館で6/18まで

企画展

 五井金水とは大阪に生まれて明治から昭和初期まで活躍した四条派の流れを汲む画家とのことである。花鳥や山水画などを描いて瀟洒な画風から船場の商家の床の間に飾る作品として重宝されたとある。本展では金水の家族が所蔵していた美術品に看板、箪笥、画材に下絵なども展示している。

金水の絵画道具

看板と箪笥

 数々の下絵を見ると、かなり熱心に勉強した画家だということは伺える。とは言うものの、正直なところ作品自体にこちらにビビッと来るものはほとんどない。技術は手堅いが定型的で芸術品というよりは装飾品として制作しているのではないかと感じられる。

絵手本を描き写して画法を学ぶ

写生も多数したようである

 

 

 だから床の間の飾りとして最適だったのではという気がする。飾り絵として考えると、変に芸術性が高くてメッセージをアピールしてくる作品よりも、美しくまとまっている絵の方が最適である。どうも最初からそういう方向を志向していたように感じられる。

日の出の図

瀧の絵

釈迦なんだが、なぜか私にはイエスに見える

 ザっと見て回った中で、私が唯一面白いと感じたのは巨大な北廻船を描いた作品。確かに巨大な船ではあるが、いささかデフォルメが入っているのではと感じられた。この作品だけはそのデフォルメがなかなかに面白く感じられた。

この絵はデフォルメが面白い

 結局は今一つ趣旨の分からない博物館だった。ただ最後に売店があって組み立て式ドールハウスや手ぬぐいなどが売ってあり、ああ、もしかしてインバウンド向けだったのかとようやく理解できたような気が・・・。

売店に並ぶドールハウス

 博物館を一周したところでホールに向かうことにする。当初予定ではこの後に中之島香雪美術館に立ち寄ることも考えていたが、思ったよりも博物館で時間を取ったし、地下鉄で間違えて反対方向行きに乗ってしまうし、東梅田から西梅田からの徒歩接続はとにかく遠いしで、肥後橋に着いた時にはもう時間的余裕がなくなっていたのでホールに直行することにする。今回はデュトワが指揮ということでホール内は見渡したところほぼ満席である。

 

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第569回定期演奏会

大阪フィルは14型

指揮/シャルル・デュトワ
チェロ/上野通明

曲目/フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
   ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107
   ストラヴィンスキー:交響詩「ナイチンゲールの歌」
   ラヴェル:ラ・ヴァルス

 一曲目はフォーレの美しい曲。デュトワが振ると大阪フィルの音色が艶っぽくて色彩豊かになるのが驚きである。3曲目が有名なシシリエンヌだが、ここなどフルートとハープのあまりに美しい絡みにウットリとしてしまう。全体的に管楽器を中心とした個人技も冴え渡っており、大阪フィルってこんなに上手だったっけ? と驚くこと多々。なんかデュトワの棒にかかるだけで大阪フィルが一段以上グレードアップするデュトワマジック炸裂。

 ショスタコのチェロ協奏曲に関しては、これは上野の演奏に尽きる。この複雑怪奇な曲を悠々と弾きこなす技巧的なものは当然として、とにかく音色が深い、その音色だけで引きずり込んで聞き込ませるものがある。その真髄はアンコールのカザルスの曲でも遺憾なく発揮されていた。デュトワマジックに続いて上野マジックで場内は爆発的な盛り上がりとなった。

 休憩後の後半も当然のようにデュトワマジックが炸裂しまくりである。音色からアンサンブルまで一段階グレードアップした大フィルによるナイチンゲールは「春の祭典」を思わせるような音楽の炸裂があるかと思えば、一転して美しさを感じさせたりなどかなり目まぐるしい曲調。しかしそれが完璧に統率されて一切乱れないのがデュトワのデュトワたる所以。

 最後のラ・ヴァルスに至っては、ところどころで現れるワルツ的な旋律に見られるデュトワらしい色っぽさ。それと一転して各楽器が炸裂する激しさ。しかしそこで荒くならない。しかも大フィルソリストたちがことごとくとんでもない音色を出してくる。今までずっと大フィルを聴いてきた者としては「これが本当に大フィル?」と言いたくなる音色である。

 かなりの名演にほぼ満席のフェスティバルホールは爆発的な拍手に覆われた。何度往復しても止みそうにない拍手に最後はデュトワがコンマスの崔を引っ張って強引に退場することに。とにかく毎度のように今回もデュトワマジックに心底感心することになったのである。

 

 

ホテルに戻る前に喫茶に立ち寄る

 コンサートを終えて地下鉄でホテル近くまで戻ってくるが、暑さもあってどうも一服したい気分。ちょうど目の前にある昭和感のある「喫茶香豆里」に立ち寄ることにする。

昭和レトロ感ある喫茶「香豆里」

 何を注文しようかと考えていたら「支払いはクレジットかキャッシュレスだけですが大丈夫ですか」と聞かれる。店に女性が2人だけなので防犯上のためかなとも思ったが、よくよく考えるとこれはクレジットを作れない層の客を排除できるという意味でもあると気付いた。クレジットを作る際には一応は支払い能力の審査があるので、ある一定以上の収入のある層に客層を限定することができる。まさか店頭に「底辺客お断り」と書いたら差別で問題になる上に、そもそも何をもって底辺と定義するかという問題があるが、この形だったらやんわりと客層を限定できる。これからはこういう形を取った排除も増えていくのかもという気もしたりする。

 とりあえず私は「プリンアラモード」「水出しアイスコーヒー」を頼む。コーヒーが当たり前のようにブラックで登場したのは予想外(テーブルに砂糖等はなし)だったが、苦味が弱いコーヒーなので私でも辛うじてブラックで飲める代物。

あっさりした水出しアイスコーヒー

 プリンアラモードは昔懐かしいという雰囲気。プリンの味自体もまさに昔懐かしいカスタードプリン。プリンとアイスの下に敷いてあるクッキーが歯触りも良くて意外に美味。

懐かしさのあるプリンアラモード

 

 

夕食は結局はいつもの通り

 取りあえず喫茶でマッタリしたところで、ついでに夕食も済ませるかという気になる(ここまで暑さにやられて食欲が今一つ湧かなかった)。寿司でも食うかとじゃんじゃん横町を訪れたが人であふれかえっている。その上に「大興寿司」の前には東南アジアからの観光客らしい連中が待っている。アホらしくなったので引き返して、結局は何の工夫もなしに「らいらいけん」を訪れることに。

いつもの「らいらいけん」

 日替わりはいまいちピンと来なかったので、「とんかつ定食(800円)」を注文する。

一品はポテトサラダを頂く

そしてとんかつ定食

 普通に可もなく不可もなくのCPの良い定食である。とりあえずこれで夕食は終了、ホテルに戻ることにする。

 ホテルに戻るとまずは大浴場で汗を流してゆったりする。後は原稿執筆。ただ体に疲労があるのでイマイチ捗らず、正直このまま寝てしまいたい気分だが、流石にそれはまだ時間が早すぎて夜中に目が覚めてドツボるのがオチ。とりあえず眠気でボケてきている頭を叱咤激励して原稿作成。うーん、やっぱり私の休日ってどこか根本的に間違っている気がする。

 この後は明日の朝食購入に一旦外出したり、体をもう一度温めるのシャワーを浴びたり、気が向いたら原稿書いたりでマッタリと過ごす。こうしてこの夜は更けていく。

 

 

この遠征の翌日の記事

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この遠征の前日の記事

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最終日は芦屋で「伊藤継郎展」を見学してから、下野指揮PACのイギリス音楽

最終日はコンサート以外の予定がない・・・

 翌朝は7時半に起床。やはり体がズッシリと重い。無理しないようにしていても、それでも疲労の蓄積はある。これが一晩寝てもスッキリ回復しないのが老化というものである。

 とりあえず昨日購入しておいた簡易朝食を腹に入れると、入浴して体を温めるところから。後はグダグダしながらチェックアウトの支度を調える。

 今日の予定だが、メインは15時からの西宮でのPACのコンサート。つまりは10時にホテルをチェックアウトしてからしばらく予定がない。実は昨晩、今日の行動予定についてあれこれ調査したのだが、結局のところ大阪方面の美術館スケジュールはなし。兵庫方面も同様で結局は見つかったのは芦屋市立美術博物館の展覧会のみ。仕方ないのでまずはこれに直行することにする。ここは最近はリニューアル工事で閉館中だったので、久しぶりの訪問になる。

 

 

「芦屋の美術 もうひとつの起点 伊藤継郎」芦屋市立美術博物館で7/2まで

芦屋市立美術博物館

 芦屋の画家・伊藤継郎について、彼と交流のあった画家たちの作品を含めて展観すると言う趣旨のようである。

 伊藤は最初は松原三五郎の主催する天彩画塾で洋画を学ぶが、翌春に閉鎖されたことから、赤松麟作の赤松洋画塾に移る。最初は松原と赤松の作品が展示されているが、松原は古典的な洋画作品、赤松は典型的な印象派の影響を受けた黒田的な絵画である。

松原三五郎「老媼夜業の図」

赤松麟作「裸婦」

 

 

 療養を兼ねて芦屋に転居の後は小出楢重、黒田重太郎、国枝金三、鍋井克之の4人が開設した信濃橋洋画研究所に通う。

小出楢重「横たわる裸女A」

黒田重太郎「蟠桃のある静物」

 ここで伊藤は二科展に入選したり、生涯の友となる小磯良平と出会ったりするという。そして画家として頭角を現していくことになる。

伊藤継郎「瓦のある風景」

伊藤継郎「鳩を配した裸婦」

 

 

 1941年になると国家による美術界に対する統制に反発して、二科展を退会して猪熊弦一郎、内田巌、小磯良平らが結成した新制作派協会で活躍するようになる。この辺りでは伊藤もいかにも尖った絵を描き出すようであるが、具象の域から離れてはいない。

猪熊弦一郎「不詳(裸婦と猫たち)」

伊藤継郎「二人の司教」

西村元三郎「堰」

 しかし戦争の影が深まり、小磯は戦争画を手がけることに、伊藤は1944年に満州に招集されることになり、終戦後にはシベリア抑留までされたという。翌年に帰国は出来たものの、妻は前年に死去しており、伊藤も療養生活を送ることを余儀なくされたという。

村上三郎「河小屋」

白髪一雄「文」

 

 

 1947年になると幸いにして戦災を免れていたアトリエで制作を再開、戦争でアトリエを失った小磯良平など多彩な人物が集まるようになり、伊藤もその才を発揮していくことになったという。

伊藤継郎「アラブの女」

伊藤継郎「ギリシャの老人」

伊藤継郎「裸婦3人」

伊藤継郎「月」

伊藤継郎「二人」

 紆余曲折はあったが、最後の最後まで具象からは離れなかった画家である。また同じ具象でもいつも小綺麗な絵のイメージがある小磯良平とはまた異なった表現をとっているのが特徴である。正直なところ私の好みの絵とは言いにくいのだが、それはそれで周辺画家の作品と対比しながら見ていくと、なかなかに興味深かったのである。

 

 

昼食は洋食にする

 美術館の見学を終えた頃には11時半頃だった。これは夕食を摂ることにしたい。立ち寄ったのは久しぶりの「ダイニングキノシタ」。今まで何度か覗いたのだが、悉く駐車場(この店は前の道路に路駐する)が一杯だったので見送っていた次第。今回はたまたま空きがある。テイクアウト注文が多数来ているので料理出しに少々時間がかかりますの張り紙が出ているが、そもそも時間が余っているのだからちょうど良い。この原稿を執筆しながら待つことにする。

久しぶりに「ダイニングキノシタ」を訪問

 20分ぐらい待ってからスープが到着。かぼちゃのポタージュとか。ほの甘さがなかなか良い。

カボチャのポタージュ

 野菜サラダはやや酸味のあるドレッシングが爽やかである。

ドレッシングが爽やかな野菜サラダ

 メインはアスパラの牛肉巻きカツ。思いの外ボリュームがあるが、アスパラが歯ごたえだけで味が薄い印象を受ける。出来ればもっとアスパラの甘味が欲しい。また全体的にややしつこい感じがある。濃厚なソースで食べさせるよりも、もっと素材の味で食べさせる方が良いように感じる。

メインの牛巻アスパラカツ

 

 

 何だかんだで昼食に1時間以上かけたが、それでもまだ時間にかなり余裕がある。ホールに移動して駐車場に車を入れるが、開場までは喫茶でつぶすことにする。

アイスコーヒーを頂きつつ、原稿入力作業

 時間が来たらホールに入場、結構な入りである。

兵庫芸文は結構な入り

 

 

第141回定期演奏会 下野竜也 ザ・ブリティッシュ!

指揮:下野 竜也
ヴァイオリン:三浦 文彰
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

ウォルトン:「スピットファイア」前奏曲とフーガ
エルガー:ヴァイオリン協奏曲
エルガー:エニグマ変奏曲

 一曲目はウォルトンによる映画音楽である。かなり派手派手な曲であるのだが、下野の指揮も派手だし、若いPACの音色も派手。特に管楽器がブイブイ来る印象。いささかバランス的には管楽陣が前に出すぎの感もある。

 二曲目はエルガー。私がエルガーが苦手であるのは、まさにターナーの絵画の如く音楽の輪郭線がハッキリせずに曖昧模糊としたところがあるからである。その点でヴァイオリン協奏曲という形式は、ソロ楽器のメロディラインがハッキリすることで私にとっては意外なほどに聞きやすいものであった。また普段はややソリッド感が気になる三浦の硬質な演奏も、ことこの曲の場合はエッジが立つことで曲自体にメリハリがついてさらに聞きやすくなったという印象。結果としては予想以上に面白い演奏となった。

 後半はエルガーの変奏曲。変奏は14まであり、9番目が有名なニムロッドである。私としてはデュメイがたまにアンコールで演奏することがあることで馴染みの曲である。

 今までと同じ調子で、やはり若いPACは元気が良い演奏という印象。下野もかなりノリで演奏している雰囲気がある。ただその分、細かい意味でのアンサンブルやバランスなどはやや悪い部分もなかったではない。概ね「元気が一番」という演奏であり、まあPACらしいとは言える。

 

 これで週末遠征は終了、阪神高速の工事渋滞に辟易としつつ帰路につくのである。

 

 

この遠征の前日の記事

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京都市響大阪公演は、ノリノリの名演で大盛り上がり

昼食は新今宮で話題のオムライス

 翌日は朝から出かける予定はないので目覚ましはセットせずに起床。目が覚めたのは8時半ごろ。昨日買いこんでいた軽い朝食を腹に入れると、風呂に湯を張って体を温めてから、しばしは朝の仕事(原稿入力およびアップ作業)。毎度のことながらこのホテルの難点であるネットの遅さのせいで、原稿アップ作業は結構大変(途中でタイムアウトすることがある)。

 昨日の遠征記と教ドキュ用の原稿を1本仕上げると、ちょうど昼時になるので出かけることにする。今日はザ・シンフォニーホールで京都市響の大阪公演だが、開演が14時からであるので、それまで昼食を摂っておく必要がある。

 プラプラと出かけると新今宮の「南自由軒」に立ち寄る。ここは牛肉を使ったオムライスが名物とのことだが、前回訪問時には「それはちょっとしつこいのでは」と感じたので別メニューを注文した。しかし今回はその名物に挑戦してみるつもり。注文したのは「オムライスとトンカツのセット(1020円)」

オムライスが売りなのは看板だけでも分かる「南自由軒」

オムライスとトンカツのセット

 トンカツがやや薄めだが、価格を考えると妥当なところ。味は良い。そしてメインのオムライスだが、私が懸念したようなしつこさとか違和感は皆無。むしろ少々コクのあるオムライスと言う感覚で、逆にこれに馴染んだら鶏肉を使ったオムライスはあまりにあっさりしすぎと感じるようになるのではというように思える。思い出したのは金沢の「自由軒」の醬油ベースのライスによるオムライス。ちょうどあれの感覚に近い。私の頭の中で、自由軒と言えばオムライスという回路が形成されてしまう。そう言えばこの店の「南」は何に対して南なんだろう?

牛肉のオムライスはコクがある

 

 

 満足して昼食を終えるとJRでホールまで移動することにする。ホールは開場直前。

ホールへ移動

 コロナは終わったことにされた関係から、入場前のゲートはかなり省略された形になっている。

事実上、入場チェックはなくなった

 時刻になって入場するととりあえず開演まで再開された喫茶でマッタリとアイスコーヒーを頂きながらくつろぐことにする。しばし時間をつぶした後に座席に。場内は結構な入りである。

アイスコーヒーを頂きながら原稿作成

 

 

京都市交響楽団 大阪特別公演

今回は打楽器が多彩

[指揮]広上淳一
[管弦楽]京都市交響楽団

ボロディン:歌劇 「イーゴリ公」から
「ダッタン人(ポロヴェツ人)の娘たちの踊り」
「ダッタン人(ポロヴェツ人)の踊り」
チャイコフスキー:イタリア奇想曲 op.45
ビゼー:「カルメン」組曲セレクション
   (第1組曲から)
    前奏曲~アラゴネーズ / 間奏曲 / セギディーリャ / アルカラの竜騎兵 / 闘牛士
   (第2組曲から)
    ハバネラ / 闘牛士の歌 / ジプシーの踊り
ラヴェル:ボレロ

 ファミリーコンサート的な名曲メドレーのニュアンスのあるラインナップである。同時にエキゾチックな曲を並べてあるので、名曲世界巡りの感もある。

 さて久しぶりの広上の指揮であるが、今までにも増して絶好調という印象。初っ端からノリノリ全開と言ったところ。例によって小さな体をフルに使っての全力タコ踊り。それに応えるオケの方もノリノリ。初っ端のダッタン人から非常に冴えたキレの良い演奏であり、つかみはOKという印象。

 二曲目は鬱気質のチャイコの比較的珍しい明るい曲。イタリアという国はどんな根暗でも心明るくする力があるようである。冒頭から金管がかなり迫力のある音でブイブイとくるが、それに絡む弦楽陣がネットリとなかなかに色気のある音を出す。極彩色でありながら、それでいて軽薄にはならない見事な演奏。京都市響の安定性も抜群である。

 前半の大盛り上がりを受けての後半は、これも超有名なビゼーのカルメン。それにしてもこうして改めてその音楽を聴くとビゼーの天才を感じずにはいられない。見事なまでスペイン情緒満開だが、広上はオペラ的でなくコンサート向けピースとして演奏しているのが特徴。やや派手目な演奏でジャンジャンと盛り上げてくる。さらにこの曲の場合、フルートやトランペットなど、管楽陣の個人技も冴え渡っている。

 さらに個人技冴えまくりになるのが「ボレロ」。2パターンの旋律をきっかり9回ずつ繰り返すだけという超単調曲(A-A-B-Bのパターンの繰り返し)なんだが、ラヴェルの天才的オーケストレーションの技のおかげで見事な音楽になっているという代物。各管楽器にはソロ演奏部が必ずあるので、もし下手な奏者がいたらそこで破綻するという曲でもあるのだが、さすがに京都市響は安定しているうえに、今日は特にノリノリである。そのまま音楽は盛り上がって、クライマックスはノリノリの大音量で完。普段あまり響きが良いとは言い難い京都コンサートホールで慣れているせいか、ザ・シンフォニーホールがやたらに鳴るという印象。

 広上自身が言っていたが「実に気持ちの良い演奏」であった。場内が大盛り上がりになったのは言うまでもない。

 

 

夕食はいつもの定食屋

 コンサートを終えるとホテルに戻って入浴と原稿整理。18時になったところで夕食のために町に繰り出す。金もないし体力もないしということでわざわざ新世界まで出ていく気は起らない。結局はいつものように「らいらいけん」に向かう。途中で人だかりが出来ているから何かと思えば、どうやらお好み焼き屋があるようだ。ここが何やらGoogleで特に外国人に評価が高いそうだが、毎度行列なので覗く気がしない(それに私はお好み焼きがそう好きというわけでもない)。もしいつかたまたま空いていることでもあれば立ち寄るかというところで、らいらいけんへ。結局はいつものように日替わり定食を注文。

結局は今日もらいらいけん

 エビ玉の黒酢あんと豚の天ぷらがついて800円。これが普通に美味い。先週のニラ玉も上手かったが、今回のエビ玉はさらに美味い。毎度のことながらCP最強である。

CP最強の日替わり定食

 夕食を終えるとホテルに戻ってくる。テレビをつけるがろくな番組がないので、結局はひたすら原稿作成作業になってしまう。結局は私の遠征って、遊んでるんだか仕事してるんだか訳が分からなくなっちゃうんだよな。何も知らない者が見たら、明らかにワーケーションに見えるだろうな。

 そうこうしている内に夜も更けてくる。結局は適度な時間で就寝することにする。

 

 

この遠征の翌日の記事

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この遠征の前日の記事

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山王美術館で藤田嗣治の絵画を鑑賞してから、関西フィルのいずみホール公演でモーツァルト

週末コンサートに繰り出す

 先週末がコンサート三連荘だったが、この週末もほぼ同様の形式を取ることになった。金曜日の仕事を午前中に終えると車で大阪に向かうことになる。

 阪神高速は未だに京橋ー摩耶間が工事中。前回は京橋まで行ってしまったら出口手前の大渋滞でひどい目に遭ったので、今回は手前の柳原出口で出る。とは言うものの、下道も渋滞なので果たしてこれが正解だったかどうかは難しいところ。摩耶入口から阪神高速に再び乗ろうと思っていたが、入口手前から道路が大混雑なので、ここは通過して一つ先の魚崎から阪神高速に乗る。

 まずは今日の宿泊ホテルに向かう。例によってのホテル中央オアシスに到着したのは、チェックイン時刻の3時ちょうど。車を置くとチェックイン手続きをしてから一旦部屋に入る。先週と階は違うが同じ間取りの部屋である。とりあえず仕事環境を構築してウェブをチェックすると直ちにホテルを出る。そもそも今日午後をまるまる空けたのは予定があってのこと。

ホテル中央オアシス

先週と間取りは同じ

毎度の仕事環境を構築する

 

 

山王美術館に立ち寄る

 JR環状線に乗ると京橋まで、今日のコンサートはいずみホールで開催だが、その前にこの近くにある山王美術館の見学をしたい。山王美術館はホテルモントレグループが経営する美術館で創立者のコレクションを展示している。かつてはホテル内で展示されていたためか、公開が平日のデイタイムという堅気のサラリーマンではとても訪問不可な設定になっていたため、その存在を知りながらもずっとスルーしていた。それが昨年の秋に京橋に移転してリニューアルオープンと相成ったとのこと。ちょうど今日のコンサートが京橋だし、ついでに立ち寄ろうと相成った次第である。

山王美術館は寝屋川の対岸

美術館に到着

 山王美術館までは京橋の南口から近くの歩道橋で寝屋川を渡ったらすぐ。アクセスは決して悪くはない。内部は吹き抜けのらせん階段で5階まで、エレベータで5階まで上がってから階段で降りてくる形式。展示室は5階、4階、3階で(2階は事務所か倉庫か?)ある。5階では常設展として棟方志功の版画作品を展示。棟方志功が原石鼎の俳句に絵をつけた青天抄板画柵を展示。素朴で力強くて鮮やかなところがいかにも志功らしい。4階からは企画展になる。

 

 

「渡仏から110年 藤田嗣治展」山王美術館で7/31まで

 乳白色の肌で知られるエコール・ド・パリの画家・藤田嗣治の作品を、その最初期のパリ留学前から最晩年のパリ永住までを通じて展示。

 最初期の作品は戦争で自宅が全焼したために非常に珍しいものだという。友人に贈呈したものが所蔵品らしい。この作品自体は典型的な「多かれ少なかれ印象派の洗礼を受けた当時の画家」の作品であり、まだ後の藤田に結びつくような特徴はあまりない。

 その後、パリ留学で藤田は才能を開花させ、その際に例の藤田の乳白色にたどり着くのだが、乳白色の肌に墨で細かい描線を描くという典型的な藤田の作品が数点登場する。

 ただそのような藤田作品は生活の逼迫からブラジルに移住をする頃には変化する。この頃には結構厚塗りの油彩画なども描いたようである。

 その後、日本に帰国して戦争画なども描いたりするが、戦後は嫌気がさした(戦争協力の罪まで問われそうになったらしい)のかアメリカを経由してパリに渡り、ついにはそこに移住することになる。その時期の作品が子供や宗教的題材をモチーフにみっちりと描き込んだ一連の作品群だが、本館はその収蔵品数が多いのか、1フロアがまるまるその時期の作品であり、なかなかの見応え。

 私は実は乳白色の藤田はあまり好みでなく、むしろ晩年の子供などを描いた作品の方が好ましく感じる者であるので、前者が少なくて後者が多い本展の展示は非常に興味深かった。モントレの創業者の趣味が私に近いのか、それとも藤田の乳白色は世界的評価が高いので入手しにくかったのかは定かではないが。とにかく展示数が非常に多く、それが悉くこの館の所蔵品であるということには驚かされた。

 と言うわけで決して藤田が好きとは言えない私が、思いの外楽しめたのが本展であった。これは想定外。

 

 

夕食はOBPで

 美術館の見学を終えるとそのままプラプラと夕食を摂る店を探してOBPまで。しかし人の気配のないツイン21にはピンとくる店がなく、そのままプラプラとIMPまで南下する。IMPでは夕食時には若干早いのか、リモートワークスペースは人が一杯だが店の方はどこもあまり客がいない。一応端まで見学したが、今ひとつビビッとくる店はなく、結局は「信州そば処そじ坊」に入店することに。頼んだのはカツ丼のセット。そばが具なしで寂しいのでトッピングに揚げ餅をつける。

IMPにある「そじ坊」

 カツ丼の味は悪くない。まず私好みの味と言える。ただ問題はメインのはずのそば。温そばを頼んだのだが、そばつゆに味がなく茹でたそばをそのまま食べているような印象。天かすやら揚げ餅やらを投入してみたが、根本的に味が薄いのはどうにもならない。

カツ丼は悪くなかったが…

 そう言えばここで思い出したのは、以前に松本に行った時に食べたそばがこんな感じだったこと。そば食の多い信州は塩分の過剰摂取による高血圧で、県民の平均寿命が短いことが問題となり、県をあげて減塩に取り組んだと聞いたことがある。そのせいか、私の訪問時の松本のそばは妙に薄味だったようである。この店もその影響を受けているのだろうか。ただ塩分を減らすなら減らすでその分出汁を利かせるなどの工夫は欲しい。

 

 

 夕食を摂るとしばしこの原稿入力などしながらゆったりと過ごす。ボチボチ開場時刻になった頃にホールの方へ。いずみホールに来るのは関西フィルのいずみホール公演ぐらいなので久しぶりではある。こじんまりとしているが、関西フィルの特性にはマッチしているホールである。残念なのは先週の定期と同様にデュメイの負傷で来日が不可になったこと。デュメイによるモーツァルトのアンサンブルを聴きたかったのだが・・・。代役はパスカル・ロフェとのこと。果たしてどのような演奏を聴かせてくれるか。

久しぶりのいずみホール

 

 

関西フィルいずみホール公演

ややこじんまりとしたホール

指揮:パスカル・ロフェ
ピアノ:フランク・ブラレイ

モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136
モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271 「ジュノーム」
モーツァルト:交響曲第39番 変ホ長調 K.543

 デュメイのキャンセルにより一曲目はモーツァルトのヴァイオリンソナタからディヴェルティメントに変更。ロフェはデュメイの友人とのことで、話し合った結果この曲になったとのこと。関西フィルは正規メンバーを中心にした8-6-5-4-3の小編成となっているが、そのアンサンブルがホールのスケール感とも一致してなかなかに聞かせる。ロフェも心得たもので、美しい澄んだアンサンブルを聴かせ、実に気持ちの良いモーツァルトとなったのである。

 二曲目はブラレイをソリストに迎えてのモーツァルトの初期の傑作ピアノ協奏曲。このブラレイのピアノが非常にアクが強いのだがロマンティックで美しい。溜めたり揺らしたりと結構好き勝手な演奏をしてくるのだが、それでもしっかりと合わせてくるロフェは見事。結果としてなかなかにロマン派よりのモーツァルトになった次第。

 満場の拍手を受けてのアンコールがブラームスの4つの小品より間奏曲とのことだが、これが完全に枷の外れたかなりロマンティックな演奏。

 後半はモーツァルトの39番。前半よりはかなり力強さが前面に出る演奏となるが、それでもアンサンブルはしっかりと決まっている。なかなかに中身の濃い美しい演奏となった。ロフェはなかなかに関西フィルのツボを押さえているようであり、これはデュメイからも伝言されていたのだろうか。非常に魅力的な演奏となった。


 コンサートを終えるとホテルに戻る。入浴をしてから夜食を摂ると疲れが出てくる。明日は予定は比較的少ないし寝ることにするか。

 

 

この遠征の翌日の記事

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ライブ三連荘最終日は、ロイヤルフィルのとんでもない力量に圧倒される

いよいよ最終日

 翌朝は7時半に目覚ましが。しかししばし体が動かない。なんせ昨日は美術館回りで何だかんだで1万3千歩以上歩いていて、コロナ以降ほとんど運動していなかった私の体はガタガタ。しばしウダウダしてからようやく体が動くようになると、まずは風呂に湯を張る。

 体を温めるとようやく活動可能となった。昨日購入しておいたおにぎりを朝食にすると、とりあえずは原稿を1本仕上げてから荷造りをする。ホテルをチェックアウトしたのは10時前。

 さて今日の予定であるが、メインは午後2時からフェスティバルホールで開催されるロイヤルフィルのコンサート。それまでが空き時間ということになるので、とりあえずホール近くにアキッパで確保した駐車場に車を入れると、そこから地下鉄で移動、向かうは大阪歴史博物館。

NHK大阪と歴史博物館のツインタワー

 歴史博物館に入るととなりのNHK大阪で何やらイベントが開催中。どうやら朝ドラ「らんまん」のPRイベントの模様。イベントには興味ないので、それを横目に見ながら博物館の方へ。

何やらイベントが開催されている

それを横目で見ながらこちらに入場

 

 

 歴史博物館はリニューアルされたと聞いていたが、確かに展示室の構成が変わっている。以前は特別展の展示室は10階だったのだが、10階に上がると常設展がそこから始まっており、順々に降りていったら6階が特別展自室という構成に変わっている。

十階からは現在の大阪の町を一望

そして難波宮が再現されている

 10階はお約束の古代から始まる。土器などの展示から始まり、難波宮の復元模型などか展示されている。

古代と言えばお約束の土器

前期難波宮の復元模型

 9階に降りると中世ということになり、江戸時代などの大阪の町並みを再現している。

9階は中世の大阪

中世の町並み

これが江戸時代の船場だそうな

北前船の模型

当時の芝居小屋

 

 

 8階を経て7階が大大阪時代とのことで、古き良き戦前の大阪が繁栄していた時代の再現である。

8階は御堂筋だけ

7階が大大阪

市場の風景

そう言えばこういう店もあったな

歌舞伎座

往時の梅田電停

 常設展示を抜けると6階が特別展示室である。

 

 

「異界彷徨-怪異・祈り・生と死-」大阪歴史博物館で6/26まで

特別展示室は6階

 昔から人は災いなどを異界の妖怪によるものとして、それらを祀って鎮めたり、場合によっては逆に守護神に昇華させたりなど様々な対応を取ってきていた。そのような「異界」が現代よりも身近にあった時代を偲ばせる展示を集めている。

 最初はド定番の天狗の面に御稲荷さんの神棚である。いずれも妖怪でありながら、神の使いに昇華された例とも言える。

まずは天狗の面

稲荷神棚

 で、この次に唐突に登場するのが橋本関雪による屏風というのだから、今ひとつ分かりにくい展示でもある。まあいわゆる「邯鄲の夢」を描いた作品なので、妖怪ではないものの超常体験と言えばそうなるが。

橋本関雪の屏風絵が

 

 

 さらに妖怪のスターである龍やカッパも登場する。

妖怪界のスターと言えば龍

そしてカッパ

 道成寺のエピソードを元にした梵鐘型の兜などは、禍々しさの一方でなかなか洒落たセンスでもある。

道成寺をモチーフにした梵鐘型兜

 また妖怪は思いの外、日常生活に入り込んでいたようで、妖怪をかたどった土製の面子とか、芸能に用いれた面や人形なども展示。

土製の妖怪面子

さらには芝居用の面や人形

 

 

 後半は災い封じのいわゆる縁起物など。伏見山の土を作った猿の人形は縁起物だという。また伊勢神宮・石清水八幡宮・春日大社の三社を描いた目出度い掛け軸なども。

縁起物の伏見山の猿人形

三社をモチーフにした掛け軸

 それに五月の節句はそもそも子供が健康に育つことを祈っての行事であった。さらに西国三十三所霊場巡りで使用したというセタなるものも展示されている。

5月の節句用のアイテム

これがセタだそうな

 太古からの人と妖怪の微妙な関係を示す展示の数々であった。こういう趣向もたまには面白い。

 

 

昼食はカレーにする

 そろそろ昼時なのでどこかで昼食を摂りたい。とは言うものの、食欲はやや落ち気味であまりガッツリと食うという気力も。カレーでも食うかと思いついたのは「ミンガス」。梅田まで移動して久しぶりに立ち寄る。流石に以前の具なし朝カレーは悲しかったので、今回はロースカツカレー(860円)を頂く。

梅田のミンガスに立ち寄る

 相も変わらず懐かしい味である。特別に美味いカレーでもないのに、なぜか私には懐かしい。毎度のことながら奇妙な気がするんだな。ここのカレーを食べると。

ロースカツカレー

 

 

 昼食を終えるとホールへの移動だが、まだ開場までに時間があることと、地下鉄代の190円(それにしても上がったもんだ)をケチって、食後の腹ごなしもかねてホールまで歩くことにする。相変わらず日曜にはシャッター街化しているドーチカを抜けて肥後橋へ。20分とかからずにホールに到着する。

ホールが見えてくる

毎度の赤絨毯

 ホールは明らかに観客が多い。やはり辻井人気がすごいんだろう。さて私の確保した席だが、3階奥の隅の最安席。辻井付きの公演に高い席はいらないという原則に従ったのだろうが、今となっては良く確保できたもんだと驚く。

いわゆる完全な天井桟敷

 3階席を見回すと、4列目以降はほぼ埋まっているというところ。ただ不自然なのは前から1~3列が中央ブロックを除いてボッカリと空席なこと。いわゆる「S席の一番悪い席」が売れ残ったと言うところだろうか。チケットが辻井価格で割と高めだったことと、ロイヤルフィルの日本での知名度が一般的にはそれほどでもないという辺りで、辻井の力を持ってしても完売とは及ばなかったようである。

 

 

ロイヤルフィル大阪公演

指揮/ヴァシリー・ペトレンコ
ピアノ/辻井伸行
管弦楽/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

曲目/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番[ピアノ/辻井伸行]
   ショスタコーヴィチ:交響曲 第8番

 一曲目はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。辻井の十八番なのか演奏機会が多いように感じられる協奏曲である。あの印象的な冒頭であるが、オケが先行してからピアノが劇的に入るので、アイコンタクトの取れない辻井でも、冒頭でズレが生じる危険がないというメリットもあるように思われる。

 さてロイヤルフィルであるが、なかなかに良い音を出す。弦楽陣はシットリと安定感があり、管楽陣も引き締まったそれでいて柔らかい音色を出す。ペトレンコの指揮の下、統率のとれた音楽を繰り広げる。

 辻井のピアノは相変わらずキラキラとした演奏であるのは変わらないが、前回聴いた時から感じたのだが、最近になってやや早弾きの傾向が現れてきているように思われる。完全暗譜の上に曲自体に慣れていることから起こる現象だろうか。それが顕著だったのが第3楽章で、あの楽章はそもそもからテンポが上がりやすい要素があるんだが、辻井の演奏が進むにつれて速度が上がってきて、段々と後ろのオケがせわしなくなってくる感がある。ただそれでも崩れることなくペトレンコの指揮に合わせてくるのは流石と言うところか。いささか無手勝流になりかかっていた辻井を裏から上手く支えていた。

 辻井の真価が発揮されるのはやはりアンコール曲の方。曲目は知らないのだが(もしかして自作か?)なかなかしみじみと聞かせる。やはり辻井はすべてを自分で組み立てられるソロの方がしっくりくる。

 後半はショスタコの8番。前半を聞いただけでロイヤルフィルはかなりレベルの高いオケだと感じていたが、もう初っ端から唸らされる。「何という音を出すんだ・・・」思わず心の中で呟きが出る。とにかく弦の音色がとんでもなく美しい。16型の4管編成という巨大編成なので、普通のオケならどうしても少々ガチャガチャするものだが、そういう乱れが一切ない。弦の音色が完全に重なって1つの楽器として聞こえる。極めて純度の高い音色であって、不純物を一切感じさせない。これだけでも圧巻なのだが、管楽器の方は奏者の名人芸が光る。ところどころ入るソロセクションで、各奏者がとんでもなく美しい音色を出してくる。名人レベルの奏者にかかると、これらの楽器がこんなに美しい音色を出せるのかと呆れる次第。

 ペトレンコはこのロイヤルフィルのポテンシャルを最大限引き出したメリハリの効いた演奏を展開する。やはりスゴいのは強弱の振幅。ショスタコは聞こえるか聞こえないかという最弱音から、まるでヒステリーのような乱痴気騒ぎの最強音までとにかく触れが激しいのだが、ペトレンコはまさにそれをそのまま表現する。最弱音は耳に聞こえるかどうかというレベルまで絞り、最強音はまさに騒音になる寸前。しかしそこまで弱音を絞れるのも、それだけの強音を出しても割れたり濁ったりという耳障りなことにならないのも、すべてロイヤルフィルの力量。ペトレンコはそれを把握した上でコントロールしているようである。

 結局はこの凄い演奏に飲まれて、正直なところ曲のことは全く知らない上に普通だったらそう面白いと感じない可能性の高いこの曲を、最後まで全力集中で聞き入らされてしまったのである。思わず溜息が漏れてしまった。なんて演奏をするんだ。


 これでこの週末ライブ三連荘は終了。やはり最後の最後にとてつもないものを聞かされたという印象である。ロンドン交響楽団などにも似たような圧倒的なものを感じさせれられたことがあるが、やはり英国の歴史は侮れないか。

 

 

この遠征の前日の記事

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「毒」展、高島屋資料館、藤田美術館の見学後に大阪フィルの定期演奏会へ

大阪美術館巡り開始

 翌朝は7時半に目覚ましで叩き起こされた。朝から体が重くてだるいのは毎度のこと。とりあえずは入浴でエンジンをかける。さて今日の予定だが、メインは15時からの大フィルの定期演奏会がフェスティバルホールで。ただそれまでに大阪地区の美術館を回ろうという計画がある。

 9時頃にホテルを出るとまずは地下鉄御堂筋線で長居に向かう。最初は久しぶりに市立自然史博物館を訪問する予定である。長居で降りるとかなり大勢がゾロゾロと私と同じ方向に向かっている。まさかこれが全員同じ目的地じゃないだろうなと驚いたが、どうやら途中のスタジアムで何かが行われる模様で、大半の歩行者はそちらの方向に。

歩行者が多数

 やがて目的の博物館に到着するが、ここで行列に出くわす。結構混雑している模様で、会場内も押し合いへし合い。これは想定外。

博物館へ到着したが

入口前はこの大混雑

 

 

特別展「毒」大阪市立自然史博物館で5/28まで

 自分の身を守るため、もしくは餌をとらえるためなど、自然界には様々な理由で毒を持つ生物が存在するが、そのような「毒」に注目した展覧会。

 まず最初は毒でありながら人間には毒と認識されていない代表として「玉ねぎ」「カカオ」などが登場する。これらのいずれも人は食用に使用するが、犬・猫などには毒であることは知られている。人は結構悪食であるようで、これらの毒を食用出来るように対応したのである。何しろかなり強い毒であるカプサイシンさえ摂取するのであるから。

カプサイシンは結構な毒

 巨大蛇とスズメバチの模型がいきなり登場する次のコーナーは、自然界の様々な毒を持つ生物を紹介していく。

毒と言えば蛇

それにスズメバチ

 

 

 まずは植物毒の定番のトリカブト辺りから始まって、やはり毒と言えば蛇である。中にはヤマカガシのように自身では毒を作り出せず、有毒のカエルを捕食することで毒を蓄える種もある。

まずは蛇

禍々しさがある

 ハチについては、刺された時の痛みを数値化したシュミット指数なるものが登場。ただ最強のレベル4になると、痛いというよりも遺体になりそうなのだが・・・。

シュミット指数1はこの程度だが

レベル4になるとこうなる

 

 

 毒性爬虫類からはコモドオオトカゲ。この図体で毒まで持つとはまさに凶悪なトカゲである。

コモドオオトカゲ

 海洋生物からは、やはり毒と言えばフグ。そしてイモガイことアンボイナ、そして海水浴で要注意のアカエイが登場。

フグ

アンボイナ

エイ

 

 

 さらに有毒の哺乳類としてカモノハシ。そして鳥類からは伝説の鴆毒(ちんどく)のモデルになったのではと言われているズグロモリモズが登場する。

カモノハシ

ズグロモリモズ

 つづいて、やはり毒キノコに毒を作り出すカビ、最後は無生物で鉱物毒まで紹介されている。

毒キノコの代表ベニテングダケ

毒を作るカビ

水銀やヒ素などの鉱物も毒

 

 

 最後は愚かにも人が生み出した毒物である。マイクロプラスチックやDDTが挙げられている。

人が生み出した毒

 しかし自然界もさるものである。あえて毒があるものを食べることで、競合生物をなくして生存競争を生き残る戦略を取った生物もいる。有毒のユーカリを食べるコアラに、猛毒のコブラを捕食するラーテルなど。

毒のあるユーカリを食べるコアラ

コブラを捕食するラーテル

 

 

 最後は人が利用した毒。薬としても利用されたストリキニーネなどが登場。さらにアイヌの毒矢も展示されている。そして蚊取り線香なども。

ストリキニーネの分子構造と原料のマチン

アイヌの毒矢

御馴染み蚊取り線香

 そして悪食の人類は毒のある生物でさえ、無毒化して食用にしている。血液と粘液に毒性のあるウナギ(これは知らなかった)は加熱することで無毒化し、フグは毒性部位を除去することで食用にし(確かにテッサは美味い)、青酸を含むキャッサバは水にさらしてタピオカでん粉となる。

ウナギも有毒らしい

危険なフグまで食う

タピオカ原料のキャッサバも有毒

 意外なほどに有毒生物は存在するのだなと感心したが、結局のところ一番毒々しいのは実は人間だったのではという結論にたどり着かざるをえなかったのである。

 

 

高島屋東別館へ

 博物館を後にすると、途中でホテルに忘れ物を取りに立ち寄ってから、そのまま日本橋へ移動。次は高島屋東別館に立ち寄ることにする。ここの3階にある高島屋資料館で「FROM OSAKA~百貨店美術部モノガタリ~」という企画展が開催中とのことである。

 途中で黒門市場の前を通るが、外国人観光客がゾロゾロである。なお「松本清」という幟が見えたので選挙か何かかと思ったら、「マツモトキヨシ」だった。中国人向けの看板か。

「松本清」は最初は意味が分からなかった

 そう言えば周辺にはやけに中華料理屋やラーメン屋が多い。日本に来て和食を食べたいという中国人観光客向けなんだろう(ラーメンとカレーライスは今や和食の代表らしい)。これらを抜けて重々しい建物が見えてきたら、そこが高島屋東別館。

高島屋東別館

 

 

 高島屋東別館は建物自体が文化財である。なお往年の風景の残るエレベータホールなどもある。

入口からこの趣

エレベータホール

 企画展では高島屋絡みの美術品を展示。意外に現代に近いアートが多い。目玉は北野恒富による「婦人図」のポスター原画。なお併せてコスプレ芸術家こと森村泰昌によるコスプレ作品も併せて展示されている(残念ながら撮影不可)。

高島屋のキャラクターのローズちゃん

平櫛田中による有徳福来尊像

 

 

 資料の方にはかつての高島屋の模型などもあり、意外に面白い。展示数は決して多くはないが無料の展覧会としては十分だろう。

高島屋の模型

意外といろいろ展示がある

 

 

 資料室を一回りして降りてくると、一階にフードコートのようなコーナーがあるので少し覗く。「淡路島バーガー」の看板が目に飛び込んできたので何となく惹かれてブランチと洒落込む。注文したのは淡路島バーガー(850円)+サイドとドリンクのセット(400円)。

フードコートの淡路島バーガー

 パテはキチンと牛肉の味がするし、淡路島バーガー最大の売りであるタマネギはまろやかで良く馴染む。まあ概ね美味いバーガーと言えよう。もっともこれで850円はやはりCPが悪い。いくら美味いバーガーでも、これでモスバーガーの2倍の価値があるかと言われると・・・。

淡路島バーガーのセット

当然ながら玉ねぎ入り

 さすがに高級百貨店高島屋はフードコートも高かったようである(笑)。つくづく私は逆立ちしても百貨店の上客にはなれないタイプである。

 

 

 高島屋を後にすると次の目的地へ。次は最近リニューアルオープンしたという藤田美術館。以前はかなり地味な美術館だったが、いかにも現代風にリニューアルしたとか。地下鉄と東西線を乗り継ぐと、美術館自体は大阪城北詰駅の出口からすぐだが、そこに向かうのに微妙に遠回りする必要があるのと、東西線がバカみたいに深いところを走っているせいで、延々と階段を登らされることになる。情けないことに途中で息が切れる。こりゃ体が悪くなったらくるのは無理だな。

ガラス張りの藤田美術館

 新装なった藤田美術館はガラス張りの近代的な建物。しかし内部に入っても券売所がない。どうやら係員に声をかけてクレジットなどで決済をしてから、解説にアクセスするためWi-Fi設定やアクセス設定などをするようになっている模様。いかにも現代的だが、スマホ必需で正直なところ年配には優しくない設計である。

展示室はこの扉の奥だが

 

 

藤田美術館

 展示室を3つに分けて、装、旅、禅とテーマを付けた展示を行っている。

 まず最初の装は、肉筆浮世絵の「立美人図」から始まり、能装束などが展示されている。

立美人図

これは能装束

 また印籠や茶道具の棗などの展示もあり。

印籠

 

 

 次の旅のコーナーは山水図や漁船の香合

山水図

舟の香合

 さらに玄奘三蔵の旅を描いた国宝の絵巻や西行物語図など。

玄奘三蔵の絵巻

西行物語図

 

 

 最後の禅のコーナーは日本に3つしかない曜変天目茶碗が展示。

国宝の曜変天目

 さらに油滴天目、兎毫盞天目茶碗も併せて展示されている。

油滴天目

兎毫盞天目茶碗

 展示室はここまでで、これを抜けると藤田邸跡公園に出ることになっている。落ち着いた良い趣の美術館である。展示品見学後は茶でも頂いてマッタリしようかと思っていたのだが、喫茶には行列が出来ている状態なのでもう2時前で時間にそう余裕もないことから、諦めてホールに移動することにする。

藤田邸庭園

 

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 第568回定期演奏会

コントラバスが左に配置

指揮/アンガス・ウェブスター
ピアノ/小林海都

曲目/ブラームス:悲劇的序曲 作品81
   ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 作品21
   チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」

 最初はブラームスの悲劇的序曲から。ウェブスターの演奏は若さ溢れるというか、最初からガンガンと行く印象である。非常によくオケを鳴らしているという感を受ける。ただし元気は良いのだが、いささか緊迫感に欠けるところがある。この曲の場合、冒頭の動機でバシッと決めて欲しいのだが、そこが決まりきらない感がある。結局は悲劇的というよりは悲劇をぶっ飛ばす曲という印象。

 二曲目はショパンのマイナーな方のピアノコンツェルトである。これは小林のピアノの見事さに尽きるだろう。最初から軽快でありながら、それが軽くなりすぎず十二分な情感を秘めており、音色は甘美。実に魅力的な演奏である。当然のように演奏技術には全く危なげがないが、それをひけらかすタイプの演奏ではない。

 その小林のすごさはアンコールのショパンのノクターンでさらに遺憾なく発揮された。ニュアンスを含む深い音色は観客を聞き入らせるものがあり、将来の巨匠の風格さえ感じさせた。

 後半は悲愴だが、残念ながらこの曲についてはポリャンスキー/ロシア国立交響楽団やゲルギエフ/ウィーンフィルの超名演が頭に焼き付いてしまっている私にはいささかキツイというのが本音。ウェブスターは彼なりに曲に起伏をつけてメリハリを効かしているのだが、どうしてもそれが一段甘い印象。ポリャンスキーらの超名演が人生の苦悩を叩きつけてくるような演奏だとしたら、ウェブスターの演奏はせいぜい若者の癇癪レベルに聞こえてしまう。力でグイグイと押してくる第3楽章などは、持ち前の前進力溢れる演奏でまずまずだったのだが、どうしても第1,4楽章になるともう一段の緊張感が欲しいところ。さすがに若きウェブスターにそこまで完璧に大阪フィルを掌握しろというのは酷だとは思うが。

 

 

夕食は近くの定食やで

 コンサートを終えるとホテルに戻って入浴。しっかり汗を流してから夕食に繰り出すことにする。ブランチがハンバーガーだったから、洋食系を食べる気はしない。ガッツリと白ご飯を食べたいという気持ち。というわけで結局はちかくの「らいらいけん」に。日替わり定食(ニラ玉にエビフライと一口カツ)を注文。

らいらいけん

小鉢のスパサラダを頂く

日替わり定食

 ニラ玉が美味いのが予想外。ニラは嫌いな私が言うのだから間違いない(笑)。ニラ玉がこんなに美味いとは。小鉢1つがついて800円。例によっての無敵のCPである。

 夕食を終えるとホテルに戻ってくると原稿入力作業。こうしてこの夜は更けていく。

 

 

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関西フィルの定期演奏会は、デュメイの代演で美女ヴァイオリニストの荒井里桜と指揮はキンボー・イシイが登場

週末コンサート三昧

 この週末は大阪方面へコンサートに出向くことにした。初日は金曜日の夜。毎度のように車での移動だが、今日から阪神高速の京橋ー摩耶が工事通行止めとのことなので大渋滞は必至。普通に出たのではまず遅刻は確実と思われるので、普段よりも1時間早く仕事を終えて大阪に向かうことにする。

 早めに出発したおかげもあって阪神高速は京橋手前までは順調だったが、案の定京橋出口から大渋滞。しかも下に降りてからも下道が大渋滞で進まない。多くの車が抜け道を探してウネウネと走っている状況。結局はここのところでかなり時間と精神力をロスることになる。それでも大阪に到着した時には予定よりはそう大きな遅れがない。予定よりも大きく遅れるならホールに直行するつもりだったが、余裕があるのでホテルに行って車を置いてくることにする。この方が駐車場代の節約になる。

 今日の宿泊ホテルは毎度毎度のお約束のホテル中央オアシス。新今宮界隈の高級ホテルである(元より星野グループのような超低CPホテルは私の眼中にない)。

毎度毎度のホテル中央オアシス

 駐車場に車を置くと、いつものセパレートシングルに。毎度の事ながら、このホテルは宿泊する度に微妙に室内のレイアウトが違う。とりあえず荷物を置くとサクッと仕事用セッティングを済ます。動作を確認して一息ついたところで外出することに。

毎回微妙に部屋のレイアウトが違う

仕事用セットアップ完了

 

 

 ホールへはJRで移動する。車内には完全に緩みきっている危ない輩もいるが、とりあえず満員電車という状況ではない。福島で降りるとホールに着く前に夕食。全くもって何の工夫もないが、今回も立ち寄ったのは「福島やまがそば」である。頼んだのはそばセット。それにしても恐ろしいほどに行動パターンが定まってしまっている。もし私が命を狙われたら、ゴルゴに待ち伏せされて一発でチュドンである。まあ私がVIPになることはあり得んが。

毎度毎度毎度の福島やまがそば

 てんぷらそばが空きっ腹に染みる。もう少し元気があればガッツリとラーメンが欲しくなるところだが、ここのところ急に来た暑さのせいで早くも夏バテ気味である。

そばセットを頂く

 夕食を終えるとホールへ。大阪への移動中には散々豪雨にさらされた(スリップが怖いぐらいの)が、幸いにして雨はあがっている。なお今日のコンサートは本来はデュメイが指揮と独奏のはずだったのだが、何回目か忘れた足の故障で来日不可。代演は指揮者がキンボー・イシイでヴァイオリンは美人ヴァイオリニストとして有名な荒井里桜とのこと。デュメイの妙技を堪能するつもりが、妙齢の女性ソリストのビジュアル系コンサートになってしまった。

雨上がりのザ・シンフォニーホールへ

 

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 第337回定期演奏会

今日は14型拡大編成

[指揮]キンボー・イシイ
[ヴァイオリン]荒井里桜
[ヴィオラ]マニュエル・ヴィオック=ジュード
[管弦楽]関西フィルハーモニー管弦楽団

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 op.98

 一曲目はモーツァルトの二重協奏曲。8編成の関西フィルをバックに荒井とヴィオック=ジュードのソロが光る。なお8編成となったら室内楽的アンサンブルを期待するところなのだが、関西フィルのアンサンブルはそこまで精度が高くない上に、指揮のキンボー・イシイもアンサンブルの精度を上げてくるよりは、ガンガンと力強く奏でるタイプのアプローチである。

 ソリストの荒井里桜は見目麗しいのは今さら言うまでもないが、その音色の方も美しい。テクニックについては今回はあまりテクニックが正面に出てくるタイプの曲でないので、やや地味な演奏になった感はある。またヴィオラのヴィオック=ジュードは若干のクセのある音色ではあるが、かなりシッカリとした演奏をする。

 細かいところでキンボー・イシイや荒井里桜の演奏に不満は全くなかったが、細かいところで急遽の代演だなと感じさせるところはあった。というのは、今回の8型編成で恐らくデュメイは精緻な室内楽的演奏を披露するつもりだったのだろうと思うし、ヴィオック=ジュードの若干のクセはあるが力強い音色は、同じく若干のクセがあるデュメイと合わさった時の方が効果は大きかったろうと感じさせる。という点で、突然のデュメイのトラブルはつくづく残念だったわけではある。

 後半はキンボー・イシイによるブラームスの交響曲第4番。一曲目を聴いた時から何と なく予想できたが、イシイはオケをブイブイと鳴らしてくる。第1楽章の細波のような冒頭はまさにうねるような音楽を展開する。当然のように第3,4楽章辺りはかなりガンガンと来た音楽。14型2管編成の拡大版関西フィルをかなり派手に鳴らして、イシイもノリノリの熱演である。

 まあ総じて演奏としては悪くないのであるが、やはりデュメイの鳴らし方とは根本的に違うなというのは感じた。デュメイだったら恐らくもっとネットリシットリとした鳴らし方で来るだろうことが予想でき、現在の関西フィルのサウンドはそちらの方向で進化している。そのために今回のように豪快にバンバン鳴らしたら、若干の荒さも出てしまうというところがある。まあその辺りが現在の関西フィルの限界でもあると感じられる。


 コンサートはサクッと9時前には終了、ホテルに戻ると入浴。すると疲れが一気に出てくるのでこの日はやや早めに就寝する。

 

 

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関西フィルで藤岡によるヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番

GWは無関係だが、とりあえず関西フィルのために大阪へ

 GW突入であるが未だにコロナは健在だし、何より今の私は極度に金欠だしということで、今年のGWは「何、それ美味しいの?」状態である。ただ今日の関西フィルの定期演奏会はチケットを事前に購入していたので大阪まで出向くことにする。

 大阪までJRを使えば安上がりなんだが、流石に未だにコロナ健在下で混雑する鉄道を利用するほど無謀になれないので、無難に車で移動することにする。ただ何分GWとのことで交通状況がどうなるか分からない。いつもよりは早めに出発したんだが・・・どうやらGWということが普段と逆に働いたようで、阪神高速はいつになくスムーズ。いつも大渋滞のせいで通過に何十分もかかる若宮IC-生田川IC間が実は数分で走れるんだということを初めて知った次第。予定よりは早めにザ・シンフォニーホールに到着する。

 

 

昼食は久しぶりにイレブンへ

 とりあえず車は事前に目星をつけていた駐車場に放り込むと、まずはコンサートの前に昼食を摂ることにする。まだ開場まで時間があるので昼食はゆったりと摂りたい。というわけで久しぶりに訪れのが「レストランイレブン」。この時間はランチがあるのだが、あえてそれでなくて「珍豚美人(チントンシャン)」を注文する。

久しぶりのレストランイレブン

 ふざけた名前のメニューだが、要は豚肉の天ぷらに豆板醤ベースのソースをかけたものである。これが絶妙に美味い。流石にこの店の看板メニューの1つとは伊達に言われていない。肉もなかなかに良いし、私は決して好きとは言えない豆板醤がこの場合にはシックリと馴染んでアクセントになっている。

これが「珍豚美人(チントンシャン)」

 久しぶりに昼食を堪能したのである。ところでこの店、将棋会館の移転に伴って移転するという話を聞いていたのだが、目下のところは通常営業中。調べてみたところ、どうやら移転しないということに決定したらしい。これは私にとっては幸い。

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再開された喫茶でマッタリする

 昼食を終えた頃には開場時刻となったのでホールに向かう。生憎と小雨がぱらつき始めているのでホールに急ぐ。ホールは完全に「コロナは終わったモード」に突入していて、ゲート前の消毒もなくなっている。

生憎小雨がぱらつく天候

 また喫茶の営業も復活した模様である。とりあえず開演までまだまだ時間があるので、かなり久しぶりのコーヒーを頂きながら時間つぶし。

久しぶりにコーヒーでマッタリ

 久しぶりにマッタリゆったりと時間をつぶしたところで入場する。今日はやはりマイナー選曲とあってか入場者は少なめで、ザッと見たところ6~7割程度の入りといったところ。

 

 

関西フィルハーモニー管弦楽団 第336回定期演奏会

[指揮]藤岡幸夫
[チェロ]長谷川陽子
[管弦楽]関西フィルハーモニー管弦楽団

田中カレン:ローズ・アブソリュート
田中カレン:アーバン・プレイヤー(都会の祈り)
~チェロとオーケストラのための
ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番 ニ長調

 コンサートの前半は現代音楽作曲家・田中カレンによる2曲。ただし現代音楽といっても、彼女の曲は無調性の奇っ怪な雑音をドンシャンやるタイプの曲ではなく、普通に美しい曲であって非常に馴染みやすい。

 一曲目は同名の香水にインスパイアされたという曲。冒頭からピアノとハープによるキラキラとした音楽が繰り広げられるが、それがまさに香水瓶を開けたときのイメージか。それがオケ全体に広がっていって、美しいハーモニーを奏でることになる。

 二曲目は現代社会における「祈り」の姿のようであるが、第一楽章は都会の喧噪に紛れたかなり喧しい音楽であり、第二楽章以降がその中で静かな祈りへと移行し、最後は盛上がりつつ、最終的な静寂へと至るという風景のようである。特別な難解さはなく、普通に美しい音楽に身を任せれば良いタイプ。

 ここでの関西フィルの音色は、アンサンブルもしっかりとしており、音色もなかなかに瑞々しい。下手な虚飾のない素直な音楽で好感が持てる。

 後半はヴォーン・ウィリアムズが戦争中に書いたとされる交響曲。しかし曲の中には戦争の影は微塵もなく、終始一貫として美しい田園的な音楽が展開される。

 こういう曲になると関西フィルの柔らかい弦楽陣のアンサンブルが見事に決まっている。また管楽陣も下手にバリバリと出張ることがなく抑制的にバランスを良く取っており、非常に心地よい音楽が繰り広げられた。正直なところ私はヴォーン・ウィリアムズはあまり良く知らないんだが、非常に美しい曲であると感心した。ちなみに藤岡はこの曲が好きだと言っており、調べてみると2017年の第283回定期演奏会でもこの曲を演奏している。そしてこうして今回聞いてみると、やっぱり「なかなか良い曲じゃん」というのが私の正直な感想。